The Cat

ところで、夜MOZZを訪れると、店の前の ウィスキーの樽の上に、ジミー・スミスの「The Cat」のジャケットさながらキジトラの猫が寝ている ことがよくある。
「近所の野良なんですけどね。なんか、ウィスキーキャットっつう感じでいいでしょ? お客さん、 猫好きも多いし」
猫−Catは、スラングでジャズミュージ シャン、ジャズ好きという意味もある。
「ニュアンスはなんとなくわかってもらえると思うけど、要するに自由気ままで、ひとりが好きで、徒党を組むのを好まないっていう 感じですかね。MOZZのお客さんも、そんな 感じの方が多いかな」
実際、MOZZのお客さんの中には、プロの ジャズミュージシャンや作曲家、音楽評論家などが少なくない。
「彼らのほとんどが、コンピュータを買う際Macを選んでいるんだけど、それはやっぱり彼らが“Cat”だからじゃないかと思いますね。みんなひとりで仕事してるし、誰かから“これじゃないといけない”って押し付けられるわけでもない。それに、ひとりでパーソナルにコンピュータを使う場合、やっぱりMacのほうが使いやすいですしね」
加えて、Macには一台一台に顔がある、というのも、“Cat”達がMacを選ぶ理由ではないかと、橋本氏はいう。
「機種ごともそうなんだけど、使っているうちに 自分の手に馴染んでいくっていうのも、Macの よさですよね。機械っていうより、楽器みたいな感じなのかな。それに使い方次第では、古い マシンも十分使えるし、使っていて楽しい。音楽の打ち込みとかね。そんなところも、楽器っぽいのかな」
実際、MOZZに来るお客さんの中にも、一世代、二世代前のMacを愛用する人も少なくないそうだ。

(写真左)
歴代のMacがずらりと並ぶ店内




COFFEE TIME
13:00〜19:00 (月〜土)日祝休
BAR TIME
19:00〜26:00 (月〜土)日祝休

Mac the knife

しかし、だからといって、橋本氏が自分の店に20数台ものオールドMacを集めるに至った理由は、なんなのだろう?
「まだアパレルメーカーにいたとき、僕が担当していた情報システム部門に悪いシステム エンジニアがいまして(笑)、さんざんMacはいいよって吹き込まれたんですね。それがMacに興味を持ったきっかけなんだけれども、 古いMacを集めるようになった直接のきっかけは、ブルー&ホワイトのG3の登場かな。 なにせ、その10日前にG3 DT300を買って しまったのがかなりショックで。それで、 もう“俺は最新機種は買わないぞ”って思ったんですよ(笑)」
で、試しにジャンク屋を覗いてみたら、 昔のいわゆる名機がものすごく安く売られていることに気付く。
「発売当時100万円もしたっていうマシンが1万円くらいで買えたりして。それで買ってみたら、十分使えるし。Mac使ってて重たいな、と思うのは、 ひとつのマシンでいろんなことさせ過ぎるっていうのもあると思うんですけど、こいつはワープロ、 こいつはデータベースって分けて使えば、あん まりトラブルも起こらない。あと、多少壊れてても、ちょっと直すと使えたりするんですね。理工系 出たお客さんもいるんで、手伝ったりしてもらったりして。そんなこんなで、気が付いたらこんな状態になってました」
店の奥のボックス席は、最初はむろん客席だったが、今では作業場と化している。
「僕も使ってますが、お客さんがなんか調べたりとか、そういう風にも使われてます。前にも言った通りMacユーザのお客さん多いんで、自然にMOZZ Macユーザグループなんてのもできちゃいましたしね」
橋本氏いわく、オールドMacは“盆栽”だそうだ。
「っていうか、よく、なんでこんなに古いMacがあるんだ、って訊かれるんですけど、自分でもよくわからないところがあって(笑)、そう答えてるんですけどね。でも、手塩にかけて育てるという点は、似ているような気がします。あまり無理な改造したり、システムファ イルたくさん入れて調子悪くなったら、それは盆栽に肥料やリ過ぎて根腐れしたみたいなものだともいえるでしょ?(笑)」
たとえばフロッグデザインの手掛けたMacだけにこだわる、といった時期は通り過ぎて、今は(たとえばCentrisとか)あまり人気のない“不遇の”機種も、可愛いという。
「よくジャズ喫茶とかジャズバーって、アンティックのミシンとか蓄音機とか置いてるじゃないですか。MOZZのMacも、そんなものだと思ってもらえると いいですね。でも、そろそろ初代iMacあたりは、 インターネット端末として店に置きたいなと思ってますけど。勝手にオールドMacに認定してね(笑)」
いろいろ話が弾むうちに、日も落ちて来て、オールドMac達が放つモニタの光が、店内にいい雰囲気を作り始めた。インタビューはこの辺で切り上げて、MOZZのオールドMac達にちなんで「Mac the knife」(Moritat)が入ったソニー・ロリンズの名盤「Saxophone Colossus」でもリクエストするとしよう。

text: by 前田寿一


 今回お話をうかがった店長の橋本邦彦さん


 “MOZZ”ホームページ http://www.mozz.net/