リンククラブ探検隊

「美大」という言葉の響きから連想される、キャンバス、絵の具、あるいは彫刻途中の石膏のかたまり。そういった雰囲気から、少し遠いような気がするのはなぜだろう。むしろ、ネットワークの最先端とでも呼びたいような存在。それが、今回探検隊がおじゃました、多摩美術大学上野毛キャンパスだ。80台のPower Mac G4−800が整然と並ぶコンピュータルームでは、学生達がデザインの実習に集中している。教授自身が(良い意味で)「アカデミックではない」と言いきる、多摩美術大学の最新の姿に迫った。

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多摩美術大学の各学部、学科、研究室の学科案内や入学案内、生徒作品の展示などをはじめ、一般の方も楽しめる、付属美術館の催し物や、生涯学習プログラムの案内など充実の内容


 今回、探検隊が潜入したのは、東京世田谷・環状8号線に面した上野毛キャンパス。  このキャンパスは、もともと多摩美術大学発祥の地であり、前身である多摩帝国美術学校創設(1935年)以来の長い歴史を誇る場所だ。  しかし、学生数の増加などの事情により、敷地が手狭になったため、1970年代より大学機能のほとんどを八王子キャンパスに移管する。  上野毛キャンパスでは、1989年、日本で唯一の美術教育を行う夜間学部である美術学部二部を開設。都心に暮らす多くの社会人を受け入れて、特徴あるカリキュラムを開講してきた。  そして1999年、美術学部二部を発展させる形で「造形表現学部」が誕生。造形・デザイン・映像・演劇などの分野における「動的なコミュニケーションの表現領域を切り開く」新しい学部として設置されたのである。


 実は、予断があった。なにしろ世田谷区内に位置する美大である。きっと校内はにぎやかで華やかで、遊びの雰囲気が横溢しているであろう、と。  しかし、案内してくれた岡村助手の後について、ほんの5分も校内を歩いた時点でそんな先入観念は木っ端微塵に吹き飛んでしまった。誰一人としてムダな時間を過ごしている学生がいないのだ。  床に座り込んでいるグループがいた。遊びの相談でもしているのかと思ったが、近寄って見たら建築の図面を囲んで激しく議論を戦わせていた。 「毎日午後6時から9時まで、3時間が実技のメインです。夜間が主ですから、当然昼間は働いている人が多い。それで4年で卒業する。カリキュラムは昼間の学生と同じ。だから時間が ない。課題も厳しいですからね」(岡村助手)  今夜の飲み会の相談なんてしている暇はないのだ。

 まず向かったのは、地下のコンピュータルーム。上野毛キャンパスの建物は、そう新しいものではないのだが、階段を降りて行くと、忽然として近未来的な光景が目に飛びこんでくる。  80台のPowerMacG4が並べられたコンピュータルームだ(この他にも約120台のMac等がある)。探検隊が訪れた時間は、ちょうど小川俊二講師によるデザイン課1年生の実習が行われていた。課題は「携帯電話のデザイン」。 「多摩美術大学に入って、初めてMacに触れたという学生も多い。だから使い方から教えるわけですが、ただ、ここで教えているのはあくまでもデザインそのものであって、コンピュータの使用法ではないんです。習熟度は学生によって違いはあるけれど、そこを引き出してやるのが我々の仕事、かな」と、小川講師は言う。  広いコンピュータルームの内、半分のスペースにぎっしり、学生達がモニターに向かっている。ただ良く見ると、どう見ても携帯電話のデザインとは思えない画面を開いている学生もいるようだ。そのあたりを聞いてみると、「他の授業で、時間内では間に合わなくて、ここでもぐりこんでやってる学生もいます。重要なことを集中して講義するようなときは遠慮してもらいますが、そうでなければ、追い出すようなことはしません」  寛容、と言うよりも、そうでもしなければ追いつかないほど課題がハードだということなのだろう。 並びのコンピュータルームでは、小人数のゼミが行われていた。ここでのテーマは「愛着のデザイン」。世の中には、機能を超えて「使いにくいけど、手放せない」という自分にとって大切な道具が存在する。それはなぜか。どう言う要素が、機能を超えるのか。それを「愛着」と名づけて、自分の経験を手がかりに、デザインに応用しようということらしい。何かが働いて手放せない道具…おや、Macユーザには、なじみのある感覚ではないか。


 広いキャンパスの、ひとつの建物の階段を上り下りしているだけなのだが、そのたびに違う創作世界が広がる。  ある階では、木工所のような機械が並び、大きなノコ切りが角材を切り出していた。またある階では、住宅のミニチュアを囲んで、建築の立地条件や素材の選び方について講義が行われていた。別の教室では、何か「可愛らしく動くもの」を作っていた。図面を引いたり、数人で相談したり、ある学生は発泡スチロールで小さな球体をいくつも作っていた。 「今研究していることには、とりあえずMacは必要ないです。Macは表現方法のひとつかな。 でも、(Macの修得は)絶対に通らなければならないというのも事実なんです」と学生の1人が語ってくれたが、デザインと言ってもさまざまなアプローチがあり、分野も多岐にわたり、必ずしも全員が常にMacに向かっているわけではない。だが、レポートの作成ひとつとっても、Macなしではどうしようもないのも事実だ。 「学生が使うMacには必要なソフトしか入れてないんです。ワードも入ってないんですよ。だからレポートを作るときは、わざわざIllustratorで書くんです」と、猪股教授(デザイン学科)が笑いながら教えてくれた。


 榊原教授のゼミにお邪魔し、卒業を間近に控えた4年生達に多摩美術大学に入学して良かったことを聞いてみたが、「知らなかったことを、できるようになるのは難しいんだけど、でも自分は何も知らないんだと言う事を知りました」「デザインと言ってもとても広いんです。たぶん他の学校では、専門だけを突き詰めてやるんだろうけど、ここでは、なんでもできちゃうんです。やりたければ。それで苦しめられていることも多々あるんですけど(笑)」といった意見があった。  猪股教授によると「夜間と言うことで、年齢層も職業も様々な人が同じ教室で学ぶ。そのことから得られる刺激は計り知れない物が ある」とのことだが、実際、多摩美術大学の卒業生は、専攻のデザイン・美術方面に限らず、音楽や俳優、漫画家など、多方面で活躍している人が目立つ。それは、この大学の持っている、自由で幅広い研究姿勢のたまものとも言えるだろう。  さらに今回の探検でわかったことは、この上野毛キャンパスにおける学生達の学ぶ姿勢。その意識の高さだ。日本で唯一の美術系夜間デザイン学部。そこに学ぶ彼らが、Macで紡ぎ出す世界は、我々にどんな夢を見せてくれるのだろうか。

text by : 石上 耕平


多摩美術大学の皆さんと記念撮影。
どうもありがとうございました




:今回の探検隊員は、それぞれ形は違うが、多摩美術大学に強い関心のある3名だ
:今回お世話になった多摩美術大学の方々。右から、大学の制度や教育方針を教えていただいた、デザイン学科研究室教授の猪股裕一氏、学内を詳しく案内していただいたデザイン学科助手の岡村裕次氏、そして現役学生のお3方
:講師の小川俊二氏。Macを使った授業について詳しくお話を伺った




上三つ:80台のPowerMac G4が並ぶコンピュータルームには隊員一同、圧巻させられた。授業中とは言え、学生はみんな真剣な表情でMacに向かっている。
:ここでは隊員の方々もしきりに岡村氏に質問をしていた





:愛着をデザインするという授業を見せていただく。学生の発表するアイディアの至らないところを、教授から厳しく指摘されていた
中二つ:コンピュータルームのほぼ向かいに位置する工作室では、学生達が旋盤や巨大な電機ノコギリを使って作品の制作にあたっていた
:デザイン科の教室。ここでも学生数名が作品の制作をしていた。自由な雰囲気だが、熱意のこもった緊張感が漂っていた。




:山中教授によるゼミでは、建築家である山中教授が実際に手がけた建築物を例にとって講義が行われていた
:デザイン学科研究室教授の榊原 晏氏のゼミでは、4年生の学生が図面や細かい部品を机に拡げて卒業制作に取り組んでいた
:榊原教授と4年生の皆さんに多摩美術大学の良さについて伺った

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