ロバート・ジョンソン
01:ロバート・ジョンソン_Robert Johnson
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寺山(修司)
02:寺山(修司)_(Shu-ji )Terayama
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澁澤龍彦
03:澁澤龍彦_Tatsuhiko Shibusawa
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 石塚公昭氏が作る人形は、ジャズミュージシャンでも、日本の作家でも、まるで、そこに本人がいるかのようなリアルな佇まいを持っている。例えば、ロバート・ジョンソンが持っているギターや、寺山修司が着ている黒コートのひだなど、そのディテールの細かさや、的確に捉えられた表情。もう、それはそれは似ているのだ。しかし、単に正確にディテールを再現した「似せる」ことを目的にした人形というだけではない。細部がどれだけ精巧に似せて作られていても、この、一種独特の雰囲気というか、モデルとなったミュージシャンや作家の作品そのものに通じるようなリアリティは出せないはずだ。
 その秘密のヒントになるのは、例えば、石塚公昭氏の公式ホームページ(http://www.kimiaki.com/)に掲載されている、江戸川乱歩をモチーフにした作品。アドバルーンを見上げながら拳銃を構える乱歩。そんなことを、実際の乱歩がやっているはずはないのだけれど、それは、見事に「江戸川乱歩」という作家のイメージを表現している。そして、だからこそ、そこにいる乱歩の人形は、限りなく乱歩本人に似ているのだ。

暇つぶしに、架空の黒人ミュージシャンを作り始めたんです

 リアリティを獲得するために虚構を構築するというのは、小説や映画など、フィクションというジャンルの本質。石塚氏の人形にも、この「フィクションとしてのリアル」が色濃く感じられる。これだけ「似せる」ことができる人が、なおフィクションを構築しようとしたからこそ、このリアルが生まれたのではないだろうか。
「本当は、陶芸作家になろうと思っていたんですよ。専門学校を出た後、岐阜と茨城の山奥に二年ほどいて、製陶業をやってました。それから東京に戻って、自分の窯を作ろうと思ったんです。それで、溶接のアルバイトなどをしながら資金作りをやってたんです。でも、その間は窯もありませんから、陶芸ではない何かを作っていようかと思ったんです。その時に石塑(石粉粘土)という乾かすと硬くなって、その後削ったりもできる粘土があることを知って人形を作り始めました。当時、黒人音楽ばかり聴いていて、その辺の雰囲気で、架空のジャズマンの人形を、ほとんど暇つぶしのような感じで作ってたんですよ」
 石塚氏が人形を作り始めたきっかけは、成り行き的なものだったようだが、しかし、既にこのスタートの時点から、架空の人物を作っていたわけだ。レッド・ツェッペリンなどのロックも好きだったという石塚氏だが、その方向は考えなかったそうだ。
「架空の人でしばらくやっていましたから。黒人の方でしたら、ただ街にいるような、無名のというか、そういうのを自分でイメージして作っても絵になりますけど、それ以外は、そういう気がしなかったんですよ」
 つまり、最初から作る人物の背景などをイメージしながら人形を作っていたということだ。しかも、意外なことに、見ながら何かを作るというのは、あまり得意ではないという。
「もともとデッサンもまともにやっていませんし。ですから、例えば人間の形とか、洋服とかも、自分で勝手に作ってるんです。実際とは違うだろうなと、うすうす思いながら作っているんですが、自分がそう思い込んでいるには、何か理由があるだろうということで。一切見ないで、何かを参考にするということもせずに、ずっとやってたんですよね。ですから、ディテールのリアルさというのは、あとの事ということで。むしろ、その人が持つ佇まいですとか、そういうことのリアルさの方がやってみたいというところではあったと思います」

本人を撮ったものだと
間違える人もいたんですよ

 しかし、もちろん「似てる」ものを作るという喜びもあるという。
「当然、ある程度は、その人に見えなきゃならないですし、その人のようなものができれば、僕としても楽しいわけです。僕は僕で、その人形を、人間として撮りますから。撮影中も、対話のようなものが多分あるんだと思うんです。その為にも、ある程度はその人らしくないと、というのはありますね。作品になった時に、本物じゃないか、と思われるのも、それはそれでいいですし、よく見れば粘土らしい表情も、残ってたりするわけです。あえて作り物じゃなく見せようということは、特に考えてないんですよね。洋服などは、よく見れば粘土という感じなんですが、それはそれで作り物だという証拠と言うか。そのくらいあってもいいかなと思うんです。ジャズミュージシャンの人形は、本人を撮ったものだと間違える人もいたんです。いたんですけど、中身まで全部自分で作った人形を、私が写真に撮ったんですよって言いたいわけですよ。だから、本物に見られるためにリアルにするのではなくて、自分のイメージをリアルにする為に、リアルにする、という感じです」
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