M.F.F - Mac Freak File

マックフリークファイル
FILE 61
鈴木孝彦さん


Takahiko Suzuki. MR
designed the PowerMate, Protech co.ltd

1966年、長野県諏訪郡下諏訪町出身。
プロテックデザイン代表。N.Y.で家具やアクセサリー等のデザイナーとして活躍し、6年前より拠点を諏訪に移す。PowerMateの大ヒットにより、今や全世界が注目する存在となった。
少年のような表情が印象的な、気鋭のプロダクト・デザイナー。



ある小さなツールが世界中のMacユーザの視線を集めている。「PowerMate」。アルミの地肌が美しい、直径4cmほどの「コントローラー」だ。これは、Macのボリュームダイヤルとなり、起動スイッチになり、映像編集などにも活用できる。しかし、米国グリフィン社からリリースされているこの「PowerMate」が、実は日本のデザイナーによって企画・開発されたことは、意外に知られていない。

鈴木さんは、以前はN.Y.を起点に家具やアクセサリーをデザインされていたそうですが、Macはその頃から使われていたんですか?

鈴木さん:(以下S)「いや、Macは最近になって使い始めたんです。ちょうどiMacが出た頃から。それまで、コンピュータは全然使っていなかった(笑)。高校を出てアメリカに行き、大学では航空力学を専攻してたんですが、学校での勉強よりも実際にいろんな工場や店をまわって、製造の基礎を学んでいたんです。L.A.やN.Y.では、テーブルや、ミラー、ショップやサロンで使う為のシェルフなどを作って販売していました。95年頃、N.Y.はクラブカルチャーの全盛期だったんですが、僕もテクノが大好きで友だちと朝まで踊ってて。ちょうどそんな時、クラブで踊ってる子たちのためにカプセル型のアクセサリーを作ったんですが、なかなか評判が良かったので、アクセサリーのデザインを始めました。」

Macに無縁だったデザイナーが、どうしてMacのためのデバイスを作ることになったんですか?

S:「6年前に、妹の結婚式に出席するために久しぶりに日本に帰ってきたんですが、その頃、妻と知り合って「DILATOR」というアクセサリーのブランドを立ち上げることになり、故郷の諏訪にオフィスを構えることになったんです。妻は前からMacを使っていて、そこで初めてインターネットラジオというものがあることを知ったんです。仕事場は諏訪でも、音楽を聴いていればN.Y.にいるような気持ちになれる。世界中の音楽がいつでも聴ける。だから仕事場ではずっとインターネットラジオを聴いてたんですが、ちょっと音を大きくしたいとか、別のチャンネルに変えたいとか、そう言う時にいちいちマウスを操作しなければならないというのが、どうも不便で(笑)。その時に思ったのが、コンピュータの手元に普通のボリュームコントローラがあればいいだけなのに、なぜ付いてないんだろう?クリックするよりグルグル回す方が便利じゃないのか? そう言う疑問が、PowerMate制作のきっかけになりました。」

なるほど。Mac初心者だからこそ、逆に盲点に気がついたというわけですね。グリフィン社には、どういういきさつでアプローチしたのですか?

S:「幸運にも紹介してくれる人がいて、S.F.のアップル本社に試作品を持ちこんで、見てもらったんです。そしたらアップル側でもすごく興味を持ってくれて、すぐにいくつかパートナーになりそうな会社を紹介してくれたんです。その中で、一番熱心だったのがグリフィン社だったんです。グリフィンの社長は元ミュージシャンだから、話も早くて。彼らは自社製品の展示会の時にMacで音楽を流しているんだけど、やっぱり同じように不便だったらしいんですね(笑)。」

鈴木さんがデザインする上でこだわっていることはなんでしょうか。

S:「世界に通用するシンプルなデザインにという事と、金属の加工にはこだわっています。アメリカにいた頃からずっと、金属加工のエキスパートになろうと思ってたから。使う材料として、実はシルバーってあんまり好きじゃないです。柔らかいし。色も変わるから。チタンとかアルミ、ステンレス、素材の良さをそのまま表現できる材料がいい。PowerMateを発表したタイミングが、偶然にもチタンのパワーブックが出た時と重なったのはラッキーだったと思いました。Macもプラスチックから金属のモデルに...。とても印象的だった。ボクも絶対金属の方がいいと思ってたし。それと、ボクは基本スケッチは描くんですが、その後はすぐ加工に入るんです。CADマンと一緒にデータを起こす場合もあります。周りに協力してくれる人たちや、工場もあるので、環境には恵まれてると思う。今後はやっぱり機能的にも工法的にも新しい製品、みんなをドキッとさせるデザインにチャレンジをしていきたいですね。」

最後に、日本の若いクリエイターに何かメッセージをいただけますか。

S:「日本の中で、何をしたらいいのかわからないで壁にぶつかってるヤツがいっぱいいると思うんだけど、世界を意識して、もっと海外へ出ていって欲しい。可能性は、いくらでもあると思う。何かデザインや製造方法で悩んでいる人がいたら、連絡ください。PowerMateを買ってくれた人からのフィードバックも待ってます。」

ありがとうございました。



■鈴木孝彦氏
プロテックデザイン
E-mail : dilator@po2.lcv.ne.jp


■PowerMate
グリフィン・テクノロジー社
http://www.griffintechnology.com/