久保佳実さん
日本電気株式会社
NEC基礎研究所
ナノテクノロジーTG研究部長
工学博士

1954年生まれ。1977年、東京大学工学部工業化学科卒業後、 日本電気株式会社に入社。中央研究所で電解コンデンサ用の金属材料や、 高温超電導材料、巨大磁気抵抗材料などさまざまな新材料の研究開発に携わる。 1996年、同社基礎研究所の物性応用研究部長に就任。 また2001年よりナノテクノロジーTG研究部長となり、カーボンナノチューブなどの実用化研究を手掛ける。





カーボンナノホーンの電子顕微鏡写真。





カーボンナノチューブの構造をCGで表したもの。
六角形のネットワーク構造による螺旋が二重のチューブ状になっているのがわかる。

ナノテクノロジーの可能性を具体化するカーボンナノチューブ

  「ナノメートル」とは、10億分の1m、1cmの1千万分の1という超微細なスケールのこと。 この実に細かいスケールの中で、なんらかの働きをする物質を見つけたり、作り出したり、 コントロールしようというのが、昨今話題になっている「ナノテクノロジー」である。
 むろん、上記の説明はごく簡単なものに過ぎないが、これにたとえば原子の大きさが大体0.1ナノメートル、DNAの幅が2ナノメートル、髪の毛の直径が10万ナノメールという説明を加えると、その可能性が広範囲にわたることは、なんとなく理解できると思う。要するに、人間の手で原子や分子をひとつずつ組み上げてなにかを作ったり、原子分子レベルのスケールでの研究が可能になるわけで、医学や科学の分野だけを考えても、その恩恵は量り知れないものがある。
 また、たとえばナノメートル単位のサイズのエレクトロニクス材料を作ることができれば、電子部品なども限りなく小型化できるわけだから、我々の生活に密着している情報通信(コンピュータや携帯電話などなど)の分野でも、今まで思いもよらなかった製品が誕生する可能性は大きい(実際、ナノテクノロジーは「21世紀の最先端技術」として先進諸国では大きな注目を集めており、日本でも「科学技術基本計画」において今後5年間で24兆円という予算が投じられることになっている)。
 ちなみに最先端技術の分野で最近話題になったものといえば、「超電導」が思い浮かぶ。超電導とは、簡単にいえば「電気抵抗がゼロである」「磁場を加えても磁束を侵入させないマイナス−効果が観測される」という現象のことだが、要するに電気抵抗ゼロということは「電気を流す際にエネルギーのロスがなく、永久に電気を流し続けることができる」ということになる。この超電導が今後の未来を担う技術として注目されたのは、1996年に高温超電導体が発見されたからで、それまでは超電導になる臨界温度は23K(-250℃)だったが、高温超電導体発見後は銅の酸化物を基本とした超電導体が次々発見され、現在では臨界温度が135K(-138℃)の物質も発見されている。
 つまり、より実用に近付いたから大きな注目を集めた、というわけだが、しかし科学界での超電導フィーバーは、物理の世界で誰も予測しなかったことが起こった、という側面が大きい。実際に超電導の実用を考えれば、温度操作の必要がない室温超電導体の実現が不可欠になるが、現在ではまだその段階までは至っていない。
 一方ナノテクノロジーの世界は、本稿で紹介する「カーボンナノチューブ」など、すでに「製品」としての実用化が近い段階にまで、技術は進んでいる。カーボンナノチューブとは、グラファイト(黒鉛)にレーザーを当て、何千度という熱を加えて蒸発させたのち、それが冷える段階でできる物質で、直径1〜2ナノメートルという大きさで円筒格子、螺旋状構造を持ったチューブ状のグラファイト結晶のことだが、レーザーの当て方などの条件によって直径などを変えることで、金属の性質を持ったり半導体の性質を持ったり絶縁体になったりなど、さまざまな特性を持つ。つまり簡単にいえばわずか直径1ナノメートルという大きさながらエレクトロニクス材料としてさまざまな可能性を持っている物質であるというわけだ。その意味で、ナノテクノロジーは現在最もホットな最先端技術であり、その象徴としてカーボンナノチューブに大きな注目が集められている。
 このカーボンナノチューブは、NECの研究開発グループで主席研究員を勤める飯島 澄男氏によって1991年に発見されたものだが、1985年に発見されたカーボン60(米ライス大学のリチャード・スモーリー教授らによって発見されたもので、超電導特性が見い出されている。スモーリー教授はこの発見により、1996年度のノーベル化学賞を受賞)と並び、新しいカーボンフラーレン(フラーレンとは、サッカーボールのような形態を持つ、ネットワーク構造の篭状巨大分子のことで、電気的、磁気的に興味深い性質を持つ)として世界的な注目を浴びた。その後研究は基礎段階から応用段階へと速いスピードで進み、現在ではこのカーボンナノチューブや、同じ性質を持ち形態が裾広がりの角(ホーン)状であるカーボンナノホーンを使った電子部品、エレクトロニクス製品も、燃料電池や電界放射式のフラットパネルディスプレイ、あるいはトランジスタなどが開発されつつある。つまり、まさに「製品誕生前夜」という段階に到達しているのだ。

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