「人々は、「同化」というプレッシャーに様々な方法で対処します。すばらしい想像力をもった子供達や、聞いた事のないすごい事を考えつく子供達にとって、すばらしくファンタジーに満ちあふれた生活はとても普通なことなのです。」

----Macユーザというのは、「Think Different」のコピーに代表されるように、何か新しい事、流れと違う事、固定観念を壊す事を好きな人が多いようです。多分マークさんの周りにもそういう人達が沢山いると思います。例えば、天才的な人というのは、得てしてバランスの危ういところがあったり、社会的に見ると難しい人だったりすることがあると思うのですが、マークさんは才能溢れる若い人をどうやって育てようと思っていますか?

 まず最初に、私は、個人はそれぞれ違っていると思っています。人々は、「同化」というプレッシャーに様々な方法で対処します。すばらしい想像力をもった子供達や、聞いた事のないすごい事を考えつく子供達にとって、すばらしくファンタジーに満ちあふれた生活はとても普通なことなのです。クリエイティヴであることが自然と言ってもいいでしょう。しかし、人々が年をとるにつれ、社会に「はまる」事を要求されるようになり、この創造的な要素は小さくなっていきます。もちろん、社会にはまる事はなにもおかしいことではないし、悪い事ではありません。私だって別に狂っているわけではありません(笑)。ただ私のような事をする人、私のような仕事を持っている人があまりいないだけです。ダンサ−の場合も同じです。善かれ悪しかれそれぞれのダンサーは他と違います。私のグループにいるダンサー達は皆とてもうまいですし、そして、それぞれ違います。私は、皆が同じに見える集団には興味ありません。しかし私達は音楽を理解し、一緒に仕事をするという集合的な立場のアプローチをとるので、全員がぴったり息が合って一体となることもできます。それは、それぞれのメンバーが違う方法でそこに達するということです。  大きなバレエ団のような所で「白鳥の湖」を演じる時、32人の女性は、ほとんど背丈も同じで、多くの場合同じ人種です。しかも、ほとんど同じ年令。これでは見分けが付かないですよね。こういうケースにおいては、同じ様に見えることが大切なのかもしれませんけれど、私は、まったく同じ複製のような物に興味はありません。それぞれ違った個性を持ちながら、一緒に演奏することも可能だと考えるからです。グループとして作り上げるなら、タイトに小さくまとまるのではなく、大きくなっていかないといけない。それは、社会のモデルにもあてはまると思います。みんなが喧嘩しているというわけではなく、ものごとをより良く大きくしていく、大きな視点にしていくということが可能なのです。

----マークさんは、ご自身の会社を創設し、長い間経営されているそうですね。きっとメンバーも個性的な方ばかりだと思うのですが、クリエイティヴでありながら、調和的に仕事をしていく組織をマネージメントするのは、非常に難しいことだと思います。どのような点に注意されているのでしょうか?

 私は、1980年から会社をもっています。もともと友達の集まりから始まって、最初はあまり仕事もありませんでした。現在は、ダンサーが18人とフルタイムのスタッフが11人。だから、ありがたいことにぼくが支払いをしたり、エアコンを直したりすることをしなくてもいいようになっています(笑)。私は、振り付けとパフォーマンス、そしてダンサ−達が集中して興味を持ちながらアクティブであり続けるようにするという仕事に特化することができます。スタッフにはそれぞれ得意分野があって、今は大きな組織になっています。たとえば、テクニカルディレクター、ステージマネージャー、舞台照明。ニューヨークには学校があり、それを運営してくれる人もいます。彼らが自分のやることをきちんとやってくれるので、私は少しリラックスできるんです。だからと言って、ダンスを作り上げることが簡単になったわけではないですけれど。会社の建物があるから、長年やってるから簡単になるということはなく、やはり、常によりよい組織を作り上げていかなくてはね。

----マークさんの活動を拝見すると、ロシアバレエ団を主催していたディアギレフ(※1)を思い起こします。彼はニジンスキーを見出した人として有名ですが、その他にもコクトー、サティ、ピカソなど、その時代の超一流の芸術家と一緒に舞台を作った人でした。ご自分と彼との類似点などを感じることはありますか。

 ディアギレフは具体的には(特にオペラ、バレエ、音楽会などの)興行主でした。彼自信はクリエイターではなく、人間を集めることにすばらしい才能を持った人でした。かれは相応しい人を同じ部屋に入れた。「あなたとあなた一緒に仕事しなさい」「はい、わかりましたディアギレフさん」といった感じで…。そして彼らは、何かびっくりするくらいのすばらしいものを作り上げていった。私は違う感じのボスだと思います。私は振り付け師、演出家です。彼のやったようなこともできるとは思いますが、できないとも思います。

----天才というのは、一種の狂気のような次元に入って行く時があるのだと思います。クリエイティヴでありながらも調和的な組織をマネージメントするというのは、それとはまた別の才能だと認識しているのですが、マークさんは両方お持ちになっているのかもしれません。

 私は、退屈がきらいです。全てのものが問題なく、見た目にも整っているとしたら、それは私にとっては、満足に程遠いものです。情熱や魂、個人的なリスクの要素が無いなら、ペンキが乾くのを見てる方がいいでしょう(笑)。

----初日の開演直前というお忙しい中、ありがとうございました。今回の公演の成功をお祈りしてます。

私自身も公演がうまくいくことを祈ってます。 実は、これから銭湯に行くんです(笑)。毎日行っているんですよ。

MMDG WEBSITE

Mark Morris Dance Group Website
http://www.mmdg.org/



【注釈】
※1 セルゲイ・ディアギレフ(1872−1929) ロシア・バレエ団(=バレエ・リュス)を主催した芸術プロデューサー。ロシア貴族の家に生まれ、若き天才ニジンスキーを見出しパリに乗り込んだ。常識を覆す斬新な演出により熱狂的な拍手で迎えられた彼は、その後世界中にバレエブームを引き起こす。「バレエは音楽、美術、衣装がすべて結び付いた総合芸術だ」と語り、友人のアーティストたちにバレエ・リュスへの参加を呼びかけた。ストラヴィンスキー、ドビュッシー、ラヴェル、サティらが音楽、コクトー、シャネル、ピカソ、ミロ、マティスらが衣装・美術に参加し、数々の傑作を生んだ。まさに「天才を発見する天才」であり「天才を動かすことのできる天才」だった。

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