「セルだと時間の経過によってどうしても色が褪せてしまうという欠点があったのですが、デジタルではそういうことが全くありませんから、クオリティを保つということでは優れていますね。結果がモニターで見るのと多少違うというのが苦労する点ではありますが。」と望月さん。 それにしても大胆な決断である。しかし、過去の常識にとらわれずそれを思い切ってやってしまうところが、ここまで常にジブリが創造的であった理由の一つなのかも知れない。あれだけ大ヒットした『もののけ姫』の次に来るのが『となりの山田くん』とは、おおかたの予想を裏切る展開だと思うが、「同じパターンを繰り返さない」というジブリが選んだのが『山田くん』だとしたら、これはあなどれない結果になるだろう。しかもデジタル化の後、初めて公開する作品である。7月の公開に向けて、まさに制作の渦中にある現場を、さっそく見せていただくことにした。

約100名のスタッフが働く制作現場に突入
 植物がそこかしこに置かれ、陽光あふれるガラスばりのゆるやかな階段を登っていくと、いくつもの机が並んだ<作画コーナー>がある。それぞれの机ではスタッフが黙々と作業している。とても静かだ。よく見るとスタッフの中にはヘッドホンをしている人が多い。好きな音楽を聴きながら作業に集中しているのだと言う。「メインスタッフのスペースに監督席というのがあります。ここには宮崎か高畑のどちらかが座るのですが、お互いに他の監督の作品の制作中にはほとんど顔を出しません。」と山本さんの説明が続く。中央に置かれた広い机の上には絵コンテの束が! ファン垂涎の物だろう。宮崎監督の場合、絵コンテを全部自分で描かれるそうである。メインスタッフが絵コンテから作画の作業を進めるが、複数の人が制作に携わるので、いろいろな段階でチェックを入れて、キャラクターの統一や動きには非常に気をつけているということ。部屋の一角では、クイックアクションレコーダーという機械を使って、線画の段階で絵を動かし、タイミングや動きを確認しているスタッフもいる。こうすることでフィルムになってから直す必要性が大幅に軽減されるのだとか。コンピュータが効果的に利用されていることがわかる。この部屋ではどうやらG3マシンも活躍しているらしい。

 ここで探検隊より「最初からコンピュータを使って作画することはないんですか?」という質問をしてみると、「それはしないですね。手で描いたものを一枚ずつスキャナーで取り込むのが基本です。」という望月氏の毅然としたお答え。こういうところにジブリならではのこだわりを感じてしまった。

 続いて3階の<美術>コーナーへ移動。こちらは、がらっと雰囲気が変わり、スタッフの皆さんが紙に向かい、絵筆を使って作業している。普段はポスターカラーを使用しているそうだが、今回の『山田くん』では背景を全て水彩画で制作しているとのこと。ここで描かれた背景をデジタルカメラで撮影して合成していくのだ。どんな作品ができるのか、とても楽しみである。
 隣の小部屋は商品企画部となっていて、トトロをはじめとした様々なグッズ類が陳列されていた。基本的に宮崎監督はキャラクターグッズがあまり好きではないので、出すのであればできるだけいいものを出そうと苦心されているのだとか。なんとこの部屋にColor Classicを発見! 実は他の部で使わなくなったお古がここに回ってくるのだというお話であった。

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