人 間 と 藝 術 /

セレブリティも魅了される
ポンポニャック氏の魅力とは?


 一口に「DJ」といっても、実にさまざまなスタイルがある。日本語で「DJ」といった場合に馴染み深いラジオのディスクジョッキーは除いて、ディスコやクラブなどでレコードをプレイするDJに話を限ってみても、曲ごとのBPM(テンポ)をきっちり合わせて曲のつなぎに神経質なまでに気を使うDJもいれば、お客を踊らせるためにもっとミックスに手をかける―ドラムマシンやシンセサイザー、サンプラーなどの音をレコードの音源にミックスして派手なプレイするDJもいる(ノートマシンに仕込んだMP3音源を使うDJも、最近は多い)。あるいは逆に、特に小さいクラブなどでは、そうした点に無頓着でただただ自分が最近面白いと思う音楽だけをプレイし続けるDJだっていたりする(それはそれで、ツボにはまると面白いのだが)。
 上記はプレイスタイルのみの話だが、それだけ考えてももっといろんなスタイルがあるし、それに選ぶ曲の音楽ジャンルも含めて考えれば、それこそ十人十色だ。DJという仕事は、単純にいってしまえば2台のターンテーブルを使ってレコードを順々にかけ続けるという仕事だが、音楽に対する考え方や人々が踊り楽しむための「空間」に対する考え方に応じて、DJのスタイルはDJの数だけあると
いってもよい。
 さて、今回紹介するフランス人DJ、ステファン・ポンポニャック氏は、いわゆるクラブはもちろん、カンヌ映画祭のパーティ、GUCCIのパーティ(日本で行われた2001〜02秋冬コレクションのパーティ。上野の国立美術館でプレイした)、あるいはミック・ジャガーやウィル・スミス、キャメロン・ディアスなどなど有名人主催のパーティなどでも、引っ張りだこの人気DJだ(今回は東京・恵比寿のレストランバー「AOYUZU」にゲストDJとして招かれ、来日)。いわゆるセレブリティが集まるパーティでの仕事も多いわけだが、そうした仕事に起用されるポンポニャック氏の魅力はどういう点にあるのだろうか。まずはその魅力について、ご自分でどう考えているのかを尋ねてみた。

「その質問に自分で答えるのは、非常に難しいですが(笑)、敢えていえば、その場に応じて、集まる人々の求めるものに応じて、幅広いジャンルの音楽をプレイするということかな、とは思います。たとえばクラブでのプレイは、ビートを強調した完全に踊るための音楽をプレイしますし、そのためのミックスに凝ることもありますが、反対にその場所で他人との会話を楽しみたい、というパーティもあるわけです。そうした、場所に応じた選曲ができるという点、またあるいはその場にいる人たちのムードに合わせたプレイができるという点が、多分そういうセレブリティが集まるパーティに呼ばれる理由じゃないかな。僕自身は、いわゆるセレブリティより、どんな可愛い女の子がパーティに来ているのか、そのほうにいつも関心があるんですが(笑)」


DJとして一番大事にしているのは
音楽の“深さ”

 実際、ポンポニャック氏は、ハウスを中心としながら、ジャズ、サルサなどのラテンミュージックやブラジルのサンバ、アフリカンミュージックなど幅広いジャンルの音楽を用いて、その場の音による空間演出をしていくという。

「DJをやっていて、一番大事にしているのは、音楽の深さという点です。世界中にはいろんな音楽があって、それぞれいろんな魅力を持っている。クラブミュージックというと、ただただビートが強調されたリズムだけの音楽と思っている人もいるようですが、そうではない、音楽が持っている深さという部分も、クラブやパーティという空間で楽しんでほしい。いつもそう思って、プレイしています。だから、もちろん場の雰囲気によって選曲やかける順番は変えますが、基本的にはまず自分の好きな音楽を一曲ずつ大切にかけて、その曲に興味を持ってもらって、で、踊ること、つまり身体で音楽を感じることを楽しんでもらえるのが、DJをやっていて一番面白いですね」

なんでも取り入れる懐の広さが
ハウスという音楽の面白さ

 もっとも、ポンポニャック氏が一番好きなジャンルは、やはりハウスだという。その魅力について尋ねてみた。

「1986年頃にDJを始めたときは、フランスではそれまでのポップスに少しビートを加えたぐらいの音楽が、まあ今でいうクラブのような場所でも人気でした。でも、たとえばニューオーダーとかディペッシュ・モードなどニューウェーブと呼ばれる音楽や、あるいはベルギーやドイツの新しい音楽がだんだん入り始めて来て、機械を使って作る音楽の気持ちよさ、カッコよさに目覚めていったわけです。ちょうどその頃にシカゴで起こったのがハウスミュージックで、まだ当時はいろんなダンスミュージックの中のひとつ、というくらいの認識だったんですが、ずっと聴いていくうちに、さまざまなダンスミュージックを取り込んで発展させていく懐の広さのようなものが、ハウスミュージックにはあるのではないかと気が付いた。  たとえばアシッドハウスとか、ニュービートとか、ラテンハウスとか、ハードハウスとか、ハウスミュージックも誕生から10年以上経って、いろんなジャンルに細分化してきたわけですが、それはその時々の気分によっていろんな音楽が取り入れられていった結果だし、その全部のフュージョンとして、今のハウスがある。その辺が一番、ハウスという音楽の面白さだと思いますね」


クラブミュージック=ビートだけ
というイメージを払拭したい

 ポンポニャック氏の数ある仕事の中でも、パリのデザインホテル、HOTEL COSTESでのプレイは世界的に有名だ。ちなみにパリでは、クラブやディスコだけでなく、レストランやホテルといった場所にDJが招かれ、大人がゆっくり音楽を楽しむということも多いというが、HOTEL COSTESはいわばその元祖ともいえる存在。そのHOTEL COSTESでのプレイを再現したリミックスCDも、すでに第4弾までリリースされている。

「HOTEL COSTESでの仕事も、どちらかというとハウスミュージックオンリーというよりは、いろんな音楽のミクスチャーという感じですね。特に最初にリリースしたCDでは、さっきも話したようなクラブミュージック=ブンブンブンブンというビートだけ、というイメージを払拭したかったし、もっと深い音楽だということを知ってほしかったので、今回出した4枚めより敢えてもっとラウンジ系というか、ダンスミュージックに興味のない人にも楽しんでもらいたい、という観点で作りましたね。
 で、2枚め、3枚めと続けてきて、僕のミックスに興味を持ってくれる人もかなり増えてきたので、今回の4枚めではラウンジやジャズにハウスやブレイクビーツをミックスして、さらにところどころにいろんな民族音楽も入れてみるという、自分らしい作品を作ることができたと思います。自分が一番好きで、いろんな人に楽しんでほしいと思う曲をプレイすることができましたし。
 ちなみにミックスの仕事には、Macを使うこともありますよ。周りの友人にはPCを使って音楽を作る人も多いですが、僕はずっと、Macオンリー(笑)」

 ちなみに、ポンポニャック氏の来日は、昨年のGUCCIのパーティに続いて2度めとのこと。いずれも仕事の期間だけ、3〜4日の滞在という忙しいスケジュールだ。

「ロンドンにいる友達からは、よく日本のクラブの話を聞いています。興味はあるんですが、時間がなくていろいろ見て回れないのが残念ですね。日本のDJやアーティストでは、富家哲さんやテイ・トウワさんは世界的にも有名なのでよく知っていますが、他の人や日本のクラブについても、もっと知りたい。
 あと、僕が音楽を聴き始めた頃に出て来たニューウェーブ以降、機械を使った音楽の面白さに目覚めたのはさっきもいった通りですが、そういう機材が日本で発達したということも、よく知っています(笑)。なので、また時間を見つけて、今度はゆっくり来てみたいですね」

 仕事で音楽に携わっているだけに、「家で聴くのも自分のミックスのチェックとか、あとはクルマの中でRADIO FGやRADIO NOVAなどのラジオ局の番組を聴くくらい。家でゆっくり音楽を聴く時間も、なかなかありません」というほどに多忙なポンポニャック氏だが、またの来日と、そして次は東京だけでなくいろんな土地のいろんなクラブ、パーティで、日本のダンスミュージック好きを楽しませてくれることを期待したい。

text by : 渋谷 並樹

 

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