しかし、本当に驚くのはこれから。シール剥がしが終わると間髪を入れず、今度はこれから新しく貼るシールを、デザイン画に沿ってガムテープで仮留めして行く。このときも、一応メジャーで縦位置を確認しながらもかなりの速度で作業は進行。バスの横面には8枚のシールが貼られるが、あっというまにグリーンの都バスがネスレ日本の広告に覆われていく。 なお、この仮留めはバス横面のちょうど真ん中辺りから始められるが、その理由は「真ん中から作業を始めると、最終的に横方向にシールを貼っていく距離が短くて済むから、仮留め時に誤差が生じても修正が楽」だからとの由。確かにいわれてみれば端から端に向かって貼っていった場合、最初のちょっとしたずれが最後には大きなずれとなる。こうした点も、多いときには一日に数十台のバスラッピングをこなすという、(株)ゆうの職人さんたちならではのノウハウのひとつといえるだろう。 さて、仮留めが完了し歪みがないかを確認したら、今度は本番。まずシール上部の裏面の、接着面の保護シートを カッターナイフで切り取りシールの上側をバスの車体に貼り付ける。続いて残りの保護シートを少しずつ剥がしながら、瞬く間にシールはバスの車体に、まさに「吸い付いていく」という感覚。 ちなみにシールを貼るというと、真っ先に思い浮かぶのが「空気は入らないのか」という点だが、これについて樋渡氏いわく、「都バスのラッピングに使っているシールは、接着剤が網状に塗られているんですね。だから空気が入ったとしても、すぐに手で慣らせばピタっと貼ることができるわけです」とのこと。なるほど、むろん熟練した職人さんの技があってのことだが、用いる部材にも、大型車にシールを歪みなく貼って行くというダイナミックかつ緻密な作業を、効率よく行うための工夫が凝らされているわけだ。 こうして次第に、ただの都バスが「ラッピングバス」に変身していくわけだが、むろん四角いシールをそのままバスに貼っただけでは作業は終わらない。いうまでもなく、バスには凹みも曲面もあるし、タイヤのところは曲線で切り込まれていれば、窓だってある。位置を違わないように一通りシールを貼ったら、こうした箇所を処理しなければならないわけだが、ここがまさに職人芸。タイヤのところの曲線の切り込みなども、カッターナイフひとつでスパっと切り落とし、曲線に沿ってピッタリと処理していく。この辺りの技が、ラッピングバスが遠目にはまるで塗装を施したかのように見える所以だ。また凹みの部分などは、シールに放射状の細かい切り込みを入れ、これもやはり手作業で、凹みの曲面に沿って馴染ませていく。こうした技は、素材のテクノロジーだけではカバーできない、熟練した職人さんたちがいてこそのものだと、探検隊員一同大いに感動したようだ。寒さも募る晩秋の早朝、ちょっとツラいが早起きしてよかったと、全員が思ったことだろう。 | 車体に隈なく貼られたシールも、 小一時間で剥がされてしまう。 車体に貼るシールは、こんな形で 納品される。 完成図を見ながら、まずはガムテープ で仮止めする。 シールの裏側。写真ではわかりにく いが、糊が網目状に塗布されている。 シールを貼る際入った空気は、版画に 使うバレンのような道具で外に追い 出していく。 |
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