前置きがいささか長くなったが、その古楽器演奏の分野で日本を代表する音楽家が、今回ご紹介するつのだたかし氏である。つのだ氏の音楽活動は、ご自身の言葉を借りれば「リュート弾き」ということになるが、その活動の幅は広い。たとえばつのだたかし名義のソロ活動や、メゾ・ソプラノの波多野睦美氏とのデュオでは古楽の様式に則した演奏をしているが、その一方でタブラトゥーラという「古楽器バンド」を率い、古楽器を用いながらもアグレッシブで現代的なオリジナル曲によるアンサンブルも手掛けている。

 また年50〜60回もコンサートを行うほどにライブ活動も盛んだが、学究的ともいえる古楽演奏のみならず、異分野のアーティストと組んで舞踊や演劇を取り入れたステージを行うこともある。

 と書くと、いかにもつのだ氏が、よくマスコミなどで紹介される「マルチな才能を持ったアーティスト」めいてしまうが、ただ、つのだ氏を簡単に「マルチアーティスト」と呼んでしまうことをとまどわせるのは、たとえば次のような発言を聞くときだ。

 「確かに自分の表現したいことは、ひとつの形だけでは収まらないし、僕自身とても飽きっぽい人間だから(笑)、いつも違うことをしたい、何か足りない、という思いが常にあるんですね。それで一方では古楽を追求してその謎の部分、よくわからない部分を解明していくという活動もしているし、また一方ではタブラトゥーラなどでのどちらかというと賑やかなオリジナル作品創作や、音楽芝居みたいにお客さんにとにかく楽しんでもらうことを目指した活動もする。でも、全部に共通 していえることは、自分が古楽器の響きが好きで、古楽の様式が好きで、それをモチーフにしたいろんな音楽活動を展開していることを、あまり声高に喧伝したくはないんですね」。

要約すれば、自分は自分の面白いと思うことをやるから、それを面白いと思う人に楽しんでもらえればよい。そこで無理やり楽しませるような仕掛けを設けることはしない、ということだろうか。実際つのだ氏は、音楽活動に伴ういろんな作業、たとえばコンサートの企画だとか、チラシの制作なども、「規模をどんどん大きくするのではなく、全部に自分が関わっているのが、自分の手で触れられる大きさで活動していくのが好き」だという。

 この点について、つのだ氏は、「もともとこういう楽器を選んだということ自体が、こういう活動の仕方につながっていると思う」と分析する。「そもそも、控えめであることが好きなんですよ。やっている音楽とか使っている楽器自体、押し付けがましい音楽を『ねえねえ聴いて聴いて』と聴かせるものではないわけですし。天然素材のような音楽ですから、仕事の仕方もそういう質感を持ったやり方でやっていきたい。あまりダイナミックにどこかに飛んでいくような やり方は、やろうとは思わないし、やろうと思っても多分できないですね」。