いわゆるIT革命なども含め、著しく速いスピードで社会が変化する今、社会の中核を“大人”として担わなければならない30代、40代という世代は、“大人として生きること”をどう考え、どう実践していくべきなのだろうか。
“キャリア”というものの研究を通じ、「ニューウェーブ・マネジメント」「中年力マネジメント」(共に創元社)などの著書でこうした世代の生き方についてのヒントを考察している神戸大学大学院経営学科研究所教授、金井壽宏氏へのインタビューを通じ、30代、40代の人間が今、何をどう考えて社会と対峙すべきかについて、考えてみたい。
金井壽宏 (かない・としひろ)さん
神戸大学大学院経営学研究科教授


1954年 神戸生まれ
京都大学教育学部卒業、
神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。
MIT(マサチューセッツ工科大学)Ph.D.(経営学)、
神戸大学博士(経営学)。


変化する時代の中で 考えるべき“仕事の仕方”とは

 20世紀の百年という括り方でも、あるいは日本に限っていえば明治維新以後とか戦後の50年という括り方でもいいが、その中でこの10年間くらいでの社会の変化のスピードというのは、目を見張るものがある。仮に、日本が今の社会の形を築き始めた高度経済成長期以後の30年くらいの間に話を限ったとしても、改めて考えると、 ここ10年ほどの社会や生活の変化のスピードがかなり速くなっているのに驚く。

 その、これまでにないスピードの変化を最も重く受け止めているのが、 この世紀の変わりめの時点で30代、40代という年齢に達した人達ではあるまいか。むろん個人差はあるが、学校を出て仕事に就きまさにキャリアを積んでいる最中に、たとえばバブル経済の崩壊による会社神話(大組織神話)の崩壊を体験し、あるいは俗にいうIT革命のお陰で仕事、生活の大幅な変化を余儀なくされたわけだから、ある程度は安定した社会を生きたのちこうした時代の変化に対面した上の世代、変化の真只中に生まれそれを当たり前のものとして感覚的に捉えているであろう下の世代と比べると、30代、40代の働き盛りの人間の受けている変化の衝撃は著しく大きいものではないかと思う。

 たとえば仕事の仕方ひとつ取っても、右肩上がりの時代とは違い、大きな 会社、しっかりしている(と思われている)組織にいれば安心というものでもなくなってしまったわけだし、長年勤め上げ、その会社に貢献してきた先達たちですらリストラの憂き目に会うという状況下では、拠るべき手本が消え始めているという不安があるだろう。同じ組織で10年、20年と仕事をしていても、いた年数分だけは必ず報われるというわけでもなくなってきたわけだから、社内の先輩、あるいは社内外に関わらず広く「社会人の先輩」の手本としての機能は、段々希薄に なってきているのではなかろうか。



「それは結構難しい問題なんですけどね。今日(インタビュー当日)たまたま関西経済連合会の研究会に行って来た帰りなんですけど、そこで研究しているのは、日本人の長期的な生き方としてのキャリアについてで、それで今、日本の有名な会社の役員の方々に、自分のキャリアの中で一皮剥けたという経験を3つ4つ伺って、それを分析しているところなんです。

 で、この研究会を始めたときに、ある会社の部長の方に指摘されたのが、『時代が大きく変化しているんだから、昔の環境の中で成功した人の話を訊いても意味がないんじゃないか』という点。確かにいわれてみればそうかもしれませんが、でも、そうした“昔の環境”の中で成功したリーダー達の、たとえば思いやりがあるとか、人間としてスケールがでかいとか、普段は“大きな人”だけどいざ怒るとなるとめちゃくちゃ恐いとか、そういうリーダーとなった人間の本質っていうのは、実は不変な部分も多いのではないか。リーダーシップという部分でいえば、ヘンリー・フォードも今現在活躍しているベンチャーの旗手達も、共通する部分はあるんですね。



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