思い出を3Dで
手に入れること


 もっともクリス・ウェアは読者が組み立ててくれるかどうかなんて意に介していない。むしろ鬱屈しがちな漫画描き仕事の中の個人的なお楽しみというところ。彼はあるインタビューに答えてこう語っている。

「これは楽しみの保険なんだ、ひとりぼっちの作業の中に自分の好きなことを入れてる。いつも思うんだけど、ペーパークラフトってなんていうかすごくデリケートでイノセントなところがあるね」

 ペーパークラフトは、はかない。一所懸命組み立てたって、なんになるってわけでもないし、一撃でぐしゃりと破壊される。存在自体がイノセントな子どもは、何も考えず切り刻み、立てては壊す。大人にとっては、失ってしまった“無垢な純粋さ”を取り戻すための行為になる――ただしいきなり鋏を入れたりしない。必ず同じものを2つ買って、ひとつは組み立て用にひとつは保存用に(嗚呼、コレクターの習性!)。
 そんな大人のペパクラマニアは、当然ネットを最大限に活用している。ペーパークラフト専門の検索サイトを渉猟すれば、建築、飛行機、動物etc...あらゆる種類のクラフトがPDFファイルでダウンロードできちゃう。そして一口にペーパークラフトといっても、さまざまな深〜い世界が拡がっていることに気づかせられる。
 まず建築模型から発展したような正確な縮尺をもったクラフトは“モデル”と呼ばれ、縮尺の定かでないものとは区別される。後者は“おこし絵、切抜絵、組上絵”などと呼ばれ、日本では浮世絵の“おもちゃ絵”として江戸期から盛んだったとか。昔の少女雑誌についてきた「お雛様の段飾り」などはこの系譜だ。現在、海外の観光地でよく見られる名所の建物をペーパークラフトとしてあしらった絵ハガキのように、昔の日本では風景や街並みのおこし絵が土産物として人気だったという。これ、すなわち「風景を持ち帰りたい」という欲求に応えるもの。写真なら真に迫っているけれど、やっぱり“立体の思い出”を持ち帰りたいんだ。
 関東大震災以降、少年雑誌に建築物のペーパークラフトが付録として盛んにつけられるようになったことも、この心理と関連するかもしれない。失われた光景を紙で再現すること、あるいは新しい町づくりに鋏と糊で参加すること。きくところによると、世界貿易センターこみの広大なマンハッタンの景観をペーパークラフトで再現した名人がアメリカにはいるとか。
 晴れた休日の午後を工作に費やすもよし、決して鋏を入れない台紙を眺めながら夢の風景に遊ぶもまたよし……ってところかな?

text by 北村祐子

 
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●ネットでペパクラ!
www.j-park.net/papercraft/bookmark/list.jsp 
ペパクラ関連サイトは数々あれど「ペーパークラフトDATABASE」は大充実。ポピュラーな乗り物系、建築系に加えて家具家電やロボットなど分野別にリストアップされます。

www.mmjp.or.jp/tokokai/
ここを見たら、もう「ペパクラは作れない」なんて言ってられない。灯台に関する総合サイト「燈光会」の中にある灯台ペーパークラフトのページ。作り方が使用すべき紙や文具を含め、写真つきで実に丁寧に解説されている。チャレンジしたくなることうけあい!
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