AIは何を予言するか?

 未来学者のアルビン・トフラー氏は1997年を未来に対して記録すべき年と位置づける。それは哺乳動物のクローニング、 ソジャーナの火星表面探査、チェスの世界チャンピオンがIBMの人工知能ディープ ブルーに敗れたことという3つの事件を評価してのことである。人工知能、いわゆる AIの発展が「歴史的な事件」とされた。 今までSFでしかなかった「人間のように迷い考えるコンピュータ」が登場する 時代が来るのだろうか。その時、個々の 人が、時代の流れに翻弄されてゆくのではなく、自分達の意志で、時代を創ってゆくのではないだろうか。

 1997年、チェス界では「最強の人間」カスパロフがIBMのコンピュータに敗れるという事件が起きた。 視野を広げてボードゲーム界を見ると、現在五目並べ、オセロはすでにコンピュータが人間を超え、将棋は十数年後にはコンピュータが人間より強くなる、と予想されている。今のところ人間の地位が安泰なのは囲碁くらいなものだが、それでも21世紀中には超え得るだろうと考えられている。コンピュータという機械がボードゲームという「思考」の必要とされる分野で人間を負かすという現象。これはAI、人工知能の研究の成果である。人工知能が的確な判断を行えるようになり、産業などの世界に進出してくれば人間の生き方そのものが大きな変革を迫られることになる。そのような事態に直面したとき、私達はどう生きてゆくのだろうか。
 人間の日常は「判断の連続」であるといえるだろう。単純にいってしまえばAIの役割はこの判断を行うことである。
本来コンピュータの役割は計算であるが、判断とはある事態についてどの選択肢が一番優先するに足りるかという評価をすることであるから、数値化して「計算」することが可能であるという理屈が成り立つ。単純化すれば、2つの変数の大小比較というような亊で、これはプログラムを少しでもかじったことのある人なら必ず「コンピュータにやらせている」亊である。では、チェスなどのボードゲームで、コンピュータはどのような判断を行うのだろうか。
ai  「次の一手」という訓練方法(?)がボードゲームにはある。ボード上にある条件が与えられていて、それに対して次にどこに打つのが正解か、ということを考えるものである。コンピュータはこの「次の 一手」を二手先、三手先…というように 考えてゆくのである。当然先を考えようとすればする程、どこに打つのかという選択肢は増えてゆく。チェスの場合、一手先の局面まで読もうとすると、選択肢は平均で40倍ずつ増えるそうだ。つまり三手先までの可能性を考えると、64000個の可能性を考えなくてはならない。ここでコンピュータが行うのは、データとして持っている過去の譜面などから、あらゆる選択肢を評価して最適なものを判断する、という仕事である。カスパロフを負かしたコンピュータ「ディープ・ブルー」は一手指すのに約3分ぐらい考える。そしてこの3分の間にだいたい十四手先までを検討するのだ!最強のプレーヤー・カスパロフでさえも実際に3分で思い浮かべられる局面の数は360から540。それに対してコンピュータは場合によっては百億を超える局面をたった3分の間に評価してしまうのである。その結果「人間がかなわない」領域にまで判断能力を高めてしまった。もっとも敗れたりとはいえ、カスパロフはそのコンピュータと十分勝負になる戦いを行えるのという点は「人間のすごさ」といってもよいだろう。

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