襲撃し拒絶する“モニタ”

 自分のマシンに名前をつけてる人、多いよね。マシンを起動させたら、まずご挨拶。「おはよう○○ちゃん。今日もよろしくね」――その時、机の下にあるパソコン本体に話しかける人なんてまずいない。必ずモニターに向かって言うでしょ? つまりマシンの“人格”とは「本体ではなくモニタに宿るのである!」てなことを発見(?)し『モニターマン』なる怪人を作り出した人がいる。ハイパーカードスタック作家EV氏。古参のMacユーザなら『ドクター・バロウズ』をはじめとする彼のハイパカスタック作品をご存じかも。
 「モニターマン」はWeb上のダンジョンで、襲いかかるモンスターを倒しながらゴールを目指す古典的なゲームなんだけど、ユニークなのは参加者がまず「あなたのモニタ周辺にあるもの」を登録させられること。モニタの上、下、右、左にあるものをフォームに記入(コピーカード、マウス、財布、事務机、てなぐあい)して、いよいよダンジョンへ。そこで襲ってくるのは、なんと「ティッシュの箱」や「業者さんがくれたカレンダー」。そう、他人のモニタ周りにあるものが次々と襲撃してくるのだ。そこでアイテムを使って応戦するのだが……おっと、みなまで言うては面白くない。あとは各自お楽しみください。
 人は常にモニタをのぞき込んでいる。携帯電話の小さな画面もホームシアターの大画面も、あなたと世界を繋ぐ窓。だからモニタが奇妙な振る舞いをしたら、私たちは簡単にうろたえてしまう。
 アクセスした途端、モニタ全面が激しくフラッシュする『nato』のWebは、とてもショッキングだ。モニタが乗っ取られたかのようにビカビカ光り、なすすべがない。「すわクラッシュか」と再起動をかけてしまう人もいるだろう。でもしばらく好きなようにさせておけば、メニュー画面に切り替わる。クリックすると、またもプログラムミスのような文字群が現れ、ダイアログが幾重にも重なり、先に進めなくなってしまう……。恐らくいま世界一奇妙なこのサイト、実は映像プログラミングソフトとして注目を集めている「nato」販売用のサイトである。ソフトの紹介・販売サイトで、ここまで相手を拒絶するデザインはまたとあるまい。natoの噂を聞いて「買ってみようかな」と思っても、気の弱い人ならあっという間に引き返してしまうだろう。しかし仕掛けられたハザードをすべてクリアすれば、比較的まっとうな(日本語メニューもある)サポートページにたどりつく。
 「こんなコミュニケーションを拒否したサイトはダメだ!」と言ってしまうのは簡単。だけどスリリングなことも事実。ここでリーブス&ナスの言葉を思い出してみよう。「人対人のつきあいと、人対メディアのつきあいは同じこと」。街で同僚を見かけても知らんぷりしたり、思わずウソをついたり、好きなコをわざといじめて気をひいたり……人間のコミュニケーションってのは実に多様で複雑だ。世の中いい人ばかりじゃない、わかりやすくて簡単なことが面白いとは限らない。そんなこと中学生だって知っている。でもマシン(モニタ)を相手にすると、忘れてしまうんだな。「拒絶するのもアリ。一筋縄じゃいかないから面白いのよ」――natoの作者ネトーチカ・ネズヴァノーヴァは、それをちょっと歪んだ方法で教えてくれているのかもしれない。

さまざまな障害を乗り越えて辿りつく『nato』のトップページ(http://www.eusocial.com/)。
ネトーチカ・ネズヴァノーヴァはアートディレクターとして「top25 women on the web」(http://www.top25.org/winner. html)にも選ばれているが、本当に実在する 女性なのかどうかはナゾ。
ちなみにドストエフスキーに全く同名の小説がある。

ドットで描かれた地味なダンジョンが妙に怖い!
『モニターマン』は以下のURLで体験可能。
http://ux01.so-net.ne.jp/~ev-net/monitorman/