アートとプレゼンテーションのエンタテイメント的融合

魚をモチーフとした「きもカワイイ」製品の数々。指パッチンで木魚を鳴らすパフォーマー。歌って踊り、CDも出すミュージシャン。高度成長期の中小企業よろしく、青い作業服に身を包むスタイル。安易な肩書きでは定義することができないほど、多岐にわたる活動を続けるアートユニット・明和電機の代表取締役・土佐信道社長は、何でも型にはめて、安心してしまいがちな我々の凝り固まった思考をエンタテイメント的な手法で解きほぐしてくれる。


profile

「魚が進化して陸に上がったのは,その魚が陸に上がりたいという好奇心を持っていたからだと思うんです」 明和電気/土佐信道(めいわでんき/とさ・のぶみち)。1967年兵庫県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科修士課程修了。'93年、兄の正道氏と共に、アートユニット「明和電機」を結成、代表取締役副社長に就任する。このユニット名は、彼らの父親が過去に経営していた会社名から取ったもの。高度成長期の中小企業の制服姿で、作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶスタイルで活動を開始。同年、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)主催の第2回アート・アーティスト・オーディションで大賞を受賞したのを契機にSMEに所属。活動は展示会からライブでのパフォーマンス、CDや本、グッズの販売など多岐にわたる。'98年、吉本興業に移籍。'00年にはグッドデザイン賞を受賞(人間では初)する。'01年に兄が「定年退職」し、代表取締役社長に就任。パリ、ロンドンで初の展覧会やライブを行うなど、世界的な評価も高まりつつある。

魚器シリーズ

「自分とは何だろう?」という問いに対して、魚をモチーフとした道具にすることを思い立った土佐社長が、「1アイテム=1メッセージ」のコンセプトで制作した。

魚コード


頭がオスプラグ、尻尾がメスプラグになった、魚の骨の形をした延長コード。自然のもの、人工のものを問わず、世の中すべてのものには魂が宿っているという「八百万(やおよろず)の神様」という考え方を、現代に蘇らせたいという願いが込められている。

サバオ

13週目の胎児の腹話術人形。ピストル部分の引き金を引くと、顎が動く仕掛けになっている。思考の補助の道具として腹話術人形を使うことを思い立った土佐社長が、子宮の中の創造の象徴である胎児のイメージとミックスさせて作り上げた。

コイブミ

水槽内で回転するレーザーを魚が通ると、接続した電動タイプライターが作動し、魚が通った軌跡で文字が打たれる。魚が書いた文学作品が生まれるかもしれない、との思いから作られた。

エーデルワイスシリーズ

女性の持つ「子宮、遺伝子、ファッション、エロス、母性」をモチーフとして、メス化する世界とそれに対するオスの生き方を問いかける製品群。

マリンカ

自動開閉式の6枚弁の木琴。演奏時に花が開き、終わると花が閉じる仕掛けになっている。開閉機構は「パチモク」のウイングの仕組みを応用。

プードル

脆弱なオスが、強靱なメスに対抗するために作った金属性の顎。重量は20キロ。

セーモンズ

ゴム製の人工声帯に空気を送り、その張力をコンピュータ制御することで歌を歌う装置。3体あり、それぞれ「アン、ベティ、クララ」と名付けられている。

末京液

マツモトキヨシで買った美白液、乳液、シャンプーなど、女性が普段体につけている150種類の液体を入れた試験管を弾丸にして発射するマシンガン。試験管の中の液体は、何にでも使えそうだが、何の役にも立たない、終末の東京という意味が含まれている。

ツクバシリーズ

「100ボルト電流を使う」「発音するのにスピーカーを使わない(アコースティックである)」「演奏方法がバカバカしい」をコンセプトとした打楽器系の楽器群。ちなみに「ツクバ」は、茨城県の科学技術都市「Tsukuba」から命名された。

パチモク

指パッチンで開閉式ウイングの先に取りつけられた木魚を鳴らす。明和電機のライブでは欠かせない人気の楽器。展示されているパチモクには、元祖・指パッチンのポール牧さんのサインが入っている。

コイビート

64個のスイッチがついた、手動式の鯉のぼり型リズムマシーン。スイッチで打ち込んだリズムを、ハンドルを回して音を出す。

ギターラ

100ボルトのスイッチ内蔵鍵盤の足踏みオルガンで、6本のギターに取りつけたノッカーをリモートコントロールする楽器。

(c)吉本興業/明和電機 撮影:三橋純

HOMEPAGE


明和電機オフィシャルホームページ

BOOK


明和電機
ナンセンス=マシーンズ
これまで開発してきた明和電機の全製品が収録されたカタログ写真集。
発行:NTT出版
価格:2,625円(税込)

DVD


メタトロニカ
2003年11月。パリで行われた明和電気のライブを収録。メイキング映像の特典もあり。発売・販売:ソニー・ミュージックダイレクト/価格4,830円(税込)

自己の内面を作品にして、
プレゼンテーションするアートという考え方

明和電機には『サバオ』という製品がある。13週目の胎児の顔を模した腹話術人形だ。一見、不気味な人形だが、多くの女性から「きもカワイイ」と言われ、グッズ化されるほどの人気だ。

「そう言われるのはすごく嬉しいです。『サバオ』は単純に僕の好奇心の賜物なんですけど、女性はある種の反応をするんですね。明らかに気持ち悪いのに、可愛いって言うんですよ。実は僕、子宮というものにすごく憧れがあって、限定された空間の中に水が満たされて、その中で命が生まれるというシミュレーターになぜか惹かれるんです。女性がなぜ胎児をモデルにした『サバオ』を可愛いと思うかというと、男が持っていない母性みたいなものがあって、何かしら引っかかるものがあるからじゃないのかな」

そう語るのは、アートユニット・明和電機の代表取締役である土佐信道社長。限定された空間で展開される世界観は、明和電機の重要なコンセプトである。『魚コード』と呼ばれる魚の骨のコード、『パチモク』という指パッチンで、木魚を叩く楽器など、魚をモチーフにした「魚器シリーズ」も、そのコンセプトに基づいている。

「小さい頃、魚の夢をよく見たんですが、なんだか自分の中のドロドロした部分が夢の中で奇形の魚として出てくることがありました。それで、なんとかそれを現実のものとして引っ張り出そうとしたときに、機械にして形にすることがすごくしっくり来たんですね。その際、『水槽の中の魚』という図式がモデル化しやすかったんです。水槽の中の魚と、それを眺める人間の関係を形にしたりしてね。あと単純に魚の骨が好きなんです。なんか弓矢に近いというか、構造の美しさがあるんですね。最終的に僕の内面で、全部魚の形に落としこめることができたんです」

自己の内面を形にすること、それは「作品」とか「アート」と呼ばれるものになり得るかもしれない。しかし土佐社長の作り出したものは、さらにエンタテイメントとして楽しめるものになっている。

「小さい頃からプレゼン大好き少年だったんです。小学生の頃から人前で何かを発表するのが得意で、模造紙に絵や文を書いて、毎日のように誰かに見せて説明してましたね。でも変な魚の夢を見たという個人的なことって、そう簡単に人には伝えられないと思うんですよ。それでもなんとかあの手この手を使って、みんなに伝えたいという一種のマニアなんだと思います。作家として変だな、と思ったりもするんですが、プレゼンテーション・アートというジャンルがあるんじゃないかと思うぐらい、僕はプレゼンが大好きなんです」

絶妙なバランス感覚
末っ子であること、そして吉本に所属すること

バランス感覚の良さ。それが土佐社長を語るキーワードになりそうだ。 

「末っ子感覚なんでしょうね。僕は4人兄姉の末っ子なので、ずっと年上の兄姉を見ながら暮らしていたというのがあるのかもしれない。末っ子は根回しをうまくやっておかないと、すぐお菓子を他の兄姉に食べられてしまいますから。
例えば、お菓子がテーブルの上に出されると、兄姉がみんなうわっと手を出す。僕は小さいから食べるスピードが遅いわけですよ。だからみんなが食べてるときに、僕は一個食べるフリをして、ポトッと膝の上に落とし、さらにもう一個取るんです。そしてあとでそれをポリポリ食べるという(笑)。なんかこすいところがあったのかもしれませんね。そういうところが僕のバランス感覚を育ててくれたのかな」

『アーティスト』『パフォーマー』『ミュージシャン』。さらには『会社社長』など、実に様々な肩書きで語られることの多い土佐社長だが、どう呼ばれるのがしっくり来るのだろう。

「アーティストっていうと、ちょっと違う気がしますね。エンジニア、と言われたら嬉しかったりしますけど…。まあどんな呼び方でも構いません」

そのスタンスは、明和電機が吉本興業に所属しているところからもうかがえる。

「吉本に所属していると、どうしても『お笑い』の人と思われるかもしれませんが、そう思われても全然OKです。僕が思うに、芸術ってやっぱり西洋から持ってきたものという感覚があるんです。西洋の上流階級のものである芸術をそのまま日本に持ってきたんだけど、この国にはもともとそんなものはなかったと思うんです。むしろ俳句とか盆栽といった庶民の文化があって、歌舞伎のように芸術ではなく、芸能のようなものが盛んだったわけで、だからそういう芸能のプロフェッショナルである吉本と、明和電機のやっていることは割と近いんです。芸を見せたり、工芸品を作ったりしてますからね。あとお笑いというのは瞬発力の産業で、その場でみんなに笑ってもらって消えていくものですよね。そして日本語なのでドメスティックなんです。海外に持っていけない。僕らは製品に笑いを残すことができるんです。ゲラゲラ笑えるものではないんですが、吉本としては、海外へのビジネスができるんじゃないかという期待があると思うんです」

吉本興業と良いパートナーシップを維持しながら、土佐社長は今後も製品作りを続けていきたいと語る。

「僕の出発点は絶対モノ作りなんです。作ったものに確固たる自信がないとプレゼンする気にはなれませんし、何も作らずにパフォーマンスをすることはあり得ない。
昔、学生のときに、アルバイトで味噌の訪問販売をしたことがあるんですよ。それはどう見てもインチキな味噌なんです(笑)。それを売らなきゃならないときに、自分にウソをついていることが辛くてね。だからちゃんとした味噌を作って、みんなに美味しい味噌汁をのませたくて仕方がない、そういう感じです」


INFORMATION

12月26日まで、東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて、これまでの活動が一望できる「明和電機ナンセンス=マシーンズ展」を開催中。期間中、トークショーやワークショップなどのイベントも活発に開かれている。
詳細はICCホームページhttp://www.ntticc.or.jp/まで。

明和電機のある暮らし
テクノロジーへのアンチテーゼとナンセンスの意味

 現在、東京は初台で開催されている明和電機の展覧会。会場の入り口では、実寸大の居間が展示され、『魚コード』が実際の照明スタンドに繋がっていたり、壁には魚の骨のレリーフが飾られていたりして、『明和電機のある暮らし』が提案されている。

「要するに、テクノロジーの進歩が効率優先になってしまっていることへのアンチテーゼなんです。テレビのチャンネルや電話のダイヤルが消えてしまったのは、作るのにコストがかかるし、壊れやすいからです。だからすべてボタンになってしまった。でもこういう可愛くて味わい深いインターフェイスが消えてしまっていいのかっていう気がするんです。だからi-Podはあんまり好きじゃないんです。そんなに曲が入ってどうする、っていう気がして(笑)。僕はMacも使っているんですが、どうも明和電機の制服と合わなくて。お洒落すぎるんですね。まあ俳句的な感覚というか、ミニマムな世界でも表現活動はできるし、死んでしまったテクノロジーにもいいものがあると思いますよ。
『ガチャコン』というチャンネル式のテレビリモコンを売り出したのもそういう危機感からですし、企業の効率だけで生活していると消費だけの文明になってしまう。それに対しての、いわばスローテクノロジーへの思いがあるんです。なんかこう、日々の生活の中で、自分がピュアで清らかになれる瞬間があるといいんですけどね。そういう様式が『明和電機のある暮らし』だと思います」

展覧会のタイトルは「ナンセンス=マシーンズ展」。この「ナンセンス」という言葉は、辞書で引くような「非常識」「無意味」という意味ではないと語る。

「『超』常識、という意味で『ナンセンス』という言葉を使っています。常識を越えることは創造性に繋がることなんです。現状に満足しないで、いろんなものに挑戦し、失敗しても諦めずにモノを作っていく歴史の積み重ねが大切だと思います。
生物は環境変化によって進化するというのが常識ですが、僕は、生物は自分が進化したい、と思って進化したと信じています。それは僕が新しいモノを生み出すときに、進化したと実感したからです。科学的には証明できないかもしれないけど。
だから大昔、魚が進化して陸に上がるときって、みんなから反対されたんだと思うんです(笑)。陸なんか大変だから行くのをやめろってね。でもその魚は面白そうだから陸に上がった。好奇心だと思うんです。失敗もあったでしょう。でもその連続で生物は進化したんじゃないでしょうか。僕もそうありたいですね」

現状に満足せず、それを乗り越えようとする意思。それが「ナンセンス」だと土佐社長は語る。アーティストとしての明和電機の活動は、前向きに生きる、というメッセージを含んでいるのかもしれない。




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