マックフリークファイル/no055

「機能だけのマシンじゃない。友達なんです。
Mac好きならきっとわかる」

真田 勇さん /Isamu Sanada

 

 

一度は断念したはずの道。将来の夢を託した愛する絵画の世界…しかし「愛する」だけでは、日々の糧は得られなかった。現実の世界の中で生きていく為に絵筆を捨てた青春の苦い記憶…ところがそれから20年を経て、真田 勇さんは今、新しい絵筆を手に入れている。それはまったくの偶然だった。雑貨店のDM作りや帳簿整理のために買った、1台のMac。それが、写真を取り込んで加工する「肖像画」のためのツールとなり、さらには、眠っていたデザイナーとしての才能を世界に向けて発信することになった。

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真田 勇さんが、自身の作品を発表しているホームページ「Applele新種林檎研究所」には、今まで誰も見たこともないMacが、たくさん出展されている。そそっかしい人は「これはAppleのデザイン工房か何かのホームページだ」と、思いこむだろう。そして、このホームページで発表されたMac製品が店頭に並ぶ日を待ちわびることだろう。
 しかし、いくら待っても、それらが発売されることはない。このホームページに陳列されている美しいMac製品はすべて、真田さんの完全なるオリジナルデザインであり、まったくの想像の産物なのだから。
 もっとも真田さん自身は、何も始めからMac製品のオリジナルデザインをこんなにも次々と発表する気は無かった。「新種林檎」に至るには、いくつもの偶然が積み重なっていたのだ。

「92年に、豊田(愛知県)の駅前に雑貨店を出したんですが、近所に画材屋さんがあったんですよ。ある日、ショーウインドウを覗いたら『写真から赤ちゃんの肖像画作ります』って看板が出てた。家にも小さい子供がいたので、誕生日のプレゼントなんかに良いな、喜ばれるだろうなと思った。でも値段を見たら、ハガキ大で1万8千円もする。もっと手軽な価格でできないもんかな、と」
 当時、店のDM作りや帳簿の整理に使うため、AppleのLCを購入したばかりだった。Macを買うにあたって、その時点で特別なこだわりがあったわけではない。強いて言えば、林檎のロゴになぜか惹かれた、その程度。

「写真を取り込んで背景処理して、プリントアウトした上から手描きで加工して。かなりコストダウンできるな、と。でも当時はカラーのプリンタが高くてね。A4の白黒プリンタで出力したものに色付けしてました」
 結婚式などの贈り物として、この「肖像画」は大好評を博した。
 思いがけず画才を発揮することとなった真田さんは、次第にMacユーザとしてもレベルアップし、やがて自作のイラストやデジカメの写真などを発表する最初のホームページ「嗜好錯誤」(試行錯誤にあらず)を立ち上げる。98年のことだ。

「iBook(初代)が出る少し前に、Appleからノートパソコンの新型が出るらしいという噂が広がったでしょ。そこで、こんな感じかな、と『hi-Mac』っていう自分なりのMacのデザインを作ってホームページに載せたんですよ。そしたらMac仲間がそれを見て喜んで、あちこちに広めてくれた」
 反響があると面白くなって、Macのデザインばかり次々に作ってしまった。勢い余って、ホームぺージの名前も変えた。
「Applele新種林檎研究所」の誕生だ。
 ご自身はまったくの趣味、遊びのつもりだったのだが、そのデザインの美しさに、国内のみならず、海外からも注目を浴びるようになる。
 海外メディアに紹介された直後には、アクセス数が1日で1万を超えることもあった。
 そして2002年1月、HPのゲストブックに信じられない名前を発見する。

「Steven Jobs の名前での書き込みに、これは本人?いやそんなバカな、確かジョブズ氏はスティーブのはずだし、誰かのいたずらだろうと放っておいたんです。その2〜3日後たまたま読んでいたApple関係の本に、ジョブズ氏の正式名がスティーブン・ポ−ル・ジョブズとあったのでこれはもしや?とゲストブックに入っていたメールアドレスをクリックしてみたら“apple.com”だったんで、うわ、こりゃ本物だ、と」
 内容は、真田さん曰く、いかにもジョブズらしい口調で『英語のページも作ってくれ。書いてある事がわからんじゃないか』と、あったという。

「いや、そんなニュアンスだったんじゃないかと思うんですよ。なにしろ英語は苦手で…」
 実は、最近はとうとう海外のメーカーからデザインのオファーが入るようになったのだが、真田さんは「英語はよくわからないんで、外国とのやりとりはどうも…」と、二の足を踏んでいるのだ。なんともったいない!

「一度は捨てた絵の世界だけど、Macがもう一度命を吹き込んでくれた。Macだからこそ、今の世界が開けたと思うんです。作業中にフリーズすると、思わず『どうした?』と声をかけてしまう。Macは道具だけど、でも冷たい機械じゃなくて、どこか人間臭い。そこがたまらなく好きなんです」
「Macと言う友達に出逢わなかったら、こんなワクワクするような人生はなかったと思うんです」
 
 海外からの熱い視線にも「いやいや、やっぱりAppleのデザインは素晴らしいですよ」と謙遜してしまう真田さんであった。しかし返す返す、もったいないなあ……。

text by : 石上 耕平

Applele新種林檎研究所
http://www.applele.com/
海外からも注目を集めるApplele新種林檎研究所ホームページ
マリーロ−ザコレクション
http://www.na.rim.or.jp/~mrc/
愛知県岡崎市欠町清水田44-7コルメス 1F
日曜日定休 営業時間10:00〜19:00
TEL:0564-26-2727
肖像画・ウエルカムボード、イラストレーション、グラフィックデザインを手がける
真田さんのアトリエ兼ショールーム。注文はホームページでも受けている。