電動アシスト自転車と エンジンスクーターの中間
ヤマハ発動機が「Passol」という名前のスクーターを発売するのは、実は今回が2度目だ。最初は、今から25年も前にさかのぼる。
1977年、当時人気絶頂の女優、八千草薫をキャラクターに起用し、「優しいから好きです」というコピー文句で大ヒットしたヤマハの50ccスクーターが、初代の「パッソル」だった。普通の「オートバイ」のように、足の間に巨大なタンクがなく、スカートのままでも足を揃えて乗れる(ステップスルー)というところが女性に圧倒的に支持され、爆発的な人気商品となった。
そして、あれから四半世紀。今、地球を、人類を悩ませている事態は誰もがご存知の通り。特に大気汚染、これを何とかしなければいけない。排ガスをクリーンにする責務を負った4輪メーカーはこぞってガソリンエンジン(内燃機関)からの脱却を図り、ハイブリッド自動車や電動自動車を開発。一部は既に実用化に成功している。対して2輪メーカーの取り組み方は、傍目にはどうも腰が重いように映った。しかしもちろん、2輪メーカーだってこれまで何もしなかったわけではない。その何よりの証明が、今回のエレクトリックコミューター(電動スクーター)“Passol”なのだ。
注目すべきなのは、原動機が電動モーターである点ばかりではない。なんとこの“Passol”、ヤマハ発動機のホームページから、インターネット限定発売なのである(今回は、来年春の全国発売に先立っての地域限定発売)。
探検隊は、ヤマハ本社に隣接する「コミュニケーションプラザ」で、Passol開発陣の方々にお話を伺うことになった。ここにはヤマハ創業時からの歴史的名車の数々が一堂に展示されており、オートバイ好きにはたまらない愉悦の楽園なのだが、我々はそうした展示物に目を奪われつつ、3階の会議室に向かった。
「ヤマハはこれまでに、3回のモーターショーに電動スクーターを出展してきています。今回のPassolのプロトタイプを入れれば、4モデル出展している計算です」(ヤマハ発動機MC事業本部 商品企画室・石橋真実さん)
実はヤマハ発動機の電動スクーターへの取り組みは、十数年に及ぶ。研究の成果として、93年には免許のいらない電動アシスト自転車「PAS」を発売。この「PAS」の開発に際してモーターの制御技術が格段に熟成したこと、また市場の動向が把握できたことなど、多くのタイミングが収斂する形で今回のPassol発売に至ったのだ。
「電動スクーターというものは、以前から開発していたんです。ただ、最初は我々もエンジン車と同じ性能を追っていた。まあ、同程度の性能は出るんですよ。スピードとか。でも、いろいろと無理が出る。まだ航続距離も短いし。それで、発想を変えたんです。それがつまり、電動コミューター、という呼び名の意味するところです。具体的には、若い女性が家の近くにちょっとした買い物に行く、という設定。スポーツ性は度外視しました。今回のPassolは、電動アシスト自転車のPASと、ガソリンエンジンのスクーターの中間を狙った存在なんです」(同・技術開発室制御技術グループ・武智裕章さん)
しかし内燃機関は滅びない
今回の探検隊員は、3名中2名が現役のライダー。実際に、ガソリンエンジンのオートバイに毎日乗っている人達。もう一人も原付利用者で、この新しい乗り物に朝から興味津々。ひとしきりお話を伺ったところで、さあ試乗会となった。実際に目の前にするPassolは、思ったよりもずっと小さい。
「平均的なサイズのエレベーターに入る大きさなんです。外に停めないで、家の中に持って入れるようにと」(石橋さん)
キーを差し込んで回す、までは今までのオートバイと同じだが、ここからが違う。デジタルのメーターが起動し、3つ並んだボタンのどれかを押すように催促してくる。押すと「ピッ」とスタート音が聞こえる。シートに腰を下ろし、右手のスロットルを回すと、Passolはなんの前触れもなくスーッと走り出した。
耳慣れたエンジン音は、まったく聞こえない。静かな分、速度感が意外にある。慣れてくると、モーターが「ヒューン」と実に未来的な駆動音を奏でているのに気付く。この音は別に意識して作った音ではなく、モーターが発する自然な運転音なのだそうだ。
「あ、マフラー(排気管)が無いんだ!」と、探検隊員の今井さんが叫ぶ。そう、電動だから排気ガスは出ないのだ。バッテリーはシートの下に装着されている。充電の時は取り外して、一般の家庭用コンセントにつなぐだけ。充電に要する時間は約2時間半。1回の充電で32Km(30km/h定地)走ることができる。普段、原付を利用しているという、静岡県から参加の杉本さんは「これなら良さそうですね。全国発売になったら買おうかな」と、大いに興味をそそられたようだ。
しかし埼玉から磐田までオートバイでやってきた平出さんは「バイクってあの爆発音というか、ドコドコという力が楽しいというところがあるじゃないですか。それが全部こういう電動スクーターになったら、街中ヒューヒュー、モーターの音ばっかりになってしまうんでしょうかねと、少々不安を抱いた様子。これを聞いた武智さんが、すこし嬉しそうに答えた。
「いや、内燃機関が滅びることはないと思いますよ。やはりあの迫力というか、パワーはガソリエンジンならではのものだし。だからGPマシンが電動になることもないでしょう。第一、今のエンジン性能や航続距離を電動で求めたら、車重が400kg以上になってしまう。とても現実的ではない。ヤマハという会社は、新しいものにチャレンジするのが大好きなんです。スクーターでも、最近よく聞くように低価格とかに走るのではなく、別の方向を探りたい。ガソリンエンジンだけでなく、広い意味で動力源を創造していきたいんです。」
しかしヤマハのチャレンジ精神は、発動機の開発に止まるだけではないらしい。石橋さんにPassolから派生した新しいアイディアを聞かせていただいた。
「電動コミューターって、まだ市場として全然できあがっていないし、ユーザーの声も吸い上げているとは言えない。これで初めて、いろんなことがわかった。実際にPassolを見て『欲しい』と言ってくれた女性が『でもどこで買うの? バイク屋さんってどこにあるの?』って、わざわざバイクショップを探さなくても買えるようにしたり、でも、買った後のケアはできるようにしなければいけなかったり。だから、バイクショップには展示してないんですけど、実際の納車は近所のショップからするようにしてます。あと、これは今後のことですが、例えばどこでも充電できるようにインフラの整備が必要になるな、とか、充電している間に時間をつぶせるように、ファミリーレストランに充電設備を設置しようか、とか、今いろんなアイディアが生まれています。」
数年前、ハイブリッド自動車の構想が明らかになったとき、誰もがその運動性能や使い勝手にかすかな不安を覚えたはずだ。しかし現在、その存在に疑問を差し挟む人はいないだろう。かつて「スクーター」という市場を初代Passolが切り開いたように、今「電動コミューター」という市場をこのPassolが開拓しようとしている。電動コミューターPassolは、低公害移動手段の未来と同時に、オートバイ全体の未来をも担って、走り出そうとしているのかもしれない。
text by:石上 耕平
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