メモクリップを作る感覚の映像編集
 現在は映像を作るということはまだまだ 「ちょっと大変な」事である。何を撮るの?誰に見せるの?というところから、カメラを持ち 歩き、ビデオテープからコンピュータに取り 込み…個人が作るということにおいて「デスクトップ」という環境が登場し身近になっているのは確かであるが、まだどこかにおっくうにさせるものがあることは否めない。
 ワープロが文章を「書く」ことと「編集」することを融合させたのならば、映像編集アプリ ケーションが「編集」にだけにとどまらず「映像を作る」ということに影響を与えないと言い切ることはできないだろう。コンピュータの高性能化は、同じ「高性能」を携帯できるようになるという方向にも進んでいる。コンピュータがカメラとしての性能を持つようになれば(これは半ば実現されつつある)、テキストのメモを作るのと同じくらいの感覚で映像のメモを作ることも可能になってゆくだろう。
 テキストベースのメモといえば「スティッ キーズ」というものがある。自分の作業のメモやちょっとした離席のアナウンスという用途に使っている人も多いのではないだろうか。 Mac OS上に本当の意味で「デスクトップ」が実現されている。これと同じことが映像で 起こってもいいのではないだろうか。MacWriteというワープロをMacintoshに添付していたAppleが今日スティッキーズを添付しているのと同じことが「映像」というジャンルにおいて起こっていると考えることはできないだろ うか。iMacに「iMovie」を添付し、本格的な映像編集ソフトとして「Final Cut Pro」をリ リース。Appleがこの先の映像の位置付けを呈示していると言えそうである。もちろん、Appleの呈示する映像の位置づけを実現してゆくのはユーザである私たちである。映像というものを日常の道具として会話してゆくかどうか、まずは映像を作るところからはじめてみてみようではないか。
ビューアーウインドウ。
ビデオ、音声、フィルタなどを編集するウインドウ

編集パレットとキャンパスウインドウを用いて直感的に編集や合成ができる
ブラウザウインドウで、素材の編成、ソート、検索といったことを行う
プロジェクトの構成状態が一目瞭然のタイムラインウインドウ
ツールパレットで、どんな状態でも各種ツールを利用できる
Final Cut Proは、全ての機能に素早くアクセスするための4種類の汎用ウインドウを装備している

かつては1,000万円以上は当たり前の世界
 放送品質の映像の作成を考えてみよう。テレビ番組などでよく「家庭用ビデオカメラで撮影したものです」というテロップとともに出てくる画像は、他の画像に比べて画質が悪い。これは(わざとやっている部分もあるが)家庭用に普及していた8ミリビデオやVHSという録画規格が実際の放送で使われている規格に比べてさまざまな面で劣っているからである。そのような事情のもとで、個人が放送品質に値する映像を作ろうとしたらどれくらいの設備投資が必要だろう?ビデオカメラ、編集機、最低でも2台の再生機、1台の録画機…これらをすべて「業務用」といわれるプロフェッショナルユースの機材でそろえてゆく…業務用機器は、1台が数百万円からといのが当たり前の世界。最低限のシステム構成を考えたって簡単に1,000万円以上かかる。
 ここに登場した福音が「デジタルビデオ (以下DV)カメラ」だ。放送品質とほぼ同じどころか、プロの現場でも使われる事のあるデジタルのフォーマットを私たちが用いる事ができるようになった。更に編集作業である。複数のテープに記録された素材を組み合わせる作業はもともと素材テープを再生しながら、編集機を用いて合成してゆく最終的な時間軸上での作業だった(リニア編集)。コンピュータの機能の向上はこの編集方式に変化をもたらした。

実際に映像を創るには
 私たちが店頭で手に入れることのできるDVカメラにはいわゆる「DV端子」がついている。これはPower Mac G4の背面にある「FireWire」 ポートと同じものである。DV端子とFireWire ポートで通信を行うことで、カメラに収められた映像と音声をMacに取り込むことができる。アナログフォーマットの時代は、カメラ-Mac間のデータ転送速度や、転送されたデータの記録の速度(つまりハードディスクの記録速度)が「高性能」である必要があったが、DVはデジタルであるがゆえに標準的な速度であれば十分、という状態になっている。つまりPower Mac G4(もちろんG3でも十分だ)に特別なハードウェアを追加することなく、撮影してきた映像を取り込むことができるのである。取り込んだ映像を編集するには当然編集のためのアプリ ケーションが必要だ。QuickTime自身の編集機能やiMacに添付されるiMovieでもいいが、ここではAppleがプロの実用に耐え得るアプリケーションとしてリリースした「FinalCut Pro」を使ってみよう。