新しい社会の指導者となるために

永田町にほど近い平河町の一角に、青年会議所会館がある。こぢんまりとしたそのビルは、一見、いかにも社団法人風の堅い風情を漂わせている。しかし、一歩踏み入ると、驚くほどの「熱く、力強い」パワーを感じるはずだ。

会議室には、歴代JC会頭の顔写真が並んでいる。その中には、次期総理大臣候補のひとりと言われている麻生太郎氏、経済人として著名なウシオ電機会長の牛尾治朗氏、裏千家家元の千玄室氏などの顔も見える。いずれも、若き日に、この日本青年会議所のリーダーとして活動していたという。いったいJCとは、どんな組織なのか。

「JCは、戦後の荒廃のなか、日本経済の復興を目指す青年有志によって創られたのが発端です。まずは経済を発展させて、国際社会の中で認められる国になりたい。でも、最終的な目標は世界の平和であり、『明るく豊かな社会』を構築するところにあります。青臭いぐらい正直で真っ直ぐな青年だからこそ新しい日本を築けるのだ、という気概があるのです」

2006年度会頭に就任した池田佳隆さんは、現在39歳。やはり、若き青年経済人のひとりだ。JCの会員には、20歳から40歳までという制限がある。また、会頭をはじめ様々な役員の任期は1年と定められている。ひとつのポジションに固定しないことで、常に組織のリフレッシュを図り、また会員自身も豊富な実践経験を積むことができるシステムとなっている。

池田さんにとっては、JC現役として過ごす最後の1年。会頭というトップのポジションから、どのような行動を起こすのか、胸に秘めているビジョンはとても熱い。

青年経済人が持つべき、21世紀のビジョン

現在、JCのメンバーには、企業家の2世や3世と呼ばれる人が多いんです。JCへの参加は手弁当ですから、ある程度、時間とお金が使える人に限られてしまう。かつては、いわゆる帝王学を学ぶ場のように見られていた時代もあったのですが、僕はもうそんな時代ではないと思っています。JCに所属することで、ビジネス上のネットワークが築ける事実は否定しません。でも、本来の目的は、お金に直結するようなものではない。

『明るい豊かな社会』というのは、自分だけの幸せを求めていたら、決して実現しませんよ。地球全体が幸せにならなければ、日本も幸せにならない。日本が幸せにならなければ、地域も幸せになれない。そのような観点から、自分たちは社会のためにどんな貢献ができるのかを常に考えねばならない。21世紀は、そういうビジョンを持つ企業でないと生き残れないはずです。僕たちには理想社会の扉を開く責務がある。JC会員には全員にそういう意識を持ってほしい。だから僕は今、JC運動を語るときに、ビジネスという言葉をあえて口にしないようにしているのです」

実際に、JCに入るための資格は、前述した年齢制限だけである。サラリーマンであっても、主婦であっても加入できる。ただ、何らかの生産活動、社会に関わるための自分の窓口は持っていてほしいそうだ。趣旨に賛同してくれるなら、むしろ、これまでの会員にいなかった層こそ大歓迎だと池田さんは言う。

池田佳隆

明るい豊かな社会は、思いやりの心から生まれる

21世紀の日本を創っていくための活動を、池田さんご自身はどう考えているのだろうか。

「僕は、日本のかつての精神性というものを、もういちど再認識すべきだと考えているんです。高度経済成長を経てきた過程で、市場原理主義信仰みたいなものを、日本人は持ってしまった。しかし本来、日本人は、利他の心を持ち、大いなるものに生かされていることを認識し、『名こそ惜しけれ』といった高潔な考えを有していた民族だったはずです。

幕末の頃、日本に来た外国人は大変驚いたと聞いています。街のどこへ行っても人々が本を読んでいる。戒律の厳しい宗教があるわけでもないのに、ごく自然に人々が高潔な生き方をしている。思いやりの心を持ちながら、誇り高い。そんな原点に、もう一度返ってみたい。

利他の心を基本に持ちながら、だけど競争もあって、自分の潜在能力が活かせる社会。そのような絶妙なバランスがあってこそ、『明るい豊かな未来』が生まれるというのが僕の考えです」

言葉にするのは簡単だが、現実の中で理想を体現するのは、並大抵のことではない。池田さんが今年予定している行動は、かなり壮大なものである。

「今、日本とアジアの近隣諸国との間には、摩擦が起こっています。政治家同士は意地の張り合いをやっているけれど、そんなことをやっていても事態は進展しません。それなら僕たちが民間外交の旗手となって、仲良くやっていく方法を見つけたい。

日本JCは、国際青年会議所(JCI)の一員でもあります。今年は、アジア・太平洋地域のエリア会議が四国の高松で、世界会議がソウルで開催されることになっています。こんなよい機会をもらったんだから、日本と韓国でタッグを組んで、平和推進共同声明を大々的に発信しようと思っています。

また、中国との間でも、本音の民間交流を続ける必要を感じています。世界を平和にしていくためには、未来に向けて強い影響力を持つ中国とパートナーになることが絶対に必要です。もちろん、パートナーとして相応しいのかどうかも見極める必要がある。そこで、良いとか悪いとかを言う前に、相手の現実をまず知ろうと思う。僕は南京の虐殺記念館に行き、反日政策の現実を会員と共に見てきます」

青年会議所会館1階

青年会議所会館の1階に設けられたサロン。外来者との懇談、JC会員や職員がくつろぐスペースとして利用されている。

池田佳隆

青年会議所会館会頭室にて力強く語る池田さん。

デジタル文化の可能性

日本各地にいるJCの会員達に向けて、「志を高く持て」と檄を飛ばす池田さんだが、インターネットやコンピュータというデジタル文化の発展についても、独自の視点を持っている。

「デジタルは便利だし、情報交換のツールとしておおいに活用すべきだと思うけれど、僕は基本的に人間がアナログであることを認識する必要があると思っています。僕たち生き物は連続性をもった有機体です。その悠久の歴史が細胞のひとつひとつの中に埋め込まれているアナログなんです。人間の五感能力というのは凄まじいものがあって、それは“ぶつ切り”のデジタルに取って変わられるようなものではないと思うんです。その本質をけっして忘れずに、その上でデジタルという道具を使いこなす。結局は、アナログであるという素晴らしい人間の本質を生かし、美しい生き方ができるかどうか。それが僕の精神ルネッサンスなんです」

いまや世界の経済大国としてどの国からも認知される日本だが、未来については多くの人が不安を抱いている。ただひたすら経済性を追求する時代はもう終わった。私たちは、この先どんな生き方を選択するべきかという岐路に立たされている。青年経済人という層は、未来を築く上で重要な役割を担うはず。JCという組織のベクトルがどこに向かうのか、これからも常に注目していたい存在だ。

ボランティアの様子

ガンバ大阪と青少年の集い

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