日本に定着した「使い捨て文化」。しかし使い捨ては環境負荷が高く、さらにごみ問題が加速する。
そこで、環境問題と脱・使い捨て社会を考えるひとつのきっかけとして、国際環境NGO「FoE Japan」が今夏から展開している「スターバックスさん、おいしいコーヒーを使い捨て容器に入れないで!」キャンペーンを例に挙げ、世界各国での対処法、企業の社会的責任(CSR)と消費者のスタンスを一緒に考えてみたい。

profile

こういったライフスタイルが
永遠に続けられないことはわかっています。

国際環境NGO FoE Japan__広報ディレクター、脱・使い捨てプロジェクト担当
瀬口亮子さん__RYOKO SEGUCHI
国際系企業勤務後、環境雑誌の編集を経て、2002年からFoE Japanスタッフ。
国際環境NGO「FoE Japan」

http://www.foejapan.org/

国際環境NGO「FoE Japan」

米国の環境運動家デビッド・ブラウアーが1971年、「国際的な環境保護のネットワークを作りたい」と提唱したのが「Friends of the Earth (FoE)」 の始まり。彼の呼びかけに応じた欧州と米国のNGOにより 「FoE インターナショナル(FoEI)」 が創設。現在、アムステルダムを国際的な拠点として、68ヵ国に100万人のサポーターを持つネットワークに育っている。「FoE Japan」は1980年に設立。

「スターバックスさん、おいしいコーヒーを
 使い捨て容器に入れないで!」キャンペーン概要

「スターバックスコーヒージャパン株式会社」に対して「FoE Japan」脱・使い捨てプロジェクトが実施しているキャンペーンの総称。特に若いユーザーの立場から、同社に「お願い」するスタンスを取り、以下の3つのアクションを行なっている。

「スターバックス」の店員に手渡した「使い捨て容器に入れないで」というメッセージカード。
  • 【アクション1】
    本社への手紙、Eメールの送付。
  • 【アクション2】
    店舗で注文時にリユース容器に入れてくれるように求め、店員にメッセージカードを渡す。
  • 【アクション3】
    他のユーザーにもリユース容器で飲むことを広める。

8月にはスターバックスコーヒージャパン株式会社に対し、店内における使い捨て容器の使用をやめ、リユース容器に切り替えるように求める要望書と公開質問状を提出。9月には公開質問状への回答をネットで公開した。

キャンペーンに楽しく参加し、周りの人にも伝えるためのバッジ。絵柄は3種類、大きさは大(直径4cm)と小(直径3cm)の2種類(1個200円、3個で500円)。

キャンペーンの背景と手ごたえ

__世界の資本主義国と日本とでは使い捨てに対する意識は異なりますか?

飲料容器の例を挙げると、ドイツや北欧ではもともと水やビールなどガラスのリターナル瓶(瓶入りの飲み物を買ってその瓶を店に返し、同じ瓶を何度も使うシステム)が主流です。ペットボトルも流通していますが、環境への負荷が高いという理由でリユース瓶へ誘導するシステムができています。スーパーなどのレジ袋にしてもないのが普通だし、有料だからみんなはマイバッグを持参しています。

日本や韓国は、アメリカ型の大量生産大量消費のライフスタイルが入ってきたことで、使い捨てが浸透しました。その代表的存在が、「マクドナルド」の上陸(1971年)以来定着したファーストフードの使い捨て容器です。世界一の普及率の自販機によって、飲料容器は缶とペットボトルが主流になっています。


__石油資源に限界があるのだから「使い捨て文化」にもブレーキがかかるのでは?

使い捨ては楽で快適ですが、こういったライフスタイルが永遠に続けられないことはわかっています。そもそも石油資源は有限で、飛行機や船に使う輸送エネルギーもやがて枯渇します。これまでプラスチックなどは安価でしたが、限りが見えてくると価格が高くなります。輸送にかけるエネルギーが貴重になれば、輸入品は高くなるでしょう。ですから使い捨ての消費スタイルは、そう長く続かないということです。

日本はゴミ処理場が満杯になるという理由で、排出された物をリサイクルするための法律を作りました。それが現在、機能しつつあります。しかし発生抑制(ゴミ排出の抑制)に関しては手だてがない。「発生抑制が優先」と行政は謳ってはいますが、理念を言うだけに留まっています。

※注1:容器包装リサイクル法…1997年に施行。家庭から一般廃棄物として排出される容器包装廃棄物のリサイクルシステムを確立するため、「消費者」が分別排出し、「市町村」が分別収集し、「事業者」がリサイクルするという各々の役割分担を規定する法律。

また『容器包装リサイクル法』※注1は、カバーする範囲が現在のところ限定されています。ファーストフード店では、持ち帰る容器は容器包装リサイクル法の対象になりますが、店内で使用される同じ使い捨て容器についてはリサイクルも削減も義務づけられていません。

ですから、一般の人がふだん暮らしていて「そんなにムダな包装や容器を使わなくてもいいじゃないの?」と思う最もわかりやすいものが、ファーストフード店の使い捨て容器なのです。それらの企業は環境に対していろんな努力をしていますが、消費者に見える部分は使い捨て容器です。こういった矛盾を子供たちは敏感に感じています。だからこそファーストフードチェーンやコーヒーチェーンをキャンペーンの対象にしたのです。

中でも近年国内で急激に増加している米国系コーヒーショップチェーンでは、冷たい飲み物が、プラスチックの使い捨て容器で提供されています。これは従来のファーストフードチェーンでも行っていなかった石油資源の浪費です。特に最大手である「スターバックスコーヒー」は、若者に人気があるだけに使い捨て文化のファッション化も懸念されます。

__店内で飲む際には店にあるリユース容器に入れて提供してくれるよう、手紙やEメールを本社へ送付するアクションはどれくらいあったのですか?

FoE Japanを通して「スターバックスコーヒージャパン」本社に届けたユーザーからのメッセージの数は約200件です。彼らとしては脅威になるほどの数ではないにしても無視することはできないでしょう。またこのキャンペーンがマスコミに報道されたり、「スターバックス」にもいろんな問い合わせが増えるにつれ、先方に変化が見られました。多くの消費者から「店内では使い捨て容器でなく、マグカップに入れて欲しい」という要望があることが、本社全体にはもちろん、店舗の管理者にもインフォメーションされたようです。



__一般の方からの意見はメールで届くのですか?

メールで届くケースが99%です。「FoE」やキャンペーンに興味を持ってもらうきっかけもウェブを見たという人が多いですね。全国どこからでも気楽に参加できますから、ウェブはとても重要です。興味深いのは、海外在住の日本人からメールが届くことです。私たちのキャンペーンは、日本の「スターバックス」を変えることが目的ですが、「同じことをオーストラリアでやりたい」と申し出てくる人もいます。海外の「FoE」にも英文でキャンペーンの内容を送ったところ、FoEフランスで、パリ市内のスタバに対し同様のキャンペーンが開始されました。

「スターバックス」ファンからは、キャンペーンに賛同するメールとともにスタバを擁護するメールも届きました。しかし「あなたもマイカップを持って歩くべきだ」という意見は、議論になりません。ほとんどの人は街を歩いていて、たまたまふらっと「スターバックス」に入る時のであり、マイカップを持っていないのが当然なのです。

__今後の展開は?

「スターバックス」が店内では原則としてリユース容器に転換するまでこの運動は続けていきます。ただ先方が念を押すのは、100%は無理だということと、すぐには変更できないということです。「リユース容器に変えます」と宣言すると、遂行しなければいけなくなりますから、慎重になっていると思います。私たちもすぐにシステムを変更することが無理であることはわかっていますが、止まっているのでなく、向かって欲しい方向に少しずつでも動いているので、同社の変革を応援していきたいと思っています。



企業の社会的責任(CSR)
――環境に無関心の企業は淘汰される?

欧米の経営者の間では、従来の「経済的側面」だけでは企業の果たす役割としては不十分という考え方が広まり、自然環境、労働環境、地域貢献など「社会的側面」を持ち合わせた企業が評価されている。社員にもNPOやNGO活動に積極的に参加するよう促している。

こういった傾向の背景にあるのが環境基準だ。特にEU諸国は日本以上に厳しい。そうした国々に輸出するには、環境に配慮した製品でなくては売れなくなってきている。そこで環境保全を事業戦略に取り入れ、ビジネスチャンスと捉える企業が登場。さらに環境保全を社会的責任と考え、持続可能な社会に貢献する企業が評価されるようになったのである。

EU諸国の政策提案文書(グリーンペーパー)には「社会的責任に関して明確な方針を打ち出して実行していない企業とは取引をしない」と記載されている。つまり、ペナルティーが与えられるのだ。

日本では、社会的責任の意識の高い企業が先行して「ISO(国際標準化機構)の認証を取得している。環境に対する配慮は、企業にとっての中長期的利益につながり、結果的に企業競争力の強化に結びつく。裏返せば、企業の「社会的責任」である環境保全に無関心の企業は淘汰されるということである。

環境先進国ドイツの政策

環境先進国として注目されるドイツは、包装廃棄物政令(1991年)により、企業が容器包装を回収する仕組みが導入された。各種消費財メーカー、小売業者が共同出資して設立した非営利法人DSD社に緑のマーク(グリューネプンクト)の使用料を払い、DSDがリサイクルする仕組み。また1996年には「循環経済・廃棄物処理法」が施行され、拡大生産者責任によって、企業は環境影響や廃棄物処理を考慮した製品作りを厳しく求められるようになった。この「拡大生産者責任」は、生産者の責任を製品の製造・流通時だけでなく、製品が廃棄されて処理・リサイクルされる段階まで拡大する考え方のことである。

耳寄りニュース
ペットボトルビールの見合わせ決定
(アサヒビール)


ペットボトル入りビールを年内に発売するとしていたアサヒビールが、発売を見合わせた。これは多くの市民団体や市民から寄せられた「製品がごみになった時の責任は生産企業が持つべき」という意見を同社が受けとめ、発売を取りやめた珍しいケースである。




「誰が悪い」という責任論は不毛だ。きっかけは何であっても構わない。企業と消費者と行政が現状を見直してみることが重要だ。さらに「変更する」「縮小する」のと並行して、負荷の少ないエネルギーやエコ商品を「開発する」こと、そしてそういった企業側の努力を消費者として評価することも、私たちの智恵なのではないだろうか。




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