入学、就職、独立、結婚、引越し……
この春から新しい生活をスタートさせる皆さん、準備はいかが?
真新しいインテリアと家財道具に囲まれて気分も一新「春だからって、何も変わったことないよ」とため息ついてる人も一度部屋の中を見回してみて今月は、生活の善き伴侶――家電製品のお話です



 頭は黒、車は白――ビルの窓から見下ろせば、黒い頭の集団がまるで蟻の行進。駐車場の 車はどれも白っぽくて自分の車を探すのに一苦労。ほんのひと世代前、バブルちょい前まではモノトーンだった日本だけど、変われば変わるもの。今じゃ茶髪もフツーだし、自動車その他の製品もぐっとカラフルになってきた。 “白モノ”と呼ばれる家電製品も、白一色じゃない。特にこの春のフレッシャーズ向け製品は淡いパステルトーンよりもぐっと積極的な、“iMac系”とでも呼びたいカラーリングが主流。蛍光ピンクの冷蔵庫、洗濯機はビビッドなオレンジetc.。フォルムもオーガニックな曲線や 丸っこいラインがいっぱい。さらに、Apple社の危機をすくった(?)iMacにあやかるように、“選べるカラー”戦略に出る会社も多い。  たとえば英国ダイソン社。革新的なデュアルサイクロン機構によりゴミパックをなくしてしまった同社の掃除機はそれだけでかなりの注目を集めているが、早くからスケルトンデザインを導入。高性能『DC05』モデルでは基本のグレー+イエロー、グリーン、パープルなどアクセントカラー違いのものが選べて楽しい。

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丸洗いできる交換不要フィルターを搭載したダイソンの「DC05」。自走式のお掃除ロボット「DC06」も近々発売か?
(www.dyson.com)

 もっとiMacソックリさんなのはジャガーのコンピュータミシン『ヌオット』。ブルーベリー、ピンク、バイオレット、オレンジなど色違いスケルトンを配したミシンで、同色のiMacと並べるとハマりすぎ!しかもこのヌオット、ゲームボーイカラーと繋いで模様縫いや刺繍をやってのけるポップでスマートなミシンなのだ。白モノ家電からはちょっとはずれるけど、お裁縫好きな人には注目の一品だ。

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iMacと?それともゲームボーイカラーと
コーディネイトする?
ジャガーの電子ミシン「ヌオット」

(www.jaguar-net.co.jp)

 「カラーコーディネイトって難しいし、スケルトンって汚れが目立つし、第一子供っぽくなるのがイヤ」というご意見も多い。そこでワンランク上を狙いたい向きに人気なのが“PB G4系”のメタリック仕様。米国GE社が業務用 キッチンのプロっぽさを家庭向けに打ち出したステンレスラインを発表。かと思うと韓国生まれのSAMSUNG(www.samsung.co.jp)は 潜水艦をモチーフにした大胆な電子レンジで 勝負。日本でも三菱電機(www.lsg.melco.co.jp/kaden/osusume)がメタリックな掃除機や炊飯器(!)を出している。  iMac以降「なんでもスケルトン」が流行ったものだけど、これからは「なんでもメタル」に なる?――Macユーザとしては“デザインのトレンドメーカー=Apple”と思いたいところだが、実は逆かもしれない。そもそもスケルトンスタイルを真っ先に打ち出したのは前述のダイソン社であったし、PB G4も北欧やドイツに伝統的にあった高級キッチン用品のデザインをパソコンに引用したものに見える。こうしてみるとAppleのデザインは“家電なみに生活にとけ込んだパソコン”を指向したものといえるだろう。

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プロっぽさが魅力のGE社ステンレスライン。フツーの台所にも意外にフィットするのだ
(www.geappliances.com)


 白モノ家電は色とデザインにこだわってセレクト。「新生活の始まりだ!」と意気込んだものの、あっと言う間に薄れる新鮮味。友だちに「この冷蔵庫カッコいい!」と誉められて、 「あーそれね」と改めて思い出す。電話やオーディオ、車なんかに比べて、白モノ家電はかんたんに“見えないもの”になってしまう。 うーん、こんなことなら家電は無難なデザインで揃えて、もっと食器に凝ればよかったかな……なんてね。  思うに白モノ家電は毎日の家事に関るものだけに、日常性に埋没してしまいやすい。どんなに華やかな見てくれも、その実“白=無色透明”な家事機械。一人暮らしをはじめて知る母のありがたみ。家事ってほんと面倒くさい。共働きの新婚家庭では、家事負担をめぐって喧嘩。生きて生活してる限り、汚れ物は溜まる。きれいにしてもまた溜まる。誰かがやらなきゃいけない。人は一生家事から逃れられない?
 19世紀後半から20世紀にかけて、家事の改善・合理化が盛んに押し進められた。現在あるようなシステムキッチンを発明したのは キャサリン&ハリエットのビーチャー姉妹で、妹はあの『アンクル・トムの小屋』を書いたストー夫人である。動線が長くムダの多い当時の台所をシステマチックに改良することは、それでなくても荷重な主婦の労働を軽減するためのアイデアだった。手洗いの洗濯、衣服は手作り、今ではちょっと考えられないが当時の主婦にとってはダニや南京虫などの害虫を除去するのも大事な仕事。休みなく働いても、とても 一人ではこなしきれない。そこで一般家庭でも使用人を雇うのは普通だったわけだが、これがまた大変。

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100年前の社会が今とは違うように、未来の家事もどんどん変わる?柏木博著「家事の政治学」(青土社刊)。興味深い逸話と ともに家事と家電を考察する研究書

「己れ火鉢の傍にのみ安坐して下婢奴僕を叱り散らし心やりなきときは、たとへ面前は伏せし様子みゆる共、却て蔭にておこたる者なれば注意すべき事」――この古色蒼然たる記述は明治26年発行の“家事コツ本”である『日本婦女鑑』から「使用人の使い方心得」を書き抜いたもの。人を使うのが難しいのは家庭の奥様も企業経営者も同じこと。核家族化、 人件費の高騰、そして家電による劇的な家事省力化によって使用人は過去の文化になっていった。
 それでも残る家事を誰がやるか? たまには代行サービスを頼むのもいいし、将来はロボットがやってくれるかも。しかし退屈なルー ティーンワークとしてではなく“生活すること=家事”をポジティブにとらえれば、状況は大いに変わるはず。21世紀の家電は情報化、技術革新、多様化とともに、性別年齢を問わず“家事を楽しむため”にデザインされていくだろう。あたかもAppleが「無味乾燥な仕事のためのコンピュータ」に「楽しみクリエイトするためのパソコン」という視点を与えたように。