元々デザインって
生活に必要なものでは
ないでしょう?
衣食住足りたのちに
プラスアルファで
潤いとか楽しさを与えてくれる、
なんか儚いものだと思うんですよ

Macユーザはあまり考えたことがないかもしれないが、世の大半のコンピュータユーザ(=Windowsユーザ)は、「気に入ったデザインのコンピュータがない」という不満を持っている。その不満に応えたのが、気鋭のプロダクトデザイナーがデザインした「シガーロPC」。中身はGateway製のWindowsマシンだが、50年代と近未来をテーマにした、ステレンスボディのコンピュータだ。この「シガーロPC」のデザインのほか、斬新なショップデザインなどでも注目される片山正通氏に、お話を伺った。
片山 正通さん
WonderWall, inc.代表
1966年岡山県生まれ。 (有)デザインバリューを経て、1990年に黒川勉氏とともに(株)Hデザインアソシエイツ設立。 今年2月に解散後、自らが代表を勤めるWonderWall, inc.を設立する。




デザイナー片山正通、といえば、あの「シガーロPC」のデザインが象徴的ですが、そうしたプロダクトデザインの一方で、ショップのインテリアデザインも多く手掛けてらっしゃいますよね。

というか、仕事の99%は空間ですよ。この夏は、「マーク・ジェイコブス」の青山ブティックはじめ、 30件以上のショップデザインに携わりました。

片山さんは、これまでも人気ブランド「ベイシング・エイプ」の各店や、「INDIVI CAFE」などの飲食店のデザインを数多く手掛けられてますが、一目見て 「片山正通だ」とわかる様式的な共通点は、あまりないですよね。

まあ、そうですね。あんまり自分というキャラ クター、というか、作り手自身を表に出そうとして ないからじゃないかな。

その辺、片山さんがデザインという仕事に向かう姿勢にも関わってくると思うのですが、もう少し 詳しく聞かせていただけますか?

そうだなあ、話は長くなりますけど、僕は80年代の後半くらいからデザインの仕事を始めたんですが、その頃のインテリアデザイナーって、ある種のコンプレックスを抱えてたんですよ。

例えば、どんな?

まあ、建築家、だったり、あるいはアーティスト、といってもいいかもしれません。で、いわゆるアー ティスト指向の人たちが、ちょうどその頃登場して 来たわけです。

その少し前だったら、コピーライターが作家の顔をする、みたいな感じですか。

そうそう、そんな雰囲気ですね。もちろん僕も、 そうした先達に憧れてこの道に入ったわけなん ですが、段々、そういうのもなんかカッコ悪いなあと思うようになったんです。元々デザインって、生活に必要なものではないでしょう? 衣食住足りた のちに、プラスアルファで潤いとか楽しさを与えて くれる、なんか儚いものだと思うんですよ。なのに、「このデザインは、この俺がこう考えて、こういう コンセプトで作ったんだ」と力説するのは、なんか違うんじゃないかなあ、と。

なるほど。そんなに「作った人の顔」が見えても 困る、ということですね。

だから、僕の場合は、その場所にいる人や、そのモノを使う人が楽しくなるという、その点が最も 重要なんですよ。敢えていえば、使い勝手よりも。 こうあるべきだ、という押し付けではなく、こう だったら楽しいでしょ? という感じで。それに、 僕自身も消費者なわけだから、自分自身も楽しみたいですしね。こういう姿勢は、ショップデザインにせよ、家具やプロダクトデザインにせよ、同じです。 あと、僕は元々「本」よりも「雑誌」が好きなタイプの人間だから、ひとつのことを掘り下げて考えるより、いろんな情報がとっ散らかっていて、軽く読み流して行くというのが好きだというのもありますね。そういう点も、僕のデザインの仕事に反映されて いると思います。それと、世代的に西洋だとか、 大御所だとかに、あまりコンプレックスを持って いないという点も、反映されているかもしれない。