リンククラブ探検隊


「この本=ナカムラミツル」だ
という作品集はどのようにして生まれたのか?
 その後、茅原さんは2001年4月に「収穫には立ち会えないかもしれないが出来るだけ多くの種を蒔こう」と「JeLLY JeWeL」という2冊のベスト・オブ・326的な作品集を編集担当する。この本の出来るまでの過程を見せてもらうというのが、今回の探検隊の目的でもある。
「1枚で描くイラストと詩、というスタイルが彼の作品の本道なんです。それで、私はどうしても本道の1冊、つまり作品集を作らせて欲しいと思っていました。付き合い始めてから約2年後に、やっと『いいですよ』と言ってもらえたんです。最初は2冊にする予定はなくて、1冊で今後10年くらい彼が名刺代わりにするようなベストブックを作ろうと思ったんですよ。でも、彼の福岡でのインディーズ時代からの作品とかを含めると、膨大な数の作品があるんです。彼の作品はデータにすると、モノによっては1枚で100メガとか、200メガとかいうファイルサイズで、それが作品全部合わせると20ギガ以上もあるんですよ。それをすべて見ながら326さんが『どれも捨てられない、すべてが326の分身』だと言うので、では2冊同時でいきましょうと、発売直前に決まったんです。2種類の名刺を持っている人もたまにいますからね(笑)」
 そう言って、茅原さんは、この2冊の作品集に収録されている作品の原稿や表紙用のラフ画、FAXで送られてきた326氏自筆の文字原稿などを見せてくれる。
 326氏が本のために入稿する原稿は、手描きのものをスキャナでMacに取り込んで修正を加え、それをカラープリンタで出力したもの。ここまでが326氏の執筆作業となり、原稿が編集者に手渡される。「326さんは、人間と、背景と、枠と、字と、全部ばらばらに描いていることが多いんです。 紙で、落書きみたいにバーッといっぱい描いて色を塗り、それをスキャナで取り込んで素材として持ち、それを組み合わせながらデザインしていく……これが彼の作品作りの特徴なんです。それぞれをフォトショップのレイヤーにしてパーツを組み合わせていく手法です。Macはただの切り貼りするための道具だと言っていましたよ。」
 作品集の出版の苦労は作品のセレクトだけではない。手書きの文章を活字にするために赤字を入れたり、印刷時に元の原稿の色が忠実に再現されるようにチェックするのも編集者の大事な仕事だ。
「326さんの作品はパステル調の色彩が特徴で、特にオレンジ色がキーカラーになるんです。このオレンジの発色が悪くなると、絵が死にます。だけどパステル色全般に言えることですが、そのなかでもオレンジは、印刷所の4色(CMYK)印刷ではもっとも再現しにくい。 黒く濁ってしまうんですね。これに毎回頭を悩ませていて、印刷所と何度も打ち合わせをして試行錯誤します。 例えば、マゼンダと蛍光ピンクの混ぜ具合であるとか。部分的に印刷所が特別なインクを作って入れたり、5色印刷にしたりもしてます。 今回の作品集に関しては、何しろ発色よく見えるように、色校を見ながら何度も印刷所の方にやり直してもらいました。 326さんも良いものを作るためには非情になりますからね。『まだ濁ってます、だめです茅原さん』って言うんで、え〜、もう無理だよ〜とか。 最終的には実際に本を印刷をしているときに工場まで行って色をチェックしました。」
 そんな話を聞きながら、素材となったオリジナルプリントや、茅原さんによる校正記号がいっぱい入った手書き原稿などを見ていると、一冊の本というものが、凄く、手間ひまかかった作品であることがよく分かる。
出版とWebの奇妙な関係
 茅原さんは、Mac雑誌出身ということもあり、入社した時に最初に手がけた仕事が社内のLANの構築だったという。その流れもあって、幻冬舎が現在開設しているサイトも、茅原さんを中心に起ち上げたものだそうだ。
 なかでも、通販サイト「GOBS(Gentosha Online Books Shop)」は、出版社が直接、自社の全書籍を販売するサイトとして異彩を放っている。特に、テーマごとにセレクトした本をセットで販売するコーナーは、出版社側からの読書の提案という感じで、面白い。「幻冬舎のサイトの基本コンセプトは『作家と読者をつなぎ、読者参加型の物語作りを目指す』です。本が溢れている時代に、本のソムリエ的な役割を果たせたらと思います。ショッピングサイトはこれからの出版状況の変化に対応するための準備なんですよ。再販制度がどうなるか分からない、インターネットもどうなるか分からない状況なので、いま儲けようという意識はありません。現在、幻冬舎では、オフィシャルサイト、Webマガジン、GOBS、幻冬舎ネット学生文学大賞、メールマガジンの五つを柱にインターネットをツールに読者サービスを展開しています。でもモニタ上で長い文章を読むのは大変なので、どうしたらよいか悩みますね。特別な技術を使わず、一番汎用性がある方法で提供しないと多くの人に読んでもらえません。また今後どういうツールや技術が一般化されるか、あるいは携帯端末がどう進化するのか予想もできませんから、なにしろすべては準備のつもりです。私としては、ウェブマガジンにもっと小説を掲載していくのが急務だと思っています。ウェブマガジン発の書籍って、田口ランディさんの文庫短編集しか出せていないので、ウェブマガジンから書籍にしていくというのが、今一番のウェブマガジンの課題であり、目標です。」
 そうやって、Webの仕事を一手に引き受けている茅原さんだが、編集者としての仕事全体で見ると、Web関係は50分の一程度だそうだ。実際、良い本を作ろうとしたときの編集者の労力は、著者と同じくらいあるのかもしれない。
「著者は長時間かけて骨を削り、血を流して作品を書いています。編集者は短時間でも同じ量の血を流す覚悟が必要なのかもしれませんね。」と茅原さん。

 一冊の本が出来るまでの舞台裏をたっぷりと見た隊員一同は、満足して、幻冬舎を出たのだけど、外は、まだまだ暑い午後の街であった。

text by:中野 本朝

茅原さんの机にはPowerBookが
茅原さんの机にはPowerBookが。幻冬舎ではたくさんのMacが使われていた。

茅原さんが作成した幻冬舎の販売サイト「GOBS」
茅原さんが作成した、幻冬舎の販売サイト「GOBS」をご本人に見せていただく。作業はMacで行っている。

幻冬舎の出版物が並べられた書庫
幻冬舎の出版物が並べられた書庫。これも幻冬舎なんだ、と隊員達は好みの本を手に取っていた。

「大河の一滴」劇場招待券をプレゼントしていただいた
幻冬舎から出版され、ロングセラーとなった五木寛之氏の名作「大河の一滴」が待望の映画化。その劇場招待券をプレゼントしていただいた。


幻冬舎のオンラインブックショップ「GOBS」
http://shop.gentosha.co.jp/
オススメの本のコーナーや、数冊の本をパッケージしたパック販売コーナー、先行予約コーナーなど、出版社側からの読書の提案が詰まったショップだ。ポイントを溜めれば、プレミアグッズももらえる。


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