未来への招待状「ユダヤ」というキーワード Phase.5 ユダヤ陰謀説とは何か?

この特集では、世界の未来を読み解くたねに、いくつかの角度からユダヤのエッセンスを追ってきた。それは、単に彼らをご紹介したいと考えたからだ。今回は、あえてユダヤ人のダークなイメージに目を向けてみたい。しごくもっともな論説の中にも、偽りは混じっている。また、どんなに荒唐無稽な噂の中にも、一縷の真実が混じっている。これまで言われてきた様々なユダヤ陰謀説とは一体どのようなものなのか。事の真偽はともかく、そこからもう一つのユダヤの姿をかいま見ることができるかもしれない。




民族や国家を、あらゆる策謀を弄して腐敗・堕落・転覆させ、最終的に世界を支配するというユダヤ陰謀説。グローバルで超国家的な主権形態は本当に現れつつあるのか?

ユダヤ陰謀説の背景

ユダヤ人は、数千年もの間、嫌われ続けてきた。そして、いつの時代でも、「ユダヤ人が陰謀を画策している」と言う噂がついてまわった。なぜこれほどまでに、ユダヤ人が憎悪の対象になってきたのか。その理由は、多くの人によって語られているが、単純に分析できるものではない。私達にできることは、ユダヤ人がどのように認識されてきたか、という事実の一部を知ることだけだ。

ユダヤ陰謀説を考える時、その発端を聖書に記された「出エジプト記」の中にも見ることができる。エジプトの奴隷であったイスラエルの民を解放するために、神は、様々な災害を起こし、エジプト王を恐怖に陥れた。ナイル川の水をすべて血に変え、あぶ・いなご・蛙を異常発生させ、疫病を流行らせ、雹(ひょう)を降らせた。魚や家畜は死に、農作物は壊滅した。そして、神の言いつけを守り、子羊の血を家の門柱に塗ったイスラエルの民だけを救うと告げた。度重なる災害にたまりかねたエジプト王は、ついにイスラエルの民の解放を承諾した。このような災いによって社会を動かすと言うやり方は、その後のユダヤ人のイメージに常につきまとうことになる。この残酷な神は、キリスト教徒、イスラム教徒にとっても同じ神であるのだが、中世には、疫病が流行ればユダヤ人の仕業ではないかと噂されたし、ユダヤ人は、キリスト教徒の赤子を誘拐、生け贄にする儀式を行っていると恐れられた。ユダヤ人はキリストを殺した「悪魔」であり、選ばれた民として世界支配を画策しているという固定観念は、近代に至るまで根強くヨーロッパの民衆の心の中に居座っていた。

巨大財閥ロスチャイルド家

ユダヤ人=お金というイメージは、彼らが長年にわたって金融業を営んできたことと関わっている。キリスト教は、金を貸し利息を取ることを罪悪だと教えていた。ところがユダヤ人は『タルムード』の中にも記されているように、そのような制約がなく、一般的な職業につけなかったこともあって、社会の裏舞台で金融業を営む者も多かった。その結果、様々な迫害を受けているのにも関わらず、ユダヤ人は他の庶民より質の高い生活を営むようになる。教育に時間をかけ、犯罪の発生も少なく、敗北者を出さない。そして国家やキリスト教的な倫理感から自由な立場にいるため、お金を動かす役割としては最適だった。シェークスピアの『ベニスの商人』に登場する高利貸しシャイロックが、ユダヤ人の象徴として冷酷な悪役に描かれていることからもわかるように、ユダヤ商人の成功は、他民族にとって嫌悪と嫉妬の種となった。特に王侯貴族や高級官僚の財政を一手に担う「宮廷ユダヤ人(ホフ・ユーゲン)」は、その商才によって、莫大な富を蓄積していった。その流れを汲むのが、あの「ロスチャイルド家」だ。

現在、世界最大の巨大財閥だとして知られているロスチャイルド家は、18世紀のドイツで始まった。フランクフルト領主ヘッセン侯爵家の銀行事務弁理人になったロスチャイルド1世は、当時ヨーロッパ最大の私有財産を持つと言われた侯爵家の金庫番となる。ナポレオンのヨーロッパ遠征によって、多くの王侯貴族の領土が奪われたが、ロスチャイルドは侯爵家の資産をロンドンに移し銀行を開業、多国籍金融ビジネスの原型を作り上げた。5人の息子達をヨーロッパ列強の首都に派遣して支店を開業、ロンドン証券取引所の支配者にもなった。また東インド会社の利権もロスチャイルド家が握った。彼らの勢力範囲は、戦争と革命、そして経済恐慌、あらゆる動乱のたびごとに膨張して現在に至っている。1940年当時のロスチャイルド一族は、アメリカの全資産の2倍、全世界の富の50%を支配していたと推定されるそうだ。彼らはユダヤ金融資本のシンボルとなり、巨大な先端企業連合体となった。金融と情報という新世紀のパワーも、彼らの資本主義的地位を築く追い風だった。彼らのビジネスは、各国の政府機関や王室、メディアなどと密接に結び付いていると言う。ロスチャイルド家による世界支配が今も続いていると言う論説は、このような事実を元に語られていると言えるだろう。

ユダヤ=フリーメイソン説

ロスチャイルド家は実在するファミリーだが、世の中には事実の真偽を確かめることのできない、過激なユダヤ陰謀説しよう。

世界の中枢部を牛耳っているのは、秘密結社フリーメイソンである、と言う比較的よく知られた陰謀説がある。フリーメイソンは、中世ヨーロッパの石工職人組合を祖にして生まれた秘密結社だが、その後、政財界や知識階級などのエリート達が集う、世界的な巨大組織に発展した。フリーメイソンの会員には、知事や判事、大企業家、学者など政治的・社会的・経済的影響力の大きい人物が多いと言う。そして、「フリーメイソンとは、実は隠れたユダヤ指導者が操る秘密結社である」とするのが、「ユダヤ=フリーメイソン説」である。

中世ヨーロッパの知識人の間には神秘思想が流行したが、その思想に大きな影響を与えたのが、ユダヤの神秘思想カバラである。カバラは、12世紀後半、キリスト教徒たちの弾圧にさらされていたスペインのユダヤ人達の間で生まれた。「トーラー」や『タルムード』を破棄しなくてはいけなかった彼らは、シンボルを使って様々な意味を表現する神秘主義的な体系によって、ユダヤ教の信仰を継承する道を模索した。知識や儀式は隠喩的なものになり、その結果、呪文や呪符などを使う通俗的な魔術をも生み出すことになった。カトリックによる民衆支配が疲弊し腐敗を始めると、一部のキリスト教徒は神秘思想に傾倒するようになり、カバラや錬金術が取り入れられた。秘密結社であるフリーメイソンもその例に違わない。ローマ・カトリック教会は、自分たちの権威を脅かすフリーメイソンを禁止するために、「メイソンは非ユダヤ人をユダヤ化する結社」だと言う噂を流布した。だが、実際は敬虔なユダヤ教徒はフリーメイソンに一体化せず、独自のユダヤ人国際結社「ブが存在する。その代表的なものをご紹介しよう。

世界の中枢部を牛耳っているのは、秘密結社フリーメイソンである、と言う比較的よく知られた陰謀説がある。フリーメイソンは、中世ヨーロッパの石工職人組合を祖にして生まれた秘密結社だが、その後、政財界や知識階級などのエリート達が集う、世界的な巨大組織に発展した。フリーメイソンの会員には、知事や判事、大企業家、学者など政治的・社会的・経済的影響力の大きい人物が多いと言う。そして、「フリーメイソンとは、実は隠れたユダヤ指導者が操る秘密結社である」とするのが、「ユダヤ=フリーメイソン説」である。

中世ヨーロッパの知識人の間には神秘思想が流行したが、その思想に大きな影響を与えたのが、ユダヤの神秘思想カバラである。カバラは、12世紀後半、キリスト教徒たちの弾圧にさらされていたスペインのユダヤ人達の間で生まれた。「トーラー」や『タルムード』を破棄しなくてはいけなかった彼らは、シンボルを使って様々な意味を表現する神秘主義的な体系によって、ユダヤ教の信仰を継承する道を模索した。知識や儀式は隠喩的なものになり、その結果、呪文や呪符などを使う通俗的な魔術をも生み出すことになった。カトリックによる民衆支配が疲弊し腐敗を始めると、一部のキリスト教徒は神秘思想に傾倒するようになり、カバラや錬金術が取り入れられた。秘密結社であるフリーメイソンもその例に違わない。ローマ・カトリック教会は、自分たちの権威を脅かすフリーメイソンを禁止するために、「メイソンは非ユダヤ人をユダヤ化する結社」だと言う噂を流布した。だが、実際は敬虔なユダヤ教徒はフリーメイソンに一体化せず、独自のユダヤ人国際結社「ブナイ・ユリス」を結成し、今に至っているようだ。

シオン賢者の議定書…300人委員会

ユダヤ陰謀説が、より具体的な衝撃として世界を震撼させたのは、世紀の偽書と呼ばれる「シオン賢者の議定書」の存在が浮上してからだ。この議事録は1905年にロシアで出版され、1920〜30年代にかけて猛烈な勢いで世界に広まった。

「議定書」は、ユダヤ秘密政府の幹部が、世界支配のための方法を会議で報告した記録という体裁。その中には、他民族や国家を、あらゆる策謀を弄して腐敗・堕落・転覆させ、最終的に世界を支配するための方策が詳細に描かれている。その筋道はこのようなものだ。民主主義・社会主義・共産主義をそれぞれあおり、国家や国民同士を対立させ、戦争と革命を誘導する。その一方で秘密結社を傀儡として使い、マスコミなどを利用して暗愚な民衆支配を行う。ユダヤの敵対勢力は暗殺など様々な方法で粛正する。その後、あたかも「議定書」に予言された通りのような形で、ロシア革命のような政変や第一次世界大戦が起こったことから、反ユダヤ主義者は、この議定書は本物だと信じた。特にナチスは、この「議定書」を決定的に利用、ユダヤ人の本当の姿はこの中にあるとして、反ユダヤの波を圧倒的な勢いで推し進めていったのだ。

その後、イギリスの有力紙『タイムズ』は、この「議定書」が、ロシアの秘密警察による偽造であることを暴露した。しかし偽書の烙印を押されたにもかかわらず、現代に至るまで「議定書」は、ユダヤ陰謀説のバイブルとして扱われている。昨今のイラク戦争、テロ活動、果ては円高に至るまで、ユダヤ陰謀説が常に浮上してくる。その最も過激なものに、「300人委員会」がある。イギリス女王を筆頭に、世界の王侯貴族、政財界の中枢を握る300人が、ワン・ワールド政府を樹立するため、世界人間牧場計画を推し進めていると言う説である。彼ら全てをユダヤ人とは言えないはずだが、この「300人委員会」の根底にはカバラ思想があり、魔王ルシファーを崇拝しているグループで、旧来からのユダヤ教徒は他の愚民と同じ家畜のような形で扱われているのだと言う。

グローバリズム経済の行方

ざっと歴史上のユダヤ陰謀説を追ってきたが、世界支配陰謀説には、他にもCIA、白人至上主義、極右組織などによるものがある。人間は不安と猜疑心に包まれた時、憎悪の対象を求めることで自己防衛を図るという弱さを持っている。しかし、噂話が起こる時と言うのは、その種になる事実があることも多い。

たとえば、日本の現状を見てみよう。最近のニュースで取り上げられる大企業や銀行の再建問題で、スポンサーとして必ず登場するのは、外資、特にメリルリンチ、ゴールドマンサックス、JP.モルガン、リップルウッドといったアメリカの投資機関だ。今や日本の大手銀行の30%以上の資本が外資となった。株に関しても、外国人投資家の比率は年々高まり、株価は彼らの動きによって右往左往する。不良債権問題で放出された都心の土地は、外資によって大量に買い占められている。世界の動きを見ても、石油価格の高騰や急激なドル安の原因は、投機的なヘッジファンドの暗躍によるものではないかとも言われている。これら全てがユダヤ資本によるものではもちろんないが、これまでの連載で述べてきたように、金融やビジネス界のエリートの中のユダヤ人比率が高いことは事実だ。こうしたいくつかの事象をつなぎ合わせて、ユダヤ資本が世界を食い物にしていると連想する人も出てくるだろう。実際には、日本人にも様々なタイプの人がいるように、ユダヤ人の中にも、あらゆる階層・価値観の人がいる。悪評にまみれたイメージから解放され、自由な一個人として生きたいと願うユダヤ人が多いのも確かだ。

イタリアの左翼政治哲学者アントニオ・ネグリは、その著書『帝国』の中で、今や国民国家の主権は衰退し、グローバルで超国家的な主権形態が現れつつあると主張する。<帝国>の特徴は、その脱中心性かつ脱領域性にあり、特定の個人や民族や国家に帰するものではない。むしろ、あらゆる領域を超えて、超国家的な支配・被支配の階層が巧妙に形成されていると彼は言う。そのような流れが本当に起こっているとするなら、私達に必要なのは、目先の社会常識や固定観念に捕らわれることを止め、広い視野と柔軟な感受性を持つように努めることだろう。誰が何をしたかということより、自分がどのようなスタンスにいるのかということを自覚したい。ネガティブな要素は、逆転の発想によってパワーに変えることができる。ユダヤ民族が辿ってきた運命は、ひとつの適例として、私達に何かを伝えてくれるのではないだろうか。


《参考文献》
「ユダヤはなぜ迫害されたか」デニス・プレガー ジョーゼフ・テルシュキン著/ミルトス
「ユダヤ陰謀説の正体」松浦寛著/筑摩書房
「300人委員会」ジョン・コールマン著/KKベストセラーズ




Back to home.