片山さんの作品を見ていると、たとえば「ベイシング・エイプ」の青山店ならデリカテッセンをモチーフにしたなど、明確なテーマがあるように思うのですが。

そうですね。例の「シガーロPC」も、たとえば ル・コルビジェ(日本の旧帝国ホテルを設計した ことでも知られる世界的な建築家。20世紀初頭〜中盤に活躍)とか昔の偉い建築家なんかがもし コンピュータを使っていたとしたら、どんなデザインのものを使ったのだろう、というテーマがあるし。 「ベイシング・エイプ」の原宿店だと、人気のある店だからいつもお客の列ができる。だったら、並ぶ ことも楽しみのひとつにしてみようということで、 店内にわざわざ並ぶための廊下を作ってみたりとか。  でもそうした個々のテーマも、特に理由がある わけではなくて、そうしたら楽しいじゃん? という 軽いものです。なぜデリカテッセンなのか、なんて、そこに来るお客さんには関係ないですしね。 要するに、理屈で組み立てて行くのではなく、漠然と考えているうちに正しい着地点が見つかって、 そこからデザインが始まるという感じなんですが、 まあ、考えている時間は長いですね。とはいえ、 あまり入り込んで重く考えないようにはしてますけど。まあ、なんかしながら、音楽聴いたり人と話したり、別の仕事しながら漠然と考えてて、で、一度方向が 決まるとあとは速いですね。速ければ3分で仕事 終わっちゃう(笑)。

デリカテッセンといいル・コルビジェといい、一種のサンプリングですね。

うん、そういえますね。何を作るにせよ、元ネタって絶対ありますから。少し前だと、オリジナリティへの こだわりというのが作り手側にあったと思うんだけど、今は元ネタを堂々といってもよくなってきたでしょ? 堂々といったほうがカッコいいとまではいわないけど。 でも、そうはいっても、僕は自分のデザイン力にあんまり自信がないんですよ(笑)。

そうなんですか?

たとえば、いわゆる天才という人たちがいて、 そういう人たちは、たとえばインテリアデザイン だったら、壁に丸く穴を空けたりする。その穴の 大きさとか位置には、やはり理由や意味があるはずなんだけど、そういうのはお構いなしに空けて、でもカッコよかったりする。僕自身はそういうデザインができないというのがまずひとつ。  もうひとつは、天才でない以上いろんなアイデアの引出しを持っていないといけないわけですが、 それがまだまだ足りないという点。そういう自信のなさが結局、仕事の度に明解なテーマを探して デザインを始めるという、今やっているモノ作りの 方法になっているともいえるんですけどね。


ただ、それが引いては、片山さんの仕事の魅力につながっているとは思います。話は変わりますが、 片山さんはデザインの仕事にコンピュータをお使いですか?

いや、ほとんど使ってません。人まかせで(笑)。でも、自分のアイデアをコンピュータで形にすると、無駄な希望を切り落としてくれるのはいいですね。

それは、どういうことですか?

頭の中で考えていると、やはりどうしても自分の都合のいい方向にイメージを持って行くでしょ?  天井もう少し高ければこんなこともできる、という のが、次第に天井は高い、にすり変わったりとか。 そういう、現実的には無理がある点を、一度コン ピュータの中できちんと図面なり絵にしてみると、 すっぱりと諦めれられるというのがいいところだと 思います。図面とか、手描きの図面にはない「血の通っていない」という点も好きだし。  あと、コンピュータに関していえば、取り敢えず コンピュータが一台あれば、フライヤーだとか、 フリーペーパーだとか、あるいはWebページなどのデザインは誰でもできてしまう。もちろん、プロと アマチュアの差というのは、技量にせよセンスに せよあるわけですが、アマチュアでもバットは振れるわけだから、当れば間違ってホームランが出る可能性もある。で、今はコンピュータが普及したお陰で「誰でもバットが振れる」という状態ですから、デザインに携わるものにとって一番恐いのはアマチュアの方々かもしれないと考えています。プロが逆に、 セオリーとか自分の枠に固執し過ぎると、デザイ ナーとしての存在価値すら揺るがされるんじゃないかな、とか。

最近のAppleのプロダクトデザインについては、どうお考えですか?

新しく出たCubeはいいですね。Appleの凄いところは、機能や性能よりもまずデザインが先に 立って、多くの人を惹き付けるというところだと思います。やはり日常の中で多くの時間つき合うもの だから、デザインのよし悪しは大事でしょ? 僕の 周りはMacユーザが多いんですが、「シガーロPC」の次はMac用のモニタを作れという声も多い(笑)。

でも逆に、Cubeのような、あるいはiMacのような斬新なデザインだと、日本の住宅だと却って浮いてしまって置きにくいと思うんですが、その辺、インテリアデザイナーとして何かこうレイアウトしたらいい、 などのアドバイスはありますか?

うーん、好きなように置けばいいと思いますね(笑)。というか、コンピュータなんて、好きなように置けばいいんですよ。有り難いものを有り難く使うより、 床に置いて寝転がって使ってる姿のほうが、カッコいいと思いますね。個人的にですが。

なるほど。最後になりますが、片山さんは今年 Hデザインを解散してWonderWallを設立し、 一本立ちしたわけですが、今後の豊富や予定などを教えていただけますか。

Hデザインの頃でも仕事自体は、黒川の仕事は 黒川の仕事、僕の仕事は僕の仕事でしたから大きな違いはないですが、やはりすべて僕個人の責任になったことによって、より自由になったというのは大きいかな。  あと、東京を基盤にしている以上、時代の流れの速さというのは意識してますね。ショップのインテ リアはどんどん変わっていくし、デザインする人間も どんどん消費されていく。なるべく大御所には ならずに、常に時代の内側にいて、時代の流れに対応していけるようにしたいと思いますね。なんて いうか、「親父のクセして文化の内側にいる」という、勘違いした親父になるのが理想です(笑)。  今後の仕事としては、まだ詳しくお話でき ませんが、ファッションショップ絡みで大きな仕事があって、来年の春頃には形になる予定です。 服を売るだけでなく、カルチャーも入り交じった ショップが、日本だけでなくいろんな国に展開されるはずです。

そうですか。期待しています。今日はありがとう ございました。