原美術館というコンセプト

 JR品川駅から、ぶらぶらと歩いて約15分。かつて、 大財閥が多く住んでいた屋敷町である御殿山の、今なお大きな住宅が並ぶ路地の一角に、原美術館はある。20世紀初頭のヨーロッパの建築様式の洋館で、1937年に、旧日劇(現在の有楽町マリオン)や上野の東京国立博物館、旧服部時計店(現在の和光ビル)、横浜のホテルニューグランドといった、戦前の洋風建築を手がけた渡辺仁氏の設計によるもの。弧を描くような個性的なスタイルながら、個人の邸宅として建てられたものだからか、いかめしい感じはなく、「面白い作品があるから見に来ない?」と言われて出向いた先、という雰囲気だ。
 原美術館広報の松浦氏と、主任学芸員の安田氏にお話を伺った。
「ここは、館長である原俊夫の祖父邦造さんが私邸として建てた家で、戦後は進駐軍に接収されたり、政府の外務省公邸として使われたりしていたもので、建物自体の歴史もユニークです。原家に返還された後、約20年前原に館長が、美術館にしたわけなんです。美術館に する前に、設備を整えていく上での様々な工事をしています。美術館にとって、ライティングや、温湿度のコント ロールは、とても重要なので、そういったものに関しては手を入れているんです。79年にオープンした後も、88年に一回増築工事をしていまして。その時に、磯崎新さんの設計で、新館やカフェを作りました。とはいえ、なるべく家としての雰囲気を生かした形で美術館にしたいという意志があったので、窓もなるべく残して、開放的な雰囲気のある美術館に改装しています。」
 広報の松浦氏が語るように、原美術館は、通路やフリースペースだけでなく、美術館としては珍しく展示室にも窓が多い(それでも潰した窓もあるそうだが)。また、ガラス張りの明るい雰囲気のカフェや、生活の中で 身近にアートと親しんで欲しいというコンセプトのミュージアムショップなど、美術館と言ったときにイメージするような、しかつめらしさの無い、くつろげる空間になっている。「原が、美術館を立ち上げるにあたって、いくつかの 海外の美術館を視察したりしたのですがその中に、デンマークのルイジアナ美術館という美術館があって、やはり古い邸宅を改装して、その中で作品を見せて いるという、雰囲気のある美術館らしいんです。そこにもやはり、カフェやショップのようなスペースがあって、そういったところから、結構インスピレーションを受けているんですね。アートを楽しむだけでなく、日常生活を離れてちょっとくつろげるような、心を豊かにするような美術館にしたいという意思があって、それも、この美術館の特徴になっているのだと思います。」

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