特別編

Power Macintosh G3シリーズ
Apple社が昨年末に発表したPower Macintosh G3シリーズは、PowerPC 750(通称PowerPC G3)を搭載した新世代Macの第一弾だ。ミドルレンジながら、これまでのハイエンドモデルに匹敵する性能を発揮し、しかもWintelマシンをしのぐコストパフォーマンスを達成したPower Mac G3は、まさに一般的なユーザが待ち望んでいた優れモノと言える。ここでは、その意義と展望を再確認してみよう。
大谷和利氏

「Mac OS 8以後」を力強くサポート

 これは、G3 Macに触れた人すべてが口にすることだが、まず使ってみて感じるのは、とにかく速いということである。
 これまでにも、モデルチェンジの際に単に速くなったと言われた製品は多々あったが、CPUの進化の恩恵がこれだけストレートに反映されたモデルは近年なかった。個人的な経験で言えば、ひと昔前にMacintosh Plus(8MHzの68000)のユーザだった頃、Macintosh II(16MHzの68020)を使って同じようにその速度差に感心した覚えがある(もちろん、絶対的な処理能力自体は現在とは比べるべくもないが…)。
 考えてみれば、その後も68系Macの時代には、CPUが68020→68030→68040と進化するたびにそれなりのパフォーマンスのジャンプが見られたように思う。しかし、逆にPowerPCを採用してからは、小刻みな周波数の増加のほうが目立っていた。確かに数回のモデルチェンジをまとめればそこに大きな性能差を認められるにしても、一度でガツンと来るような跳躍は久しぶりのことなのだ。
 世間的には色々なベンチマークも出ていて、それはそれで特定のソフトを利用している人には意味を持っているが、一般ユーザが最も体感できる部分としては、ファインダー操作の快適さが挙げられるだろう。特に複数(数枚ではなく数十〜百数十枚レベル)のウィンドウをOption+クローズで一気に閉じた場合のスピード(ほぼ一瞬で終了)や、ファイルのドラッグ&ドラッグによるポップアップウィンドウのオープニングスピード(ズルズルと出てくるのではなく、まさにポップアップ)などは、G3の威力を簡単に実感できる部分だ。
 後者の例は、G3 MacがMac OS 8以降の最新OSに最適なシステムとして構築されていることを物語っている。Apple社は伝統的にハードウェアに先行してOSの機能強化を行ってきた歴史があり、それは目先のスピード感よりも本当の使い易さにつながる技術をいち早く確立することを念頭に置いているからなのだが、時として既存のハードウェアでは処理が重いと感じられることもあった。今後は、Mac OS 8.1でファイルシステムが拡張されたり、Allegroで場合によってはフルマルチタスク化されることが予想されているなど、システムがより高機能化してCPUの負担も増大する傾向にある。その意味でもG3 Macは、ポストMac OS 8を睨んだ心強いラインナップと言えるだろう。
 さらに、アプリケーションの起動時間の短さも特筆もので、デモではDT266モデルを使ってMicrosoft Officeに含まれるWord、Excel、PowerPointの3つのアプリケーションを連続して立ち上げ、その場合でもトータルで5秒もかからない点をアピールしていた。マシンの電源がほぼ入れっぱなしとなる会社ではともかく、起動と終了を繰り返すことの多い個人ユーザには、このあたりのメリットも無視できない部分である。

位置付けはミドルレンジながら別次元の性能

 さて、G3 Macの第一弾として発表されたのは、DT233(233MHzのデスクトップモデル)、DT266(266MHzのデスクトップモデル)、MT266(266MHzのミニタワーモデル)、PowerBook G3(250MHzのノートモデル)の4種類である。PowerBookを除けば、これらのモデルは従来のApple社の製品ラインでは筺体的に見てミドルレンジの製品だと言える。  しかし性能の比較となると、CPUレベルでは266MHzのG3で300MHzのPPC604eに匹敵し、現実の機種同士だとDT 266/MT 266で既存の350MHzのPPC604e搭載Macを凌ぐ性能を発揮する。処理性能だけを見れば、もう立派なハイエンドマシンのパフォーマンスなのである。  別の見方をすると、これは用途や設置場所のために性能で妥協しなくても良くなったことを意味している。従来は、本当に高性能なMacが必要な場合には、ユーザの部屋の事情や机上の環境とは関係無しにタワーもしくミニタワータイプのモデルを選択せざるを得なかった。しかしG3 Macシリーズでは、性能とスタイルをある程度切り放して、自分に合ったマシンを選べるようになったのだ。  一方でPowerBook G3に関しては、一時はPowerBook 3400を置き換えるのではと言われていたが、結局、そのさらに上位に位置する名実ともにトップモデルとして登場した。これは、Wintel陣営が採用しているPentium系のプロセッサでは、消費電力と発生する熱量の関係からこれほど高性能なCPUを搭載したノートモデルを開発できないので、Apple社としてもしばらくは価格競争に踏み込む必要がないと判断したのだろう。  一見これは、一般ユーザーにとっては理不尽な決定に思える。G3のパワーを据え置き型のMacと同様に解放しても良いのではないだろうか、と。しかし、Apple社がより健全なビジネスモデルを構築できるようにしていくためには、高価格・高付加価値戦略も一部に残すことを認めても良いように思う。  また、Apple社としてできうる限りのG3プロセッサを集めてG3 Macの生産に備えているとは言え、当初はIBMとMotorolaのCPUのG3の供給体制が完全には整っておらず、人気のあるPowerBookのミドルレンジに投入してしまうと数が不足する可能性もあった(CPUのクロックスピードにはある程度の幅が持たされており、PowerBook G3に搭載されている250MHzのチップも実際には他のクロック周波数のものとある程度の流用性があることを認識すれば、この意味が分かる)。  したがって、PowerBook G3は今でこそモバイルプロフェッショナルのためのマシンという位置付けをされているものの、プロセッサの供給に余裕が出てくるに従って、やはりミドルレンジの製品も登場してくるはずだ。  いずれにしても、G3 Macを既存のPower Macintoshのラインナップとはやや異なる存在としたのは、前述のように既成の製品階層から外れる点と、G3というキーワードをそのパワーとともに業界や世間に知らしめるためである。そしてApple社のマーケティングは、今のところうまく成功していると言えるだろう。


DT233はとりあえずの1台としても最適

 そこで、G3 Macは特にどのようなユーザにとって魅力的か、ということなのだが、Apple社はターゲット層を「プロシューマー」という呼び方でカテゴライズしている。プロシューマーとは「プロフェッショナル」と「コンシューマー」を組み合わせた造語で、両者の中間的な存在、すなわち、「ある程度クリエイティブな作業も行うハイレベルな一般ユーザ」といった意味合いである。  これは、逆に言えば本当のハイエンドなプロフェッショナルユースには物足りない部分もあるということにもなる。たとえば、既存のハイエンドラインではPCIスロットが6基備わり最大搭載可能RAM容量も768MBはあるのに対し、G3 Macではデスクトップ/ミニタワーモデルともにそれぞれ3基と384MBに制限されている。  また、G3プロセッサのパフォーマンスはバックサイドキャッシュの効能によるところも大きいため、キャッシュ効果を期待できない処理(QuickTimeムービーの圧縮など)の場合には、同一周波数のPPC604eと同程度の性能となる。  しかし、これらの制約をここに列挙したのは決してネガティブな意味からではない。読者の皆さんならすでにお分かりのように、そろそろユーザとしても単純なハイエンド指向ではなく、自らのニーズに即したベストでリーズナブルな1台を見つける方向で機種選択を行う時代が来ているのだ(その意味での「大人のユーザ」=「プロシューマー」でもある)。  したがってそういう観点から見れば、DT233などは非常にコストパフォーマンスに優れたモデルとして初心者からベテランユーザまで一般ユースに幅広くお薦めできるし、実際に販売店でも一番人気のようだ。あとは、必要とする性能や機能(ビデオ入出力の有無)、ストレージ(内蔵ZIPドライブの有無やハードディスク容量の差)を考慮して、DT266やMT266を選択すれば良い。  また、CPU性能で266MHzのG3が300MHzのPentium IIを凌いでいることから、Macに興味を持っているWindowsユーザの最初の1台としても期待を裏切らないベストな1台になるだろう。  PowerBook G3は価格的にも70万円以上と特殊だが、従来の世界最速機であったPowerBook 3400と比べても2.2倍のパフォーマンスを持ち、G3と同価格帯のWintelノートも半分以下の性能であることを思えば、実は相対的にはむやみに高いわけではない。今のところは、この価格でもペイできるユーザ(プロのグラフィックデザイナーや3Dイラストレーター、プレゼンテーションスペシャリスト)が購入すればそれで良く、一般的には近い将来に登場すると言われる次世代G3ノート(コードネーム「Wall Street」と「Main Street」)が普及型としての役割を担うはずだ。

意味を持つG3 Mac

 Power Mac G3は、新型機の常として一部のドライバソフトなどに問題が出ているようだが、アメリカでの好調な販売も手伝ってそろそろ解決されて来る頃だ。  それよりも、購入してすぐにそのハイパフォーマンスの恩恵が得られることと、今後登場する新世代Macの原型となっている点で、初代Power Macの以上の意味を持つシリーズだということができる。  近い将来には、一体型のエントリーG3モデルや、更に拡張性に優れたハイエンドG3モデルを登場してくるだろう。一つだけ、今後登場するモデルで気になる仕様はDVD-ROM/RAMドライブの搭載で、この点を重視する人はそういう新機種を待ったほうが良いかもしれない。しかし、きちんと見定めて購入すれば現在のミドルレンジシリーズがすぐに内容的に古くなることはないだろう。

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