10年、20年先を見据えた
根本的なリニューアル


 今回のMac OS Xの正式リリースも、実はそうした、GUIが、WSYIWYG〜デスクトップパブリッシングが、QuickTimeが、Newton〜PDAが、誕生/普及したのと同じ文脈で語られるべきものではなかろうか。コア部分にFreeBSDを採用したことにより、UNIXの安定性、セキュリティ面での堅牢さを、使い勝手のよいパーソナルコンピュータの世界に持ち込むという発想は、今後のパーソナルコンピューティングには欠かせない要素であろう(スティーブ・ジョブズは「今後10年以上は使える環境」といっている)。特にシステムエラーの度にシステム全体の再起動を余儀なくされる従来のMac OSと比べれば、エラーがあったプロセスしか落ちないという構造は、すべてのMacユーザが待ち望んだものだろう。

 またインタフェースの変貌に関しても、確かに従来のMac OSとはかなり異なり、最初は違和感を覚えることは間違いない。しかし、Mac OS Xで採用された新しいFinderのインタフェースやDockなどは、Appleらしいアイデアを盛り込みながらもWindowsやUNIXベースのGUI環境の標準に準じている分、白紙の状態からコンピュータの操作を覚えるとすれば、却って把握しやすいともいえるだろう。これはある意味、過去20年近くにわたってMac OSのインタフェースを支持して来たユーザに対して、あまりにも変化が唐突であったが、これから10年、20年と長い期間でものを考えた場合、より標準的なインタフェースを採用していくことは、当然といえば当然だ(逆にいえば、従来のMac OSのインタフェースが、時代とともに世の中の流れから大きくずれてしまっていたともいえよう)。

未来のコンピューティング環境は
ユーザの声が実現する


 その意味でいえば、Mac OS Xの正式リリースはAppleが今後もOSベンダーとしてより成熟してくための、最初の一歩に過ぎないともいえる。さらに比喩的な表現を使えば、人間が成長する際の思春期に相当するといってもよかろう。そこでもうひとつ想起してほしいのは、Appleという会社が目指した思想は、ほぼ実現し普及させているという事実だ。中にはOpenDocやCyberDog、QuickDraw 3D、Newtonなどのように他のプログラムに吸収されてしまったものもあるが、先にも述べたとおり、Appleの発想によってコンピュータの世界が変わった例も、決して少なくない。むろんそれは、個々のユーザやAppleを取り巻くサードパーティの支援があってこその話ではあるわけだが、とはいえ今回のプレビューリリース〜正式版リリースの流れを見ても、インタフェースに於けるUNIX臭さの排除などを見れば、周囲の声に耳を傾け、未来のコンピューティング環境をきちんと作っていこうというAppleの姿勢はやはり窺うことができる。もっともユーザ次第、サードパーティ次第という意味では、グラフィック関連やマルチメディア関連など個々の細かいOS機能のアップデートとは異なり、今回のMac OS Xのリリース―OSベンダーとして、成熟するための最初の一歩は、Appleにとってかなり大きな賭けではあろう。ここでMacユーザとして考えて欲しい。現時点で十分な完成度を期待するよりも、未来へのステップとして、このOSを受け入れるべきではないだろうか。

 ともあれ、Appleによって賽は投げられたわけだから、あとはその賭けに乗るか乗らないかということになるわけだが、もしこれまでMacによってわくわくするような体験をしてきたのなら、ここでこの賭けに乗ってみるのも一興だろう。少なくとも、取り敢えずインストールして思いのままに使い倒してみて、要望をどんどんAppleにリクエストしていこう。より快適で面白いコンピューティング環境は、OSベンダーの力量だけでなく、個々のユーザの声によって作られるはずなのだから。


Mac OS Xをインストールする際の注意点

 本文でも繰り返し述べる通り、Mac OS Xはまだ、サードパーティの対応も含め、OSとしての完成度は決して高くないし、少なくとも操作性の面では、従来のMacユーザに戸惑いを与えることは、紛れもない事実だ。したがって、Mac OS Xをインストールする際は、必ずこれまでの環境を残しておくことを、強くお勧めする。

 これはMac OS Xに限った話ではないが、アップデートに際して、11ページで詳述するようにハードディスクをいくつかのパーティションに分割し、従来の環境とMac OS X環境を分けるということだ。ファイルのバックアップやアプリケーションの再インストール、そしてMac OS Xのインストールとちょっとした手間はかかるが、Mac OS X専用のマシンを用意できる恵まれた環境ならともかく、普段使っているマシンでMac OS Xを試すなら細心の注意を払おう。