デジタル文化未来論

ペットロボットが爆発的な人気を 集めている。遊んでやると喜んだり、 放っておくと怒ったり、それはあたかもロボットが自由自在に感情を持ち始めたかのような錯覚を感じさせる。が、実際にはペットロボットは「感情を持っているかのように感じさせる」 モデルをあらかじめ作りこまれたロボットであり、あくまでもそれは人間のプログラミングした結果の動きである。
 今回お話をうかがった早稲田大学工学部の菅野重樹教授の開発しているロボットWamoeba-2Rは、感情モデルの組み込みを一切行っていない「心をもったロボット」だという。Wamoeba-2Rとはどんなロボットなのか、またロボットにとっての心とは何か、さらにロボットと人間との関係についてうかがった。

プロフィール...
菅野重樹さん

1958年9月29日生。
1981年 早稲田大学理工学部機械工学科卒業。
1986年 同大学院博士後期課程単位修得退学。同年早稲田大学理工学部助手。
1989年3月 鍵盤楽器演奏ロボットに関する研究により
工学博士。
その後、専任講師、助教授を経て1998年より教授。
研究分野は、バイオメカニズムを基に人間と機械の
コミュニケーションを考える機械知能学。
人間共存ロボット、人間とロボットとの情緒コミュニケーション、
人間の特性に適応する加工組立システムなどの研究に従事。
1990年 第1回日本ロボット学会技術賞受賞。
共著に、マイロボット(読売新聞社)、人間型ロボットの
はなし(日刊工業新聞社)、共訳書に、工学設計(培風館)など。
日本ロボット学会、日本機械学会、計測自動制御学会、
バイオメカニズム学会、日本人間工学会、IEEE、ASMEなどの会員。

菅野さん

先生が作られているロボットとはどのようなものなのですか。

 私はロボットの研究では2つのアプローチを行っています。ひとつは「役に立つもの」を作るということ。介護の場面やリハビリ施設、病院などで人間の補助支援を行うようなロボット作りですね。これは数年後といったそう遠くないレベルで実現を目指すものです。こういうものは人間とコミニケーションがうまくとれないといけないロボットになるので人間とのふれあい方は研究のテーマになってきます。またその方法論を考えると5年10年以内の実用化を目指せば、人間並みの知能や学習などは期待できない。つまり現実的にはAIBOのように、あるモデルをロボットに予め組み込んだスタイルになりますね。このプロジェクトをまずひとつ立ち上げていて、人間共存ロボット:Wendyを既に研究室で開発しています。
 そしてもう一方でエンジニアとしてはロボットに対する夢があるんです。それは人間に近いというか、本質的に生命、動物や人間と同じようなものを人工的に作りだしていくこと。これはバイオテクノロジーのクローンなどとは異なって自然界のものに手をつけるのではなく、エンジニアとして自分の手で作り出すという夢なんです。神が人間を創ったなら人間は何を創れるのか、ということですね。デカルトは「人間は機械ではないが、動物は機械である」と言って動物と人間を区別した。デカルトには動物の仕組みは機械的に説明できたが、人間はどうしても説明できないところがあったんです。そこが「自分自身の意識」のような場所でした。結局彼はその説明を問われたときに「我思うゆえに我あり」と答え、自分の存在をエンジニアリングやサイエンスでは説明できなかったんです。対してラ・メトリは人間機械論を唱えた。この背景には時計技術の発達や当時のからくり人形の流行があったようですね。私もエンジニアですから、人間も機械で説明できると思いたい。これはロボット研究者の夢なんです。本質的に人間と同じロボットを作れるかを考えたとき、「意識・感情・心」という一般的に人間が機械とは違うと見られているところを、どのように機械の中で考えればいいか、つまり「機械にとっての心とは?」というのが私のもうひとつのロボットへのアプローチになったわけですね。いわば「究極のロボット」を作ろうということなんです。

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