デジタル文化未来論


新聞でもなく雑誌でもないメディアを作ろうとするのではなく、新聞でもあり雑誌でもあるメディア作りこそ、今までになかった発想だと思います

seven


「若者の活字離れ」は今に始まった問題ではないが、ここ数年でその状況は一層深刻さを増しているという。出版業界、特に若者の購読者が大きく減少していると言われる新聞業界では各社、若者の購読者獲得に向けてさまざまな対策を打ち出しているが、なかなか有効策がみつからないでいるのが現状だ。
そんななか、朝日新聞社は今年9月18日、首都圏の若者をターゲットにした週刊新聞「seven」を創刊する。デザイン性の高いオールカラーのタブロイド版でカフェ等での販売、というお洒落なスタイルが好評で、創刊準備号はあっという間に完売。新しいものに敏感な若者の心をつかむことに、まずは多いに成功したと言えるだろう。
今回は若者と新聞をつなぐ架け橋として誕生した「seven」の取り組みについて、高比良美穂編集長を取材した
高比良美穂さん
朝日新聞社 出版企画室
New Communication Project「seven」
ゼネラルプロデューサー兼編集長
高比良美穂さん
___朝日新聞社が新しい新聞を創刊するのは創業以来とのことですが、そもそもなぜ、このような新聞を作ろうと思われたのですか。
 若者の新聞離れは、ここ10年ほどで相当深刻な状況になっています。ある調査によると、世代別の新聞定期購読率が20代前半ではこの10年で30ポイントも低下しているんです。これはスポーツ紙や英字紙も加えたデータなので、総合紙はこの少ない購読者をさらに奪い合う形で、各社相当苦戦しているということをご想像いただけると思います。
 若者の新聞離れの原因としては、85年に「ニュースステーション」のようなニュース番組の放映が始まり、「ニュースはテレビで」という若者が増えたこと、さらに95年頃からのインターネットの普及で、さまざまな情報を新聞以外から手軽に入手できるようになったことなどがあげられます。ニュースを新聞以外の媒体から得る若者がかなり増えているんです。
 新聞社にとって最も恐いのは「無購読者」の増加です。他紙の購読者なら、より充実したサービスを提供すれば、購読紙を変えてもらえる可能性はありますが、新聞を購読していないところへは、アプローチすることさえ難しいんです。まして最近はオートロックのマンションが増え、ますます新しい購読者を獲得しにくくなっているのというのが実情です。
 新聞社にとって20代の購読率の低下は、単に「若者」の新聞離れを意味するのでなく、それは将来の「日本人」の新聞離れを意味します。というのも、20代の購読率がその後の購読率を決める、つまり20代後半までに新聞を読まない世代はその後も読まないんです。これは新聞を読むということが、極めて習慣性の高い行為であるからです。だから若いうちに「新聞」というカテゴリーのものを読む習慣をつけてもらわなければ新聞社に将来はない。
 このようなことから何か若者対策をしなければと、99年7月、さまざまな部署の社員が集まって、いくつかの提案を発表しました。例えば朝日新聞の購読者だけを対象としたロックコンサートをする、とか、販売店とコンビニの兼業、カフェで新聞自体をメニューに組みこんだ「ニュースモーニングセット」を作る、紙面で若者のページをつくるなど、いくつもの案を考えたのですが、そのひとつとして提案した「若者向けの新媒体を創刊する」という案が、今回の「seven」の原案となりました。
___朝日新聞本紙を部分的に作りかえるのではなく、若者だけをターゲットに絞った、全く新しい新聞を作ったほうが若者をひきつけるのに有効だと考えられたわけですね。
 私はもともと販売・宣伝を担当する部署にいたので、「商品が格好悪ければいくら中身がよくても売れない」「売れる新商品を開発してほしい」という販売現場の声を肌で感じていました。また、ここまで若者の新聞離れが進んでいる以上、劇的に新聞そのものを変えないと若者に新聞を読んでもらえないと考えていたので、やはり新たに新聞を作るべきだと思いました。それにオールターゲットの一般商品として一銘柄しか作っていないのは新聞だけだと思うんですよ。車などは世代やライフスタイルに応じて選べるようにひとつのメーカーからいくつもの種類が出ていますよね。ところが新聞の総合紙はこういうことをやってこなかった。これは全く新しい発想だったので、社のほうもおもしろいと思ってくれたようで、「seven」は朝日新聞社の社内ベンチャー制度の第1号プロジェクトとして採用されました。
 もっとも、「習慣付け」というためにもデイリーでの発行が理想でしたが、それでは朝日新聞をもうひとつ作るようなことになってしまうということで、「週刊」形式になったんです。
___「seven」は従来の販売店からの配達システムをとらず、カフェやビデオショップでの販売という方法をとっていますが、これはなぜですか?
 若者に新聞をとらない理由をリサーチすると「恐い販売員が勧誘にくるから」とか「早朝、夕方の配達はライフスタイルにあわない」という回答が多く寄せられます。結局どんなにサービスをしてもライフスタイルから外れてしまったものは彼らには受け入れられない。こういったことから新聞の内容だけでなく、販売チャンネルも、もっと若者のライフスタイルに合った、しかもお洒落な方法を、ということになりました。創刊準備号はビデオショップとカフェのみでの販売でしたが、創刊号からはさらに若者のニーズにこたえ、駅やコンビニでも販売する予定です。
 また価格も「ワンコイン=100円」。10円などの端数がでると面倒くさがられるし、かといって80円にしたら喜ばれるかというと、お釣りをもらうのがかったるいと敬遠される。コイン一枚を置いて、さっと買っていくのが格好いい、といった若者好みのスタイルを考えて、この価格に決めました。それに「自分のお金で買う初めての新聞」ということも意識していますね。100円だったら50週買い続けることができるんじゃないかと(笑)。
 また若い人は濃い色のスーツを着たときに新聞の紙の粉がスーツにつくことを嫌うようです。だから「seven」は新聞のようにぎざぎざが残る断ち方ではなく、化粧断ちを施しています。また手にインクがつかないように紙質にこだわり、オールカラーにしています。
 このように、徹底的に若者の立場に立って、「新聞」という媒体の入り口に、いかなるハードルも作らないよう、全てにこだわって作っているんですよ。また若者を対象とした徹底したリサーチを繰り返し、そこから得た明確なデータを反映した紙面作りを行っています。おかげさまで準備号は数時間で売り切れた店も出るほど好評でしたが、これはやはりこのように若者を主体に考えた新聞が今までなかったということの現れだと思います。またバックに新聞社という信頼できる情報ソースがあるということも大きいですね。若者は情報の正確さには敏感です。新聞社が出しているということは大きな安心感につながっているようですね。