NBBの新しい200バレル・スタインネッカー・醸造ハウス
BUSINESS
アメリカ
グリーン企業の最前線

風力エネルギーを100%使用、処理水の80%リサイクルを実現したアメリカのクラフト・ビール醸造会社がある。しかも、全米で五番目の規模に成長、5年間の成長伸び率1位を記録しているという。エコロジー的な思想を企業の基本コンセプトとし、なおかつ、経営的にも成功を収めている理由はどこにあるのか?グリーン企業の成功例として最も注目されている会社、New Belgium Brewing Co. に取材を行った。


資源保護の立場にたちながらも、利益重視を怠らない。その先駆者として注目を集めるNew Belgium Brewing Co. CEOであり創立者のキンバリー・ジョーダンとその夫で協同創立者のジェフ

■多くの企業が環境汚染の汚名は着たくないと考える。できたら、環境に優しいポリシーを推進できればと願っている。しかし、現実は厳しく、実行するのはなかなか難しい。まず、コストがかかる。設備投資の余裕がない。投資をしても将来的に還元できるのか。環境への貢献を社会からきちんと認めてもらえるのか。ハードルは多い。

■アメリカでは、企業の社会責任(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)が大きく問われる。イメージ作りとしても大切なところで、前向きに取り組む企業は多い。コーポレート・アメリカの代表として常に非難の対象となるマクドナルドも環境問題をたたかれれば、ごみの量を減らしたり、フロンガスを使用しない冷蔵庫の使用を始め、肥満児増加の責任を問われれば、サラダメニューを追加したりコレステロールの少ない油を使用したりしている。しかし、迅速に、大規模に対応のできる大手とは違い、中小企業の場合、グリーン対策も実際にコスト削減や売上増加に結びつかなければ、消費者アピールというだけではなかなか実行に移せない。

■しかし、そういった問題を乗り越え、大きく成長しているグリーン企業もある。環境問題に取り組みながらも、予想以上の売り上げで急成長する中小企業だ。

New Belgium Brewing Co.

コロラド州にあるビール醸造会社、New Belgium Brewing Co.(NBB)はグリーン企業の成功例として最も注目されている会社の一つである。無駄を無くし、エネルギーの効率をよくし、リサイクル率を高める徹底したグリーン・ポリシーで、環境・資源保護を追求する。例えば、ビール醸造過程での水の使用量を、他の醸造会社に比べ、3分の1少なくし、処理水の80%をリサイクルすることに成功。また、100%風力エネルギーを使用する最初のビール会社となり、その結果、今年6月までに、9,466トンの二酸化炭素が流出されるのを防いだという。しかも、毎年利益を伸ばしている。夫婦による家族経営から始まったものの、10年後にはクラフト・ビール会社では5番目の規模に成長。昨年の売り上げは4,500万ドルで、ここ5年間の成長伸び率1位のクラフト・ビール醸造会社である。Great American Beer Festival の中規模ビール会社部門では2000年、2001年と最優秀に選ばれ、また創始者であり、CEOであるキンバリー・ジョーダンさんは99年、地元の「今年の起業家」に表彰されている。


資源保護の立場にたちながらも、利益重視を怠らない。その先駆者として注目を集めるNBB。その資源活用対策に熟知しておられるSustainability Outreach Coordinatorのヒラリー・ミジアさんにお話をうかがった。


まず、会社の設立のいきさつと、資源保護のポリシーがどのようにスタートしたのか教えてください。


12種のビールの中でも最も人気のファット・タイヤ・アンバーエール。手書きのラベル

会社は91年、現在のCEOであるキンバリー・ジョーダンと彼女の夫ジェフとで創立しました。最初は自宅の地下室から始まったのですが、12年後の現在、社員190名を抱える会社に成長しました。資源保護に関しては、二人の間で、どのような会社を建てようとも、環境問題に真剣に取り組む会社にしようと最初から考えていました。ジェフはエレクトリカル・エンジニアでエネルギーの効率的利用などテクニカルな面での理解が強く、キムはソーシャル・ワーカーで環境問題には前から大きな関心があったのです。会社の哲学・方針にはまさに彼ら自身が浮き出されています。最初に彼らが取り組んだのは、ビール生産の過程で最も大きな点であるエネルギー効率をよくすることと、そして水の利用を少なくすることでした。最初は小規模な試みから始まったのですが、会社が大きくなるにつれて資源保護の取り組みも広がっていきました。様々な新しいテクノロジーが加わっていっても、もともとは二人のダイナミックなアイデアがベースです。



インタビューに快く答えてくれたSustainability Outreach Coordinatorのヒラリ-・ミジアさん


コロラド州フォート・コリン市、New Belgium Brewing本社にある試飲ルームでビールの試飲会

大変勇気のある行動ですが、リスクも大きかったのでは?

環境保護対策にはコストがかかる、というのが一般的な考えですが、実はそうとは限りません。最初にコストはかかっても、回収できるような設備投資を考えています。将来的にコスト削減に繋がらないような投資は行いません。(NBBは廃水処理設備に400万ドルを投資しているが、CEOのキンバリーさんによれば、最初の5年間でその投資額は返還され、その後は月に1万ドルが節約できると言う)。会社の株主はほとんどが経営者と従業員です(32%の株主は従業員)。ですから、従業員と話し合い、理解してもらうことが一番大切になります。たとえば、NBBは99年に、工場敷地内のどこから一番多くの二酸化炭素が放出されているのか調査を行い、結果それが石炭と水力発電の両方で動いている発電所であることをつきとめました。二酸化炭素放出を防ぐために、風力発電に切り替える案がでましたが、コストが多少あがることになります。そこで株主である従業員を集め、話し合い、投票の結果全員一致で風力発電に切り替えることに決定しました。コストを補うためのボーナス削減も従業員全員承諾の上のことでした。


風力発電の利用などNBBの革新的な試みが注目されていますが、具体的にどのような取り組みが行われていますか?


試飲のためにビールをつぐスタッフ


醸造者、マイク・コスランさんの仕事風景

風力発電は99年に地元の発電所と10年の契約を結びました。結果、NBBは100%の電力を風力に頼る最初のそして唯一のビール会社となりました。実際のタービンはワイオミング州にありますので、会社が購入した分の電力はそこから地元の市民に流れるわけです。実際にはNBBは以前と変わらない電力源を使用していますが、変わりに多くの市民は、知らずに風力発電を使っていることになります。結果、石炭消費の削減に大きく貢献しています。(この画期的なプロジェクトはNBBの本社があるフォート・コリン市との協同によって実現している)

また、1年ほど前からですが、会社の敷地内でもエネルギー発電に取り組むようになりました。会社ではバイオ・ダイジェスターと呼ばれる新しい廃水処理装置を開発しました。この装置では水の浄化過程でメタンガスが副産されます。このメタンガスを醸造所に必要な燃料として再利用するわけです。まだこれによるエネルギー量は小さいのですが、廃棄物がエネルギーとして再利用されるというのはとてもエキサイティングなアイデアで、これからもっと拡大していく予定です。またこの結果水の浄化が進み、再利用できる水の量が一段と増えました。普通の醸造所では1バレルのビールを醸造するのに8バレルの水が必要ですが、水のリサイクルが増えたために5バレル以下の水で済むようになりました。

最新の試みでは、土壌での自然分解が可能なとうもろこしが主成分のプラスティックの使用を開始しました。NBBは様々なイベントのスポンサーをしていますが、その際に必要となるプラスティックのカップに利用しています。その他、NBBのTシャツにはオーガニック綿を使うなど、様々な面で環境を考えた政策を実地しています。リストをあげたらきりがありません。


次々と新しいことに挑戦なされているわけですが、それを成功させる秘訣は何でしょう?


ワイオミング州にある風力発電のターバン。NBBは最初に100%風力発電を利用した醸造会社


廃水処理装置。廃水過程で副産されるメタンガスを燃料として再利用

NBBはとても革新的なユニークなアプローチを持った会社です。それをよく表しているのが会社の技術開発部門です。テクノロジーの20%は他のどこでもまだテストされていないような最先端技術に挑戦します。それにより多くの会社が、テストもされていないからと足踏みしているような新技術に門戸を開いていけるわけです。もちろんリスクはありますが、未知のものにチャレンジし続けなくては、新しいものは生まれません。パイオニアになるというのは大切なことです。新技術を見つけられないかもしれませんが、やってみて、その過程のステップを担うということは重要なことです。

まず、最初に健全な経営方針を持つことです。それから環境問題に責任のある方針を打ち出していく。風力発電の利用や自然に優しいプラスティックコップの使用などは確かに多少コストがかかります。ですが、社会全体にかかるコストを考えれば、10年、50年先の将来的には安上がりです。しかし、環境に優しくても、経営に不健全な政策は行いません。例えば、BNNはオーガニック運動を支援しますが、会社のビールはひとつもオーガニックなものはありません。現在の会社の規模ではまだオーガニック・モルトをスタートさせ、利益がだせるところまでいっていません。環境問題に取り組むにはいろいろな方法があります。できるものから一つずつやっていくようにしています。

現在すでに環境問題に取り組んでいこうとする傾向が、ビール業界だけではなく、食品業界など他の業界でも注目されています。1年ほど前だと思いますが、ユタ州のUintahというビール醸造会社は当社の成功に習い、100%風力発電化しました。市民として環境問題に少しでも貢献できることは嬉しく、このような会社で仕事ができることを光栄に思ってます。


NBBの環境問題への取り組み
  • 風力発電を100%利用した最初のビール醸造会社。
  • 時間とエネルギーの効率効果を駆使した醸造所。例えば、普通より75%もエネルギー効率のよい醸造ケトル(湯沸し器)や、十分に断熱された高熱蒸留酒タンクなどの使用。
  • 継続可能な加熱と冷却システム。
  • 廃水処理装置、バイオ・ダイジェスターによるメタンガスのエネルギー化。
  • また、廃水の浄化能力の向上による水消費の削減。
  • 日中の光を効果的に利用し、節電を考慮した特別に設計されたオフィス、パッケージ工場、倉庫、ビール貯蔵場など。
  • 使い果たした穀粒や酵母は他の副産物と混合し地元農家の飼料としてリサイクル。
  • クリーニングには柑橘類を使い、水ベースの溶剤を使用。
  • オフィスの家具、カーペットなどは環境に優しいプロダクトを使用する会社から購入。
  • オフィスの紙からトイレの紙まですべてリサイクル。また、パッケージ材料も同様。紙以外でも、会社が日常リサイクルするものは30種以上になる。
  • 販売するTシャツはオーガニック綿使用。

NBBのこれからの展開は?

今年カリフォルニア州での販売を始めたところです。大きなマーケットですのでしばらくはこれに全力を注ぐことになると思います。いずれはNYの東海岸などにも販売を始めたいのですが、具体的な日程などはまだありません。

今年のメインフォーカスとしてウエブサイトの強化があり、すでにいろいろと検討されています。また、環境問題への取り組みにも特別セクションとして大きく取り扱う予定です。(広報担当者のブライアンさんによると、醸造所のバーチャルツアー・ビデオやイベントの模様を紹介するビデオなマルチメディアの強化に加えて、ビールを使った、またはビールに合う料理の紹介なども考慮中だという)

当社が100%スポンサーになり、毎年各地で行うフィスティバルで、自転車などの車以外の交通手段をプロモートしていますが、今年は17箇所で行います。環境問題に取り組む地元の非営利団体も招待し、ブースをもってもらいます。音楽、ゲーム、自転車競技、食べ物、ビールなどのイベントです。売り上げは全て地元の非営利団体に寄付をしています。

ビールを飲みながら、楽しく環境問題を勉強するわけですね。

そのとおりです(笑)。





NBBは会社のイメージ作りとして片手間に環境問題への取り組んでいる会社ではない。資源保護の追求は真剣で、コーポレート・アイデンティティそのものである。また、それが会社の新技術を生み、無駄をカットし、利益へと繋がってきた。健全な経営方針と型にはまらないアイデア、そして、従業員の熱い支援があれば、企業のグリーン化と経営の成功を両立させることができると証明してくれたNBB。ビジネスの新しいカタチを、ここに見ることができる。




ホームページ

New Belgium Brewing Co.
http://www.newbelgium.com/ NBBのウエッブサイト。風力発電を始め、会社のグリーン対策を紹介したページ。


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