ふたつのユーザ・インタフェース
 ご存知の方が多いに違いないが、ユーザ・インタフェースはその表現・操作手法により 2種類に大別される。CUIとGUIである。  元来コンピュータは、モニタに表示される漆黒の画面にキーボードからあらかじめ定義されたコマンドを入力しないと動作しないものであった。それはつまり、ユーザが文字 (=キャラクター)でもってコンピュータと接するインタフェース、すなわちCharacter User Interface(キャラクター・ユーザ・インタ フェース)、CUIと呼ばれるものであった。
今でもMS-DOSやUNIXといったOSでは使用 されてはいるが、ディレクトリ(フォルダ)を移動するのにも「cd ...」(change directoryの意)、ファイルを複製するのにも「cp ...」(もちろんコピーの意)などと、使い慣れた人にはともかく、コマンドの文字列を知らない初心者にとってはまったく右も左もわから ない代物なのである。
 しかしそんな人々の前に現れたのが、より視覚的で、より直感的なインタフェースで ある、Graphical User Interface(グラフィ カル・ユーザ・インタフェース)、GUIを持つMacintoshであった。アイコンによって一目見てわかるファイル構成、そしてそれらをマウス でもって視覚的に自由に操作できる感覚…。
コンピュータには触れたいが、CUIのために それを敬遠していた人々(Appleが言うところのいわゆるfor the rest of usな人々であろう)を一気に未知なる新しい世界へと招き入れた(余談だが有名な話として、GUIを最初に用いたコンピュータは厳密にはMacintoshではない。ゼロックスのパロアルト研究所が開発した 「アルト」というマシンがその記念すべき第一号で、同研究所を訪れたスティーブ・ ジョブズがそのマシンに一目惚れ、インスピレーションを得て、Macintoshのベースにしたのであった。今年のMacWORLD Expo Tokyoで実物が展示されていたので、見たという方も多いかもしれない)。

 GUIの内側
 GUIによって、ユーザ、そしてコンピュータの何がどう変わったのかをもう少し詳しく見てみよう。
 先にも簡単に触れたが、第一にはユーザが使用する入力デバイスの発展に大きく貢献しているのはまず間違いない。文字入力ゆえにキーボードさえあれば事足りていたCUIから、GUIによってマウスを用いることでより直感的に情報に触れることが可能となり、それが今度はタッチパネルの登場でマウスのポインタの代わりに人間の指が直接(厳密には情報はモニタの中に表示されているので間接だが) 情報に触れられるようになり、さらにはタブレットやグローブなどといった、より情報 そのものを編集しやすいようにするものへと発展を遂げている。また若干話は逸脱するが、このようなGUIによる百花繚乱的な視覚操作を促す入力デバイスの進歩は、ゲームの世界を想像してもらえばよりわかりやすく理解できるのかもしれない。
 GUIの進歩は、GUIという同じユーザ・インタフェースの中において新しいレイヤーともいえるユーザ・インタフェースの存在を促すことになったことも極めて重要な事象だろう。それはOS本体が基本として有する操作体系という意味でのユーザ・インタフェース以外に、OSの外観を飾る見た目としてのユーザ・インタフェースを拡張・表現することを指す。
 Macintoshにおけるその代表的なものは、 やはりKaleidoscopeになるだろう。シェア ウェア開発者のGreg Landweber氏と元AppleのGUIエンジニアのArlo Rose氏の共同開発の手によるこのツールは、アイコンの形から チェックマーク、スクロールバーなどといったOSが提供するGUIの部分に外観的な変更を 加えるものである(ただひとつダブルスク ロールアローというMac OSの基本機能と して備わっていない(厳密には違うが)インタフェースを加えることはできるが)。また他には、最近その勢力を伸ばしつつある各種MP3プレーヤーアプリケーションが、それを使用することの嗜好性との相乗効果もあってか、外観を変更するさまざまなスキンが用意され、またサウンドデータから音程や音量などいったデータを抽出し、それを視覚的に表示させるような独自のGUIの世界も切り開いている。
 だがOSそのものが持つGUIの外観に関する考え方を見てみると、今は無きCoplandプロジェクトで各種さまざまなテーマを用意して、あれほど大々的に個々のユーザの好みに応じた外観に関するユーザ・インタフェースを提供しようとしていたAppleが、Mac OS XではAquaという非常にメッセージ性の強いユーザ・インタフェースを用意し、さらにそれをユーザ が変更できるような機能を今のところ用意 していないように思えるのが非常に興味深い(ある情報によると現在のMac OS 9にある ようなアピアランステーマは使えるような話もあるらしいが)。そしてそれと逆の道を歩もうとしているのが、スキンの採用によってGUIのカスタマイズを提供しようとしている次世代のWindowsだというのがさらにおもしろい 対比である。

 もうひとつの側面
 ーインフォメーションデザインー
 CUIやGUIに代表されるユーザ・インタ フェースは、既に存在している種種雑多な 情報に対して、ユーザが自らの操作でもって接することができるようにする媒介の役割を果たしているものであるが、いくらユーザ・インタフェースが優れていようとも、その 情報の内容自体がユーザにとってわかりにくいものであっては(例えその情報を作り上げたのがそのユーザ自身であったとしても)、全く意味がない。そこでその情報をよりユーザに伝わりやすいものとして編集する行為が必要となってくる。それが「インフォメーションデザイン」であり、そのなかでも私たちに 一番身近でわかりやすいものであると思われるのが「インフォメーショングラフィックス」というものである。