あなたがあなたであるために:内面と外見のアート的考察

「写真うつりのいい自分が好きでした。
  でもそれは結局逃げていることになるんですね。」


膨大な数の証明写真に写っている女性──。
こちらに向かって微笑んでいるお見合い写真の女性たち──。
これらはすべてたった一人の女性が被写体になっている。
それを知らずに見ても、また知っていて見たとしても、写っている外見から、
さまざまな内面を想像してしまう。
しかし、写っている人は同じだという妙な感覚。内面とは、そして外見とは。
それらの関係をセルフポートレートにして考察し続ける澤田知子さん。
あくまで明るく、楽しげに語る澤田さんの言葉から浮かび上がってくる
内面と外見に対するユニークなアプローチに触れてみよう。


PROFILE

アーチスト | 澤田知子(さわだ・ともこ)さん

1977年神戸生まれ。成安造形大学の卒業制作で、街の自動証明写真機で撮影した『ID400』が2000年、キヤノン写真新世紀特別賞を受賞。その後、お見合い写真の被写体になった『OMIAI♥』、ガングロギャルに扮した『cover』などの作品を発表。2004年、さまざまな職業人に扮した『Costume』とそれまでの活動が評価され、第29回木村伊兵衛写真賞を受賞。その作品は、日本だけにとどまらず、ニューヨーク、ロンドン、ベルギー、ウィーンなど、世界各国で展覧会が開催されている。

WEB


Tomoko Sawada web


♥外見と内面の微妙な相関関係

WORKS-01


ID400 青幻舎
2,800円(税別)
400人の女性に扮し、街の自動証明写真機で撮ったセルフポートレート

顔。顔。顔。証明写真に写った膨大な数の女性。その数400人。写真集『ID400』のページを開くと、さまざまなメイクやカツラ、服装などを変えながら、全く別人になりすました澤田さんのセルフポートレートを見ることができる。

「一人一人の設定は特に考えていません。服を着たら、その服から浮かぶイメージを即興で作るんです。服に合わせてメイクしたり、カツラを選んだりして顔を作っていきました。自分の顔に絵を描いているような感じでしょうか。たぶん、“最初からこの顔にする”などと考えていたら、これほどの種類の変装はできなかったと思います。ですから、同じ顔は二度と再現できない(笑)」

澤田さんは、自分の外見が変わることによって、他人の見る目が全く変わることに興味を持ったと話す。

「展覧会で、この『ID400』のセルフポートレートをフレームに入れて並べたんです。私はその横で座っていたんですが、私だと気づかない人が全体の7割から8割ぐらいいたんです。メイクやカツラで変わっているとはいえ、セルフポートレートに写っている私と、実際の私の骨格や顔の形は同じなんですけどね」

さらに『ID400』の次に刊行された『OMIAI♥』。この写真集では、さまざまなお見合い写真の被写体になった澤田さんが登場する。

「ちょうど、第一次結婚ブームというか、私の周りの友達が何人かお見合いしたり結婚したりしたんです。お見合い写真って、昔は、本人に会わずに写真だけで判断して、結婚を決めることがあったと聞いたことがありました。だから、もし私がいろんなお見合い写真を撮ったら、写真次第で会ってくれる人と会ってくれない人がいると考えると、すごく変なことだと思ったんです」

『OMIAI♥』の展覧会では、『ID400』に負けず劣らず、さまざまな反応があったようだ。

「展覧会に来ていただいたお客さんが、私のお見合い写真を見て、いろんなことを喋っていくんです。『この人はいいお嫁さんになりそう』とか『あっちの人は遊び相手としてはいいけど、結婚するのはちょっと』とか。さらに『うちの息子にはこの人がいいわ』っていうおばさんもいて(笑)。このお見合い写真の被写体は全部私だとわかっている人でも、いろんな感想を言ってくれるんですね。やはり一枚の写真にそれだけ語ることができるほど、外見というのはすごい力があるんだなと思いました」

内面と外見の関係に興味を示す澤田さんは、あるイベントでおこなった実験の例を話してくれた。

「私、ガングロギャルがすごく可愛くて好きだったんですが、社会の中でブームになって、どうも悪い価値観を植えつけられていたみたいですね。見た目だけで頭悪そうとか思われたりして、外見だけでひとくくりにされているのにひっかかるものがありました。それで『cover』という作品で、ガングロギャルなどのコギャルに扮したセルフポートレートを発表したんです。

その展覧会で、ガングロギャルになりたい人を募集して、メイクしてあげるイベントをやったんです。すると、おとなしそうな人が5人ぐらい集まったんですけど、人見知りで全然喋らないんですよ。でもガングロになると、急に喋りだして、ちょっと外を歩いてきますって人もいたりして(笑)。でもガングロの化粧を取ると、途端に元に戻って『ありがとうございます』ってバラバラに帰っていくんです。そういうのを見ると、外見で内面が変わってしまうわけで、じゃあ内面って何だろうと思ったりします。その答えは簡単には出ないとは思いますが、その答えを探すためにも、作品作りはやめられません。

内面と外見、両方いいに越したことはないんですけどね。本当に内面が出て、いい顔している年配の方もいらっしゃいますし、すごく可愛いけど、性格の悪い女の子もいる。どちらが大事というのは、やっぱりわかりませんね」

♥外見コンプレックスに悩んだその先

WORKS-02

OMIAI♥ 青幻舎 | 2,800円(税別) さまざまなパターンでお見合い写真に写る女性になって撮ったシリーズ

内面と外見の関係を、作品を作ることによって考察していく。それが澤田さんのテーマだ。その姿勢には迷いやゆるぎがない。若くして数々の賞を受け、アーチストとして順風満帆に見える澤田さんだが、現在に至るまでにさまざまな悩みや苦労があったと語る。

「もともと小学生の時から、クラスでも可愛い子のグループがあって、その中に入っていることが多かったんです。そうなるとコンプレックスがあるわけです、外見に。私は別に自分のことが嫌いではなかったので、明るいコンプレックスだったんですけどね(笑)。

大学に進んで、授業でセルフポートレートを撮る課題が出たときに、自分の顔が実際と違って写ったらどうなるのかな、という考えが浮かんできたんです。それでナルシストな写真を撮り溜めていたんですね。それはすごく楽しくて、写真うつりのいい自分の写真を眺めて『ああ可愛いな、私』みたいな気分に浸っていたんです。それまでのコンプレックスが解消された気がしたんですね。でも、それは写真の中の自分だけがころころ変わって、本当の自分は変わらないわけで、結構しんどくなったんです。結局、それは自分が逃げていることですから」

写真が撮れなくなるほど、厳しい精神状態だったと語る澤田さん。彼女がそれを乗り越えたのは、セルフポートレートを今までとは異なる方法で撮ることだった。

「それまでは、実際の自分よりよく写ったものを作品にしようと思っていました。でも自分がその写真を見ていいと思っても、周りの人がそれを見てどう思うかわからないし、よく写っているものと写っていないものを判断する基準は人によって違いますしね。じゃあ、もういろんな人に変装してしまえ、と開き直ったのが『ID400』です」

『ID400』を見て、泣いたというファンからのメールがあったという。

「その人は私より若い女の子なんですが、すごく外見にコンプレックスのある人で、私があえて可愛くないように写ることに勇気づけられたというメールをもらいました。日本では特に、女の人はこうあるべきとか、もてるのはこういうタイプとか言われるじゃないですか。そういうのにはまりたくない、でもはまっていないことにコンプレックスを感じている子って多いと思うんです。そういう子たちが私の作品を見ると楽になるみたいです。そう聞いたときは、びっくりしましたけど、嬉しかったですね」

澤田さん自身、コンプレックスが完全になくなったわけではない。しかし、作品を発表することであまり気にならなくなってきたようだ。

「私、自分の横顔がすごく嫌いだったんです。でも自分がそう思うだけで、作品を発表したときに『横顔可愛いね』と言われたりして。そうなるとあまり気にならなくなるんですね。日本にいると、私太ってるほうなんですけど、外国に行くとそうでもないので、気にならなくなってきますし。だから周りの環境によってコンプレックスも変わってくると思います」

WORKS-03

School Days
女子校のクラス写真に写っている全生徒と先生に扮したシリーズ


♥すべての人は世界一だという考え方

展覧会/01

幸福のかたち―
DIVERSE WAYS OF HAPPINESS


日時:3月25日(金)〜9月25日(日) / 場所:愛・地球博会場(長久手会場) コモン5(アフリカ共同館外壁に展示)


The WORLD EXPO 2005
AICHI JAPAN ART PROGRAM
http://www. expo2005artprogram.com/

展覧会/02

時代を切り開くまなざし - 木村伊兵衛写真賞30周年記念(仮称)
日時:4月23日(土)〜6月19日(日)
住所:川崎市市民ミュージアム
http://home.catv.ne.jp/ hh/kcm/

海外の展覧会での発表も多い澤田さん。そこでも内面と外見の問題に突き当たったと語る。

「日本だと、私のキャリアや受賞歴を見て態度が変わる人が結構いるんです。でも海外の場合は、私の作品をインターネットで見つけてくれて、すごく作品がよかったので、展示してほしいとストレートに言ってくるんです。それはとても気分がいいですね。純粋に作品を気に入ってくれたというのがリアルに伝わってきますから。

私のテーマでいうと、肩書きも『外見』なんです。人は肩書きで相手を判断することが多いですから。まあ、それで会話がはずむこともありますし。別にそれが悪いとは思いません」

澤田さんは、現在開催中の愛知万博で新作を発表した。

「『FACE』という作品です。この作品ではさまざまな人種に扮したセルフポートレートを発表します。白人になったり黒人になったりとか、いろんなパターンで撮っています。3メートル四方の布に、私が扮した人物の写真を印刷して、外壁に展示します。思うに人間って国籍や言語、それに宗教とか、いろんなものがその人の上に乗っているんですね。それらはみんな『外見』にあたるのではないのでしょうか。そういうものを全部取っ払うと、その人は一人の人間にすぎないと思うんです。

私という人間は世界に一人しかいないから、その時点で自分は世界一だと思っています。世界にはいろんな人がいます。私にとって苦手なタイプの人もいますし、罪を犯すような人もいる。でもそういう人たちもこの世に一人しかいない。そういう意味では世界一だし、すべての人は世界一なんだという考え方で作っていきたいですね」

外見より内面が大切と言う人は多い。しかし、つい外見で人を判断してしまうことも事実だ。外見と内面。どちらが大切なのだろうか。その問いには澤田さんが話す通り、明確な答えは出ないかもしれない。ある意味、難題とも言えるテーマに挑み続けている澤田さん。彼女のめざす先には、どんな答えが待っているのだろうか。




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