VRは欲望を吸い取るスポンジ。新しいコミニケーションの可能性も広がる

 一通り体験をさせて頂いた隊員たち。最後にCABINの舞台裏を拝見する。まず実験室の奥にずらりと並ぶのは描画装置、SGI社ONYX2 グラフィクスワークステーション。また実験室の片隅には青いシートで壁を覆ったクロマキー部屋もある。大掛かりな設備がそろった実験室だ。なおCABINと同様な施設は小規模なものや4面のものなどが国内では数カ所あるが、岐阜県には6面のスクリーンを備えたものがあり、CABINと空間共有の実験を行っているという。これは岐阜の装置とCABINをギガビットネットワークで結んで、CABINの中の人をカメラで撮影し、人の部分だけを立体的に切り取ったものを岐阜の装置の中に浮かべるという方法で、遠く離れたところにいる人が同じ仮想空間を共有できるビデオアバターという技術なのだ。こうしてVR体験を満喫した隊員たち。「鳥のように自由に空を飛びたい、とずっと思っていた。でも地球や街の映像で体が地面を離れて空にあがっていったときなぜか寂しかった。センチメンタルな気分になって、やはり自分は地面に足を踏み下ろしている人間なんだと感じた。これは想像では分からなかったことですね」という隊員に、「それは小さな地球を見下ろす宇宙飛行士の気持ちに似てるのかもしれませんね」と廣瀬教授も頷く。

1989年、アメリカのJ・ラニエ氏はVRを「欲望のスポンジ」と呼んだという。「つまりVRとは現実空間では満たされない欲望を疑似体験の形で満足させ吸い取ってくれるシステムという意味です。ただVRは何でもできる反面、一種の麻薬のような面を持っていることにも注意すべきですね」。今後のVRはどうなっていくのだろう。「この技術はまだ10年しかたっていないので未来予測は難しい。ただ今ではVRという言葉はすっかり定着し、誰もがコンピュータの中にある種の社会が存在していることは分かっている。その社会とはインターネットかもしれないし意図的に作られたシュミレーションかもしれない。そういったものが今やある種の現実としても機能するようになったところがおもしろいですね。VRはこれまであまりコミュニケーションがなかった産業同士を結びつけるという方向性も示しつつあります。
このように可能性が無限に広がるものだからこそ、VRの未来を考えるときは、こうなるだろうではなくこうしたいという気持ちを大事にしたいと思います」。VRは今後私達の生活にどんな変化をもたらすのだろう。新しい「現実感」を与えられたとき、私達の社会や人生の価値観は大きく変わっていくのだろうか。
 仮想と現実を行き来しながらふとそんなことに思いをはせた今回の探検だった。


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