確かに珍しいお仕事ですが、そのようなビジネスをやろうと思われた動機はありますか?

 僕は子供が凄く好きで、僕自身はずっと子供でいようと決めて、職業はプロの子供だと思っているんです。それで子供の頃にずっと思っていたのは、大人から貰うもので本当のことが描いてあるのはマンガだけだということなんです。教科書は何となく嘘が多いらしいし、先生はあてに ならない。そんな中で、マンガのキャラクターたちが語りかけてくれることはリアルな肉声だったんですよ。それは凄い大事だなと思っていて。子供が素直に心を開く、唯一のデバイスがマンガではないかと。そこでうまく物事が伝えられないと、世の中いかんのじゃないかな、と。そういう思いがあるから、Newtonが好きなんでしょうね。PDAという概念は、マンガの世界には昔からあるじゃないですか。それでコンピューターを持って歩けるんだっていうのは凄いカッコいいと思って。 しかも、これは、絵もかけるし、速記もできるし、データ交換もできる。打合せには、凄く便利なんで、このNewton130を発売当初からずっと 使ってるんですよ。周りはパームにすればと言うんですけど、パームだと絵が描けないんです。 例えば、キャラクターの顔は、こんな眉毛がいいんじゃないの、という話をする時にササッと描けるのがいいんです。まあ、僕としては、もっと軽くしたいし、もう少し高性能化して、メモリーも 増やしたいですけど、いかんせんこれが一番 大きく絵が描けて、思考のスピードと調和したもの書きができるんです。アップルも新しいPDAを作るっていう噂は聞きますけど、今のジョブスの好みだと、ちょっと違う方向に行ってしまう 可能性が高くって。それはヤだなと思ってますね。キャラクターテクノロジーの信仰者である僕と しては、iMacの成功をジョブスは理解していないと思っているんですよ。だから、PowerBook G4にしてもCubeにしても、外してるなと思うんです。

ジョブスが理解していないというiMacの成功の理由は何なのでしょう。

 iMacだけが、キャラクターとして世の中に認知されてるんですよ。iMac的なるものという言い方ができると思うんです。従来コンピューターはブランドだったんです。その頂点が、今バイオでしょう。でもiMacはブランドではなくキャラクター。みんな、スケルトンカラーが流行ったと思って いるんですけど、スケルトンをまとったiMacというキャラクターパッケージングが成功したんです。その証拠に、バイオは他には伝染していかないんですよ。iMacだと、iMac的なお玉とか、iMac的なお風呂道具とかいっぱいあるんです。Cubeを見て、カワイイという人は、あまりいないと思うん です。このカワイイという言語が、日本人にとって、若い人にとっては、非常に大事なキーワード。 キャラクターのパッケージングとして、成功しているものに対して、カワイイって言うんですよ。 その点で、CubeやG4はブランドに後退して いるんです。ブランドは安心感だけど、キャラ クターは、愛情面から心のゲートを如何に開けるかという部分が重要。その点でもiMacは非常に成功しているんですよ。

なるほど、iMacはブランドとしての製品ではなく、生きたキャラクターとして認知されたということですね。  僕は、そう思っているんですよ。それは、ずっとAppleが一生懸命やってきた、コンピューターと人間の距離をいかに近くしていくかという試みの、別アングルからの大事な勝利だと思うんです。

本日はどうもありがとうございました。

text by:中野本朝