人間と芸術

タワリさん 東京・青山のキラー通りでひときわ目を引くコンクリート地にブラックの大きなストライプが入ったモダンな建物がワタリウム美術館。ここは海外などの現代美術のアーティストを招いた個性的な展覧会で美術ファンにはよく知られている美術館だ。また建物内にはアート関係の洋書本、ポストカードや洒落たステーショナリーを扱うショップ「オン・サンデーズ」があり、建物まるごと大きなアートスポットになっている。今回はこのワタリウム美術館でキュレーターとして活躍している和多利浩一さんに、ビジネス面からアプローチをするアートの魅力をうかがった。
和多利浩一さん

ワタリウム美術館キュレーター
1960年生まれ。東京都出身。
早稲田大学在学中の1980年にミュージアム・ショップ「オン・サンデーズ」設立。 1990年開館の私立現代美術館ワタリウム美術館では創設時から活躍、現在も国際的に現代美術の分野で積極的な活動を行っている。

和多利さんが洋書の書店「オン・サンデーズ」や「ワタリウム美術館」を始められたいきさつから教えてください。

 大学1年のとき40日ほどニューヨークに1人で滞在する機会があったんです。その時通ったのが「書店・映画館・美術館」の3つ。母がギャラリーをしていたこともあって、日本でも美術館などはかなり通っていたんですが、ニューヨークの美術館は押し付けがましさが全くなくて、誰でも気軽に行ける雰囲気が漂っていて、とにかく日本とは美術のあり方自体が全く違うという印象を受けたんです。ニューヨークで感じた美術と人間との距離、美術に対する姿勢、そして書店などで買った本や雑貨など全てがオン・サンデーズでのベースになっています。同級生と姉と4人で開店したころはまだ学生だったので授業に出なくてはならず、週4日の木、金、土、日曜日で店は運営していたんですよ。80年代日本には本とポストカード、文房具といったものを一緒に扱っているような店は全くなかったんです。当初はいろんなモノの中に書籍の棚がひとつあるっていう感じだったのでいつも『何屋さん?』って聞かれてましたね(笑)。本は何度も繰り返し議論しながら一冊ずつ輸入してました。
 とにかくジャンルは何であれ、日本に入ってきていない、いいものを多くの人に見てもらいたいという一心でしたね。
 ところが10年ほど書籍にかかわっていると一種のフラストレーションが溜まってきたんです。つまり書籍というのは情報に過ぎないわけで、そういうものばかりを扱っているとものごとの本質のまわりをただ廻っているだけっていう気持ちになってきたんです。美術に真っ向から取り組んでいけるような展示空間と書店で建物を作ろうということになり、’90年から現在の建物で美術館と書店の運営を始めました。美術館もスペース的な問題や運営のノウハウなど何かと不安が多かったのですが、書店にしても美術館にしても「いいものだから人に教えたくなるし見せたくなる」という純粋な気持ちで、いかに作家の作品や書籍をさらに良く見せるかを考えながらやっています。



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