関係性の未来

生命体としての地球

ガイア | 地球は生きている
GAIA | The Practical Science of Planetary Medicine
産調出版 本体3100円
地球(ガイア)はひとつの生命体である。工夫を凝らした図表で地球の解剖と生理、地球を蝕む病気を明らかに。多くの学術団体に認められ、英国とアイルランド全土で環境科学や地球科学の講座の大半で課題図書に指定された一冊。

ガイア理論とはなにか?

「ガイア」という言葉を聞いたことのある人は多いだろう。「地球は一つの生命体である」という考え方があることを、現在、私達はそれほど奇異な感覚を持たずに認識している。しかし、「ガイア」というイメージが、様々な分野の中で増幅させられ、抽象的に使われるようになっていることも否めない。

「ガイア理論」とは、イギリスの生態学者ラブロック博士が提唱した、地球というシステム全体をとらえる理論。地球の大気、水系、土壌にまたがる生命圏(バイオスフィア)全体が、一つの巨大な生物のように気温、海水、大気ガス組成などを自己調節・維持しているとみなすものだ。30年前に発表されて以来、環境科学、地球科学のみならず、複雑系、エコロジー運動やニューエイジ思想に至るまで、幅広い分野に影響を与え、しばしば引用される理論となった。

●ガイア仮説の誕生

ラブロック博士は、60年代、NASAで火星探査計画に関わり、惑星に生命が存在するかどうかを調べる検査を提案していた。「生命の証を見つけるのであれば、表面上の一点を見るだけではなく、惑星全体を見るべきだ。もし火星に生命が存在するのであれば、生物はその大気を原料として使い、廃棄物を大気に放出しているに違いない。」というのがその発想。ところが、そのような視点で地球を見た時、大気を生み出す地球表面の生命は、大気を常に一定に保つようにコントロールしているのだ、という閃きが彼の中に起った。やがてこれがガイア仮説となって、1972年に発表されることとなる。ちなみに、「ガイア」とは、古代ギリシア人が大地の女神につけた名前である。この女神は、優しく母性的なのだが、惑星の生活の和を乱す者には冷酷非情。当時、同じ村に住んでいた小説家ウィリアム・ゴールディングが、このラブロック博士の仮説にふさわしいと、この名をつけた。

「地球は生きている」というメタファーを使った彼の理論は、当初、科学者達から大きな抵抗を受けた。しかし同時に、ディープエコロジーやニューエイジ思想の活動家からは、諸手をあげて迎えられた。ラブロック博士自身は、純然たる科学者で、仮説を打ち立てて以来、常に客観的・実証的な視点から理論を組み立ててきた。その着想が独創的だったこと、わかりやすく伝えるためにメタファーを使ったことで、<ガイア>は、ある種、特別な一人歩きをしたのかもしれない。

●生命の新しい定義

ガイア理論の独創性は、次のような視点にある。それまでの地球科学・生物学では、地球は地殻や気候の変化によってある状態に至り、生物はその環境に適応するように進化してきたと考えられてきた。しかしガイア理論では、生物は環境に適応するだけでなく、環境を改変すると考える。さらに、岩石、大気、海洋、微生物から樹木、ユリ、クジラたちにいたるまで、あらゆる組成物が、絶え間なく物理環境と相互作用を続け、ガイアという自己制御システムが生み出されている。全ての生物には、自分で自分の体調を物理的、化学的にコントロールするホメオスタシスの機能があるように、地球という一個のシステムは、まるで生き物と同じような動きを持っていることがわかる。

ラブロック博士によれば、現在の地球は、インフルエンザで発熱している状態に例えられるらしい。バイオスフィアの一部である人間。私達は、地球にとってどんな存在なのだろうか?人間中心的な発想から離れてみると、環境問題も社会も、そして未来も、全く別の様相を見せてくるような気がする。

INTERVIEW


James Lovelock/ジェームズ・ラブロックさん

『「生命(life)」や「生きている(living)」という言葉の定義を再検討する必要があるようです。』
1919年イギリス生まれ。生態学者。ロンドン大学、マンチェスター大学で学び、医学博士取得。米国のイエール大学、ハーバード大学で研究。ロンドンの国立医学研究所専属研究員を20年間努める。1974年、英国学士院会員に選ばれる。現在、英国オックスフォード大学グリーン・カレッジ名誉客員教授。海洋生命学協会理事長。ハーバード大学客員研究員。米国パサデナでの月・惑星探査計画における生命科学顧問。NASAでの活動中、ガイア理論を提唱。「地球とは自己調整機能により快適環境を維持している生命体である」と論じる。著書に、「ガイアの時代」(工作舎)、「地球生命圏」(工作舎)、「ガイア 地球は生きている」(産調出版)、「地球環境用語辞典」(東京書籍)、その他論文多数。

私達が体温を一定に保っていられるのは、ホメオスタシスという機能が働いているからだ。生命は、様々な要因が絡み合い、互いに相関作用を及ぼしながら、システムとして成り立っている。同様に、地球も一つの大きなシステムとして機能していると見ることが可能だ。私達人間は、そのシステムの一要素として存在している。生命体としてのガイア=地球は、推定38億歳。この先10億年の寿命を持っていると考えられている。奇跡のように存在するこのシステムは、この先、どんな運命を選択するのだろうか?ガイア理論の創始者ラブロック博士にお話を伺った。


産調出版:刊

ガイア 地球は生きている より

ガイア理論においては、気候、岩石の組成、空気、海洋などは単に地質学的に作り上げられたものではなく、すべて生命の存在があっての結果と考えている。

生物と非生物の集合体として一つの自己調整システムとして働くもののことを「超生物」と呼ぶ。すなわち、生態系はどれも超生物なのである。

生命には代謝という機能がある。ガイアの場合も酸素、二酸化炭素、窒素などが循環し生命や環境に相互に影響を与え代謝の機能を形成していると考えられる。

□『Gaia』という本は、「惑星が医師の診察を受けたらどうなるか?」というユニークな視点で書かれています。地球は誕生以来、様々な変化を迎えながら、現在に至るわけですが、あなたが考える「健康」「病気」は、どのような状態を指すのでしょうか?

健康と病気は相対的な関係にあります。私たちを含めて、何かが完全に健康であるという状態はほとんどないといっていいでしょう。また、完全な病気であるという状態は、死ぬ時を示しています。地球についても同じことが言えます。地球は、微惑星体の衝撃によって受けた傷がもとで、よく病気になってきました。しかし、100万年、またはそれに近い年月の単位で、回復し、健康を取り戻すというプロセスを繰り返してきました。また、進化するというプロセスにおいて起こる変化は、地球全体の状態を一時的に狂わせることが多いものです。たとえば、酸素が窒素などよりも増え、化学物質的に主要ガスとして出現した時などです。しかし、すぐに状態は前よりも良くなり、酸素の出現は地球に思春期をもたらせたかのようでした。

□「生きている」という状態を、バクテリアや人間などの「生物」に限定せず、新しい視点でとらえたところが、あなたのオリジナルな才能だと思います。たとえば、あなたがコンピュータやネットワークなどを、「生きている」という見方から眺めた時、どんなポイントが見えてきますか?有機的な、そして無機的なシステムの行動について、どのような類似点があるのでしょう。

奥の深い、いい質問です。おそらく、「生命(life)」や「生きている(living)」という言葉の定義を再検討する必要があるようです。「生殖し、そして、その生殖に間違いがあれば、自然選択(淘汰)によって訂正することのできるもの」という狭い生物学的な定義に限られない他の実体、例えば、地球のようなものも包括するようにすべきでしょう。エントロピーが、生命の定義としての承認レベルよりも低いようなものでも全て含むようになればと思います。つまり、人間や動物の産物(シロアリの巣やペンなど)も生命の一部であるということです。コンピュータは人間の産物ですから、同じように生命の一部です。おそらく、コンピュータのプログラム間に、独立した生命形態が現れてくるでしょう。コンピュータ・ウィルスやワームはすでに独立生命への過程にあります。

□Gaiaにとって、テクノロジーの進歩というのは、どんな意味や目的があるとお考えですか?

テクノロジーの進歩によりもたらされるのは、結果だけです。テクノロジーは地球にとって、無害にも、有害にもなれます。テクノロジーを賢く使わない限り、テクノロジーを不適当に使ったために起きる収拾のつかない状態から逃れることはできません。私たちは太平洋を飛行中の環境保護論者の一団と同じです。地球温暖化の原因である二酸化炭素のようなグリーンハウス・ガスを大気中に流しているからといって、エンジンを止めるように飛行機のパイロットに頼むのは分別のあることとは言えないでしょう。

□変化のスピードは加速度的に速くなっているようです。これから10年の間に、地球はどうなっていくと予測されますか?100年後は?

手短に言うと、10年後には気温が上がり暑くなるでしょう。100年後にはもっと暑くなります。信頼のおける団体であるIPPCは、その2001年のレポートで、今世紀末までに1.5℃から5.8℃ほど気温があがると予想しています。

□天候の変化、環境の悪化、情報テクノロジーなどによってもたらされる地球全体の変容は、人間の意識に、どんな変化をもたらすと思いますか?

地球温暖化による最初の深刻な大災害が起きるまでは、私たちは何の対策も行わないのではないかと疑っています。その時が来たら、すでに手遅れで、私たちは文明を失い、石器時代の生活に戻ってしまう運命になるでしょう。そうなったとしても、また、そこから再出発はできます。地球はとても強く、私たちが何を行おうとも生き残るということを忘れないでください。そして、動物としての私たち人間も同じです。その反面、文明とはなんとも壊れやすく、簡単に失われてしまうものでしょう。

□Gaiaのシステムは、優しさと残酷さを合わせ持っているような気がします。人間の種としての目的が、単なる「増殖」というベクトルではなく、新しいターニングポイントを迎えるという時期なのかもしれません。もしそうならば、人間が次に持つべき種としての目的は、具体的にどのようなものだと思いますか?

私は目的という意味では考えていません。私たちは、ここまで生きてこれて、地球をあるがままに見ることができるというだけで、驚くべき幸運ではないでしょうか?この惑星がなんと美しく例外的なものであるのか、私たちの目を通して、認識することができるのですから。


text by 倉田 楽



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