メキシコ人はなぜハゲないし、
死なないのか。

〜NYという空間で考えたこと〜


日本の自殺率25.1、メキシコの自殺率3.1。そんなデータをきっかけに、ひとつの物語が生まれた。作者は、TETSUYA(明川哲也)さん。人気ラジオ番組のパーソナリティーとして活躍したドリアン助川さんとして覚えている人も多いだろう。作家として再スタートした彼に、NYで考えた平和や食べることについて、語ってもらった。

TETSUYA(明川哲也)さん
TETSUYA(明川哲也/あきかわてつや)1962年生まれ。ジャーナリストとして世界を歩き回った後、ドリアン助川の名で1990年「叫ぶ詩人の会」を結成。TV番組『金髪先生』やラジオ番組『ドリアン助川の正義のラジオジャンベルジャン』に出演して人気を呼ぶ。1999年バンドを解散して渡米、3年間のNY暮しを終えて帰国し、2003年秋『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』を出版。作家・明川哲也として本格的な執筆活動をはじめた。日米混成ロックバンド「AND SUN SUI CHIE」のボーカリストとしても活躍中。 TETSUYA/AND SUN SUI CHIEインフォメーションサイト
http://www.raku.co.jp/tetsuya/index.htm

____“悩み相談のドリアンさん”。TETSUYAさんをそんな風に覚えている人も多いだろう。「白血病だとわかった」「お兄さんが首を吊った」― 全国の十代がすがる思いでかけてくる電話に、生放送で答える。その5年間はTETSUYAさんを有名にもしたが、すり減らしもした。

「仕事っていうのは社会が選ぶものですから。そういう仕事ばかりが増えるし、北海道から沖縄まで、どこへ行っても“悩みがあるんですけど”って近寄られる。それがすごくつらくなって、息ができなくなっちゃった。今振り返ると、僕はそういう形で愛情をもらってたんだなってわかるけれども。それでいったん日本を出ようと決めたんです。人生40代からが大事だなと思ったんで、よく考えて方向転換したかった。アメリカが嫌いなのになぜNYを選んだかというと、僕は場所じゃなくて空間に行ったんです。NYには180もの国からの人がいるんですね。なるべく多くの人に出会える空間に行きたかったから」

____NY滞在中、転機となったのは、アパートの部屋から目撃した9.11のテロ事件だった。

「行動が問われた事件だったんですよ。あの事件の直後、日本では“アメリカが自ら招いたことだ”という発言が少なくなかった。でもまだ何千人埋まっているかもわからず、周囲でなすすべもなく10万人が泣いているときに、そう言い放ってそれでいいのか。アメリカが嫌いだということと、一般市民が何千人も巻き込まれて殺されていくということを、同列にしちゃいけないような気がする。僕は知的であることというのが、すぐに結果をまとめることなんだろうかっていう疑問があるんですよ。知的であるということは、考えること。ひょっとしたらみっともないくらい答えが出ないことかもしれない」

____その日からTETSUYAさんがとった行動とは、つぶさに見て、記憶して、本当に考えることだった。その結果、国連という“人間の知恵”にたどり着く。

「絶対に攻撃はしたくない。だけど市民を何千人も殺すぞっていうテロリストが来たら、仮に相手に正義があろうと、それは阻止するだろう。結局僕は、そういう極めて平凡な人間だったんだとわかった。で、そこに自信を得たんです。僕は汚れてる部分もあるし、ダブルスタンダードでもある。実は人間ってそうなんじゃないだろうか。だからこそ世界は第二次世界大戦が終わった後に、国連というものに希望を委託したんじゃないか。なぜなら我々はみんなダブルスタンダードで、いざとなったら暴走する可能性がある。だから国連というものが一番機能しなきゃいけない。その世界の知恵を、もう一度確認すべきなんじゃないか。だから今回ブッシュが行った最も罪なことは、国連をないがしろにしたことだと僕は思っています」

____そんなおり、NYでよくカレーを食べに行っていたチベット難民の店で、“Peace is a way.”という言葉に出合う。

「その店で売っていたチベット仏教の本の中に、こうあったんです。“There’s no way to peace. Peace is a way.――平和というものは達成目標ではなくて、やり方なんだ”。たとえばすごく仲の悪い家族があって、“うちが平和になるために一回殴り合いをしよう。強いやつから順番に場所を決めてって、それで平和を達成しよう”っていうのが今の世界なんですよ。そうじゃなくて、“殴り合いをしないために、今日まず一緒に飯を食おう”っていうのが、平和っていうやり方だと。まず僕たちが個人のこととして実践すべきことだと思ったんです」

____最低の生活を強いられながらも、暢気な様子のNYのメキシコ人たち。口に含むと爆笑してしまうほどおいしい、イーストビレッジのメキシコ料理屋のトマト料理。そこには“まず一緒に飯を食おう”という平和が見え隠れする。日本で自ら死を選ぶ人が多いのはなぜかを考えたTETSUYAさんは、食べ物に答えを求めた。

「NYのNHKの駐在員と酒を飲んでたときに、“メキシコ人が死なないらしいよ”って彼が言う。帰宅してWHOのサイトで調べてみたら、もうびっくりですよ。自殺率ってこんなに国によって違うのかって。日本は西側社会でワーストワンですよね。で、メキシコを見たら笑っちゃうくらい死なない。宗教、音楽、いろんな要因を考えたけど、どう考えても環境はつらいんです。これはいっちょ研究してやろうと思って、半年ほどリサーチをした。なぜ食べ物に目をつけたかというと、本当においしかったんですよ、イーストビレッジのメキシコ料理屋が。そこのトマトのバーベキューっていうのが、笑ったあとに泣きそうになるくらい抜群で。改めてメキシコ料理って何だろうって箇条書きにしてみたら、突出して食べるものが、トマトとインゲンマメとトウガラシ。それで各国の摂取量と自殺率表を、試しに合わせてみたら、本当に反比例しちゃって。“これはもしかしてオレ、ひとりですごい研究を始めちゃったんじゃないのか?”って思いましたよ」

____「ぱっとしない中年の調理師が、人類を救う旅に出る。行き先はメキシコ。そこには憂鬱の砂嵐を止める4つの宝がある。その宝とは、トマト、インゲンマメ、トウガラシ、そして…」徹底的なリサーチで得たあらゆるデータを盛り込んで、“データファンタジー”小説が生まれた。

「じゃぁ、いつトマトやトウガラシは世に生まれたんだろう。そのころ世界はどんなだったんだろうって調べていったんです。最初から日本にトマトがあったわけじゃない。どこから来たのか? インドにはもともとトウガラシがあって、カレー粉ができたのか? 黒人奴隷は、最初北米のどこに連れて来られたのか? ありとあらゆる事の始まりが、メキシコとスペインからだったんだ! そう知っていく中で、食べ物の効能についても調べたんです。僕は昔からファンタジーが大好きで、そういうストーリーの中にこういうデータをてんこもりしたらどういうことになるかなって思った。それでできたのが“データファンタジー”って呼んでるこの本です。僕、永遠に無理かと思ってた煙草を、NYでやめちゃったんですね。いつか禁煙本も書きたいんだけど、それもファンタジー小説にしたい」

憂鬱をふきとばすメキシカン・レシピ

「トマトのバーベキュー」 (「メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか」よりTETSUYAさん推薦)
「つぶれそうだったイーストビレッジのメキシコ料理屋が、やけのやんぱちで考案した料理。口に含んだ瞬間爆笑してしまうほどのおいしさです」

  1. 鍋に醤油と酒、みりん、砂糖、少々の昆布出しを適量入れて火にかけ、テリヤキソースをつくる。
  2. アボカドをつぶし、ライムジュースと塩を入れてワカモレをつくる。Bトルティーヤを揚げる(既製品でもよい)。
  3. 金串にカットしたトマトを刺す。D生クリームを泡立てる。

1.のテリヤキソースをはけで塗りながら、4.のトマトを焼く。3.のトルティーヤに2.のワカモレをのせ、その上に焼いたトマトをのせる。最後に5.の生クリームをトッピングする。

____食物の効能を知らなくとも、食べることが人を元気づけたり幸せにすることは、日本人もよく知っているはずだ。けれども漠然と食べるだけでは、食物の神秘的な力は自分の中にわきあがってこない。そうTETSUYAさんは考える。

「たとえばあがり症のミュージシャンの中には、あがらない薬を飲む人がいる。いや、そんな薬があるわけではなくて、“太田胃散飲むとあがらない”とか信じてるものを飲む。そしてそれが効くわけです。ひょっとしたら、僕の書いたこの本って、その程度のものかもしれない。でも実際にメキシコ人が世界で最もタフに生きてることは本当だし、メキシコにはこんな食べ物があって、こんな歴史を経て世界に広がっていった。そしてこんな効能があるっていうことも本当なんです。それを信じない人にとっては、トマトはただのトマトでしかない。だけど信じる人は、トマトに祈りたくなるかもしれないし、トウガラシがイキなやつに思えるかもしれない。僕自身、この本を書いてがんばろうという気持ちがわきましたよ。

最近よく年収300万円時代の生き方っていうけど、そのときに何ができるかっていうと、たとえばキュウリ一本モロキュウにしたときに、それを味わえるかっていう、そこのリアル感。どんな農家の親父が育てて、どんな人がトラックで運んできたんだろう。そんなことにまで思いをはせて、そのモロキュウで酒が飲めるかどうかが、本当の意味で年収300万円時代の食べ方でしょう。僕にとって食べるというのは、そういうことなんです」

____iBook片手にNYへ。この物語はWHOのウェブサイトで見たデータに着想を得て執筆がはじまり、晶文社のウェブサイトで連載されていた。その体験からTETSUYAさんが得たものは─。

「ウェブ公開したものがそのまま本になるわけではないし、ましてやラストは隠しますので、僕にとってみると、ウェブでの連載はおおいなる助走という感じでした。愛用しているiBookは、2年前に発売された朝、新聞に一面広告が出たんです。そのコピーが“人生をたちあげよう”。“これだ、オレもこれで一冊本を書くぞ”って思って、買いに行ったんです。いろんな仕事を経て、迷いに迷ったけれど、結局何に自分の人生を託すのかと考えたときに、“この一行”っていうのに託したいと思った。そしてそれは、本であろうと歌であろうとかまわなくなったんです。言葉を紡ぐ仕事を、残りの人生はやっていきたい。以前にもドリアンの名で本を十数冊出してますけど、それは書けといわれて書いたもの。そんな僕が、作家という意識をもって日本に帰ってきた。それが大きな財産ですね」

Text by : JUNCO



バイオグラフィー

著書『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』


明川哲也 昌文社 2900円(税別)
44歳、薄毛。とてもつもなく冴えない男が、人類を救う旅に出た。鬱からもっとも遠い国メキシコの秘密に迫る、食物と地球の歴史をめぐる「データファンタジー」。生きる力をリアルに描いた渾身の長編小説。

著書『食べる 七通の手紙』


ドリアン・T・助川 文春文庫 534円(税別) 食べることと生きることを問う、書き下ろしエッセー

著書『湾岸線に陽は昇る』


ドリアン・T・助川 講談社文庫 486円(税別) 「絶叫詩人」たるドリアン助川の放浪の日々を綴る一冊。

CD『SUN』』


AND SUN SUI CHIE RAKU-3001 原材料、ロック&ハードブルース、対象年齢40歳以上と銘打ったCD。全国主要CDショップ及び楽工房、ライブ会場にて発売。


Back to home.