sem
Sem (Without), Santa Pose, Rio dde Janeiro, 1992 © MIGUEL RIO BRANCO
title:カオスの中のリアリズム

写真家 | ミゲル・リオ・ブランコさん

ブラジルに拠点を置き、世界各国で活動するアーティスト、ミゲル・リオ・ブランコさん。 彼の作品は、見る者の感受性を強くゆさぶり、衝撃を与える力を持っている。鮮やかで官能的な色、美しさと醜さが同居する人生の痕跡、 うねるリズムと生命の輝き。これまで見慣れてきた欧米や日本のアートと何が違うのかと問えば、「質が違う」としか答えられない。 まるで体内の細胞に直接働きかけるようなセンシュアリティ。様々な事象をコントロールしようとする現代社会において、彼の作品は、 カオスや矛盾の持つパワーを提示する。そして、大きな奔流に流されつつ空虚感を抱く現代人に、本当の意味でのリアリティとは何かを突きつける。 日本を訪れたブランコさんに、彼の世界観についてインタビューを試みた。

profile

ミゲル・リオ・ブランコ | Miguel Rio Branco

Miguel Rio Branco 1946年、外交官の家庭に生まれ、カナリア諸島、ポルトガル、スイス、アメリカなど各地を転々とする。画家としてニューヨークで活動を始めたが、 1968年頃から写真、映画を撮りはじめる。1972年、ブラジルに戻り、実験映画や叙情的なカラー写真を発表、ブラジル内外で多くの賞を受賞した。 1978年、マグナムに特派員として参加。世界各国で活動を続けている。2004年に来日、国立現代美術館でブラジル人作家によるグループ展を開催した。 2005年から、A・G・イニャリトゥ監督の新作映画『バベル』のメイキングを記録する専属フォトグラファーとして撮影に同行。

光と痛みは、同時に存在している

――あなたの作品はとても美しい色でありながら、その反面、体に傷を持った人々や、路上で死んでいる犬など、 多くの人が目を背けたくなるようなものを題材に選んでいます。

 Mona Lisa

Mona Lisa, Luziania
1974 © MIGUEL RIO BRANCO

ブラジルには、生きるための官能的なパワーが満ちていますが、痛みや死などの悲惨さも同時に存在しています。 でも、見たくないものを拒否していては、人生を本当に感じることはできません。私は1967年までスイスに住んでいて、そこはとても保護され整った世界でした。 ブラジルで、その正反対にあるドラマチックな状況を目の当たりにして、人生というものは、人々が見たくないものの中にこそ隠されていると思いました。

たとえば、撮影をしたリオの古い地域は、売春婦がたくさんいる場所です。彼女たちは悲惨な状況にあるわけですが、「生きている」という感覚がものすごくあるのです。 ブラジルでは、音楽やダンスなどが生きる源、パワーになっている。人々が悲惨な状況にいても、そこに光は必ずあるんだということを、 そうではない世界にいる人々に見せたいと思いました。私にとって、生きるということは、セクシュアルで官能的なもの、それとの対比で、死ぬということは痛みを伴うもの。 生きることと死ぬこと、その二つを作品の中に織り込みたかった。犬の写真は、そのひとつの象徴です。実際には死んでいるんだけれど、生きてもいる、 ということを表現したかったのです。

カトリックの価値観には、自分を捧げることで初めて上のレベルにあがれるという感覚があります。私はそういうものを探してはいません。 私にとってのスピリチュアリティとは、レボリューション、進化することです。人生とは、もっとよくなっていくべきもの、進化していくものではないでしょうか。

――矛盾に満ちたカオスのような世界こそ、エネルギーにあふれているということでしょうか?

世界も人生も、予測のつかないものです。生きることは、単一の色では表現できません。人はそれをひとつのものにしたがるけれど、そうやって単一のものにした時に、 そこに空虚感を覚えるのではないでしょうか。

私の作品を見た、ある映画監督が非常にショックを受けたと言っていました。彼自身も、私のテーマによく似たものを作っていたにもかかわらず、 ここにあるものの本質をつかむことができなかったというのです。それは、もともと世界を見るポイントが違うからなのではないかと思います。

今、人々は写真をよく撮りますね。何か自分の中に足りないものがあるから、それを補おうとして写真を撮っているのではないかと感じます。 テクノロジーを否定するわけではありませんが、その進化のスピードは破壊的でもあります。競争があって、 ものすごいスピードで新しいものを出していかなくてはならないからです。人々は、それを使って何をするのかではなく、 それをどう使いこなすかということに追いかけられているのではないでしょうか。


世界はパラノイアへ

――今、社会全体がひとつの世界観を中心にして動こうとしているように感じます。世界はこれからどんな方向に向かっていくと思われますか?

Red Fists

Red Fists, Saanta Rose, Rio de Janeiro
1994 © MIGUEL RIO BRANCO

欧米的な文化や考え方は、もう長持ちはしないと私は思っています。統一されたヨーロッパ共同体もできないだろうし、未来があると思えません。 なぜなら、すべてが物事をコントロールするとか、ビジネス中心に作り上げられてしまっているからです。数年前に、刑務所をテーマにした展覧会を開いたことがあります。 刑務所の中にあるのは、抑圧と管理です。つまり、パワーと死。とても重いテーマで、私自身、ものすごく消耗しました。

今の社会は、作りながら破壊して、人々を狂気に追いやっています。特にメディアやジャーナリズムがパラノイアを生み出していることに対して、私は非常に危機感を覚えます。 通信技術によって、大都会にいなくても瞬時に情報を得ることができますが、メディアが破壊の方向に人々を追いやるのはなぜでしょうか。 テレビはツールであって、教育などいくらでも有効に活用できるはずなのに、恐怖心を植え付けることに使われている。 何かを買わなければいけないとか、何かに対して恐怖心を植え付けられることがあまりにも多すぎて、いったい誰が後ろにいるのかと思います。 まるで、人々が何かに抵抗することができないように、物事を考えないように、感覚を麻痺させるようになっていると思いませんか?常に戦争があり、 その裏にはお金というものが隠れている。病んだ構造です。私たちには、違う選択肢があるはずです。


日本の未来

――今回、日本に来られたのは、イニャリトゥ監督の新作映画『バベル』のメイキングを写真集にするというプロジェクトだということですが、 日本についてどんなことを感じましたか?

Dog Man

Dog Man, Maciel
1979 © MIGUEL RIO BRANCO

私は、イニャリトゥ監督が好きなので今回の仕事を引き受けたのですが、普段は、このような仕事の仕方はしないのです。 でも、2004年に来日して、もう一度日本に来てみたいと思ったのが、今回の仕事を引き受けたひとつの理由かもしれません。

元々、クロサワやミゾグチの映画を見たり、友人の話を聞いたりしていて、日本の文化や建築にとても興味を持っていました。 いろいろなものが混じり合い、多様性に満ちた豊かな文化だと思います。たとえば、ごちゃごちゃした都会の中に、突然、静寂に満ちた神社があったりする。 もしかしたら今は変わったのかもしれないけれど、日本人の中には、人のために何かをするとか、子どものように怖れをもたないという、おおらかな性質があると思います。 東京にはカオスがあります。東京とサンパウロ、二つの場所を融合した作品を作ってみたいと思いますね。

――欧米的な文化は、日本にも大きな影響を与えています。本来、東洋的な価値観を持っていた日本人は、 相反する二つの質の中で、この先どうすればよいのか迷っているような気がします。

現在の日本は、欧米の影響を受けていると同時に、企業が帝国のような感覚を作り上げて、自分たちも他の国に物を売ったりしていますね。 日本人は、元々のアイデンティティを再認識した方がいいのではないかと思います。今、人々はさまよっていて、時間をつぶすために、 気を紛らわすために、携帯電話でゲームをしています。何のために気を紛らわせているのかということが私の疑問です。

すべての国に歴史があります。たとえば、ブラジルにはアフリカ系の文化があって、自然を大切にし、敬意を持っています。 先ほども言ったように、欧米的な文化や考え方に、もう先はないと思います。私たちは、どのように未来に向かっていくのかということを自分で考えなくてはいけません。 日本人がどういうふうに向き合うのか、これからの数年で、それがはっきりするのではないでしょうか。

――ありがとうございました。




INFORMATION

映画『バベル』(仮題) 『アモーレス・ペロス』で衝撃の世界デビューを果たし、『21グラム』で命の重さを実感させた、鬼才イニャリトゥ監督。 彼が次にモチーフとして選ぶのは、人間の愚かさの象徴である「バベルの塔」。 舞台となるのはアメリカ、メキシコ、モロッコ、そして日本。世界4ヶ国で偶発的に起こる事件が、密接に絡み合いながらひとつの未来に向かって加速する。 2006年、パラマウント・ピクチャーズより配給予定。


BOOK WEB

BOOK

『Miguel Rio Branco』
Aperture | $45.00

WEB

Magnum Photos Tokyo
http://www.magnumphotos.co.jp/



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