私たちの生活スタイルやコミュニケーションのあり方というものは、インターネットというメディアの普及により変化の時を迎えていると云えるだろう。
そのような変化に目を向けるとき、ひとりひとりの「個性」というものの 存在を無視することはできない。今回の特集では古くからのMacユーザで「パラサイト・イヴ」等で著名な瀬名秀明さんにお話を伺い、それを手掛りに「個性」のあり方とは?という事を考えてみたい。

私たちは「個性」を持っている。それは誰もが信じて疑わないことだ。 しかし一方で「個性的でありたい」という願いを持ち続けている。「個性」とは何だろうか? 所謂個性的な人は、個性的でない人とどこが違うの だろうか? 誰かに「個性」を感じる時、そこにはその人との何らかの コミュニケーションが存在していると云えよう。いかなる個性があろうと、それが個性として際立つのはコミュニケーションの現場において、である。他社の存在なしには「個」が「個」として自覚されることはないのだから。 コミュニケーションが「個」を自覚させるという前提に立てば、コミュニ ケーションの手段としてのメディアが「個」即ち「個性」に対して影響を 与えるということは自明である。インターネットというメディアはコミュニ ケーションの姿を変貌させている。携帯電話と結びついたe-mailの 普及はかつての手紙、電報などの通信手段とはいかにも異なっている。それではそのようなメディアは個性をどのように変貌させているのだろうか?
このような疑問を鍵に、作家の瀬名秀明さんにお話を伺ってみた。

個性を作る要素というのはどのようなものと思いますか?


瀬名秀明氏

1968年静岡県生まれ。
東北大学大学院薬学研究科修了
作家。

「パラサイト・イヴ」
(角川書店刊/日本ホラー小説大賞受賞)
「BRAIN VALLEY」
(角川書店刊日本SF大賞受賞)
「小説と科学-文理を超えて想像する-」(岩波書店)
『「神」に迫るサイエンス-
BRAIN VALLEY研究序説-』
(共著/角川書店)


性格を形成するものには環境要因と遺伝要因との2つがあります。その人が暮らしてきた歴史と、その中で何を学んできたかというというのが環境要因ですし、もともとその人が持っている体質とでもいうべきものが遺伝要因。この2つの組み合わせが個性となる わけですよね。  最近は遺伝子の研究も進んできて、「性格にかかわる遺伝子」というものも見つかってきているんですよ。面白いなと思ったのは「引っ込み思案になる遺伝子」というのが あるという話です。よく日本人は欧米人などに比べて積極的にならない、これは良くないことだと云われがちですけど、そのような 事態を作っているのは遺伝子なんだという 説があるのですよ。遺伝子というのは両親から同じものをもらってくるので基本的には 同じ遺伝子を2つ持っていることになります。例えば両方とも変異がおきると遺伝病になる場合とか、片方だけがおかしくなっても遺伝病になる場合とか、遺伝病には色々あるのですが、性格を決める因子も「遺伝」が影響しているようで、日本人の場合「引っ込み思案」になる遺伝子が両親から入ってきやすいらしいのです。これが片方からだけならそんなに 引っ込み思案じゃない、とか、全く入って いなければ積極的な性格だとか。「日本人の個性」なんて云われるようなことは実は遺 伝子によって説明されてしまうところがあるんですね。教育の現場で「そんな引っ込み思案でどうするんだ」というような事を云うわけですが、こういうのが遺伝子で既に決まって いる可能性があるということなんですね。 それで、環境要因で何とか変えようとするのだけど、意外と上手く行かないのが日本人なのかなあ、という気がします。
個性の有無もそういうものの積み重ねで…そういってしまうと身も蓋もなくなってしまいますけど、そのような変えることができるとかできないという事なんかも個性なんでしょうね。 それで、環境要因で何とか変えようとするのだけど、意外と上手く行かないのが日本人なのかなあ、という気がします。個性の有無もそういうものの積み重ねで…そういってしまうと身も蓋もなくなってしまいますけど、そのような変えることができるとかできないという事なんかも個性なんでしょうね。 変わろうとする積極性という部分で。「君は変われる」なんていう啓蒙書なんかを読むことで実際に変わる事ができるのも、「どうせ無理だよ」と考えてしまうのも、遺伝子で既に傾向ができてしまっている。今後、研究が進んでゆくと、そういった次元での「それぞれの個性」への理解は深まってゆくのでしょうね。



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