MAC FREAK FILE NO 56.

画面一杯に緋鯉が舞い、金魚が踊っている。その向こうには、竹林を渡る風の気配さえする。金田基志さんがMacを駆使して描くグラフィックアートは、ちょっと昔懐かしい和風な趣で、「デジタルコンテンツグランプリ東北2001」ではCG・静止画部門で部門賞を受賞し、「Artdex Design Contest 2001」では事務局賞(白根ゆたんぽ賞)を受賞するなど、次々に高い評価を得ている。かつてはプロのダンサーであった金田さんが、いつのころからMacを使いデジタルアートの世界で注目を集めるようになったのか。多才にして多彩な、その物語を伺った。


金田 基志さん
/Motoshi Kanada
グラフィックデザイナー/イラストレーター
昭和44年、東京・中野出身。プロのダンサーだったが病気のため断念。職業訓練校を経てDTPオペレータ、グラフィックデザイナーへと、 異色の転身を遂げた。昨年からオリジナル作品を発表し、「デジタルコンテンツグランプリ東北2001」でCG・静止画部門で部門賞、 「Artdex Design Contest 2001」では事務局賞(白根ゆたんぽ賞)を受賞するなど精力的に活動している

 

金田基志さんのデザイナー歴は、かなり異色だ。これまでこのページで紹介してきたアーティスト、デザイナーの方々は、まず作品を作るためのツールとしてMacを手に入れているのだが、金田さんはその順番が逆なのである。
「大学を出てから、ダンサーとして仕事をしてたんですが、ヘルニアが悪化して踊れなくなってしまったんです。とにかく何か別の仕事を見つけなきゃ、と思って、東京都の職業訓練校でフィニッシュアートを専攻しました。もう25歳過ぎて、転職するには遅いかも知れないけど、版下製作から覚えて、チラシなんかを作って暮らしていければいいかな、と」

_Macと出逢ったのは、その頃ですか
「以前から、大学のサークルのパンフレットを作ったりはしていましたけど、その程度だったんです。ところが職業訓練校の先生が、これからはMacだ。今から始めて損はないぞ、と言うので、そうかなあ、そうかもな、とPowerMac6200を買ったんです。それからぼちぼち独学で勉強してました。卒業してから、その先生の紹介で日経関連のデザインの仕事を紹介してもらったんですが、ちょうど紙に手書きで行うレイアウトからDTPへの移行期で、もうMacを持ってるっていうだけで、デジタル入力の専門家みたいな事になってしまって、編集の統括会議には出席するは、ベテランのレイアウターにMacのことを教えるわで、胃に穴が開くかと思いましたよ。こっちもまだ発展途上なので、前の晩に本を読んで勉強して、覚えたてのことを次の日、人に教えたり。そんなことばっかりやってました」

嵐のような日々の中で、否応なしに現場で叩き込まれたMac(DTP)のノウハウ。それからスキルアップしながら、どうやら自分を取り戻したのは、やっと昨年のことだそうだ。
「もうずっとオーバーワークだったんで、ちょっと充電のつもりで、またもや東京都の職業訓練校で(笑)Webマーケティングを勉強し直したんです。それまでHTMLもよくわからなくて自分のホームページも放ったらかしだったんで、一応カタチになったのは去年の秋くらいですかね」

_するとご自分の作品を作って発表するようになったのは、つい最近のことなんですね?
「イラストは好きで、昔から描いてましたけどね。でもMacでデジタルアートとして発表し始めたのは、去年の秋からですね。それからいろんな賞を連続していただいて」

金田さんの作品の最も顕著な特徴は、冒頭にも触れた和風な世界。緋鯉や金魚、あるいは江戸手ぬぐいなどと言った、柔らかく伝統的な素材が、Illustratorで作られた硬質な画面に見事に融合している。数々のコンペで金田作品が高い評価を得ているのも、この独自性が寄与しているからであろう。しかし金田さんは「日本画」を目指しているのではないと言う。
「自分の中にあるものしか描けないじゃないですか。僕の場合は、大好きな日本庭園の雰囲気、空気とか肌触りとか、そういうものに自然になってしまうんですよ」

単に運がいいというのでもなく、先見の明があった、と言うのとも違う。金田さんのこの10年ほどの足跡を一言で表現するなら、まさに「自然だった」ということだろうか。そして今また「自然に」次なる仕事が金田さんを待ち受けているらしい。
「ロイヤリティフリーのCDを出さないかというお話をいただいて、そちらを進めているところです。今後は、作品活動主体に移行したいんですが、ま、自分で決めることではないですから」

多才なグラフィックデザイナー金田基志さんは、最後までさらさらと自然体であった。

text by:石上 耕平

【ホームページ紹介】

TOKYO DIGITALIAN'S ART
http://www.big.or.jp/~motoshi/

凧や江戸手ぬぐいを彷彿とさせる、色鮮やかで軽やかな金田さんのデザイン作品が多数掲載されている。サイト自体の作りも美しく見やすいのは、Webマーケティングを学んだ金田さんならでは。