Pick Up! 関 心 空 間 Kanshin Kukan

自分の興味と他人の興味がどこでどう重なるのか。
それを楽しもうということですね。

私たちは何らかの方法で、他人との「つながり」を求めている。自分の意見に耳を傾けて欲しいと願うし、共通の関心事を持つ人に出会いたいとも思う。知らなかった誰かと意外な「つながり」が見えた時、なにかしら嬉しくなる。特定のキーワードによって、人と人とをつなぐネットコミュニティ「関心空間」は、「つながり」の機会を提供してくれる場。自分の書き込みと他のメンバーの書き込みを関連づけできるリンク機能によって、人とモノと場所の「つながり」が始まり、思いも寄らない情報の連鎖が展開する。「関心空間」考案者の「ユニークアイディ」代表の前田邦宏さんと、開発を担当した「シエスタウェア」のバスケさんに「関心空間」が提案する現代人のコミュニケーションについて尋ねた。


「関心空間」って何?

ユーザーが自分の興味のある物事をキーワードとして登録し、それに関連のある他のキーワードをつなげて(リンク)いったり、感想を書き込んだりできる情報コミュニティーサービス。自分がいま興味を持っているモノをキーワードとして入力していくことで、その周辺情報を入手し、同時に他の新たな関心事を発掘できるサイトである。2002年2月サービス開始。2002年10月(財)日本産業デザイン振興会より「グッドデザイン賞新領域デザイン部門」を受賞。

http://www.kanshin.com


________私たちは何らかの方法で、他人との「つながり」を求めている。________


■「関心空間」の素は何か


1.トップページ
トップページには「最新キーワード20」が表示されている。刻刻と更新されていくので、文字通り最新のキーワードがアップされている。

__まず、最初に「関心空間」の素になるアイディアがどこから生まれてきたのかをお話しください。

前田 プログラムにしようという発想は、僕からバスケ君に「『笑っていいとも』の『テレフォンショッキング』をインターネットでやりたい」といった内容のことを、1994年に話したのが最初です。僕らはものをつくるクリエイターだから、クリエイターということに縛りを置いて『テレフォンショッキング』をしよう、と。ただし、『笑っていいとも』と違うのは、紹介された人も司会のタモリさんの権限を持てるという連鎖性を表現したいと思ったんです。自分の知り合いのもうひとつ先、自分の知識のもうひとつ隣の新しい知識と自分が出会う空間があればおもしろいと考えたわけです。それはインターネットが持つ、最先端の情報を気軽に入手できるフラットな世界の実現や、誰もがインターネットを通して情報を共有することを目指す思想と重なっているから、いけるのでないか、と。実際にやることよって、「あ、これはこうした方が良いな」というような試行錯誤を繰り返し、作品を作り、結果的に「関心空間」につながっていった。



2.キーワード一覧
「キーワード」を検索することで、意外な「つながり」が見えてくる。また、キーワードだけでなく、キーワードのリンク先や感想を書き込んだキーワードの更新情報をログインする度に知らせてくれる「お知らせ小窓」や自分の趣味嗜好に合ったキーワードや空間をブックマークできる機能などがついている。

__コミュニケーションを構築する際に、どういった利用者に「つながり」を提供したいとお考えになったわけですか?

前田 世の中には人と人をつなぐ媒介になる人間がいろんなところにいて、自分も媒介になることが好きでした。自分も含めて異業種の人同士の仲介をする人を見ていて、そういったことを支援してあげたいと思ったのです。自分も好奇心が強いので、自分が属している枠から違うところへ行きたいと思うわけですね。あるいは特定の集団に属せない人間でもある。どういった人に提供したいと考えたのかと言えば、そういった人でも気軽に参加できるコミュニティを思い浮かべました。決して「関心空間」は属せない人を支援したいという思想ではないのですが、根っこにはそういった発想があったんです。同時に、自分のものでないもので自分を紹介することは、けっこう楽なのでは、という発想もありました。 僕は世の中にこんなにも多くの情報があるけれど、突き詰めれば二つしかないと思っているんです。ひとつは自分の体験だけで理解できる情報と、もうひとは自分の体験と知識だけでは理解できない情報です。固有名詞やニュースで報道されている事実などは誰でもわかる情報ですが、唯一無二の固有の体験は他人からは理解されにくいものです。でも、思いとか自分の体験に根ざした情報は人の数しかないので、実は有限で、濃密で、捨てがたいものなのです。その情報を集める場を作るのがコミュニティの使命。そういう意味では、僕らが制限を与えた「キーワードを作らせる」というのは、クリエイターでなくても体験したことはあるわけで、食べた物にしても昨日・一昨日に体験したことはその人しか体験していないわけです。堂々と「僕しか体験していないこと」として書けばいいじゃないか、と。しかし、他の人との接点がなければおもしろくないので、「他人が共有できる場所か物か、他人に勧めても伝わる固有名詞をベースにキーワードを立ててください」という縛りを作ったんです。



3.パーソナリティ一覧
ひとり一人がいろんなことに興味を持っていることがわかる「パーソナリティ一覧」。その人の興味が並べてあるだけで、ふと人格が見えるようなインターフェイスとなっている。

__どういう人が「関心空間」に関心を寄せて集まるのかと考えると、とてもポテンシャルの高い人なのではないのかと思います。

前田 何十万人と集まるオンラインコミュニティーから見れば、8000人という登録者数は少ないわけですが、意識の高い人が「関心空間」に参加してくれている。オンラインの世界になじんでいる前向きな人、情報を発信することが楽しい人が「関心空間」に多く集まっているのだとすると、数ではなく質的に素晴らしいことだと思っています。僕たちはなるべく緊張しない程度の知的な雑談、自分と興味のレベルが合って、話してみて「あ、通じる」「あっ、だったらこれもわかる?」というコミュニケーションを楽しみたいので、質感について最初は高くてもいいなと思っていました。どうせ崩れていくんだろうし、という発想だったんですね。登録者数が8000人になった今でも、他の人が「関心空間」を見た瞬間に知的な印象があるというのは稀有なことだと思っています。




株式会社ユニークアイディ代表
前田邦宏さん
1967年宝塚生まれ。ウェブサイトの企画制作を行う(株)ユニークアイディ代表。クリエイターの相互評価を視覚化した「Small World Connection」や手話によるCG映像作品「視えるラブソング」など“見えないつながりを視覚化すること”が一貫したテーマ。横浜美術短期大学非常勤講師。コミュニティ・システム「関心空間」にて、2002年度グッドデザイン賞新領域部門入賞。

■「関心空間」の機能、
 ルールづくりと自分発見

__開発は「関心空間」の秩序やルールづくりとも深くかかわっていますよね?

バスケ 当初、サイトポリシーとしては、ルールを作らずに運営していこうと話し合っていたんです。

前田 大きなルールに関してはみんなで話をして、とくかく意見が分散した。匿名にするといった意見も最初はあったし、匿名にしないにしても「どこまで個人情報を登録するのか?」、「メールアドレスはそもそも個人情報なのか?」、メールアドレスでも「無料のメールアドレスは登録するのか?」とかいった、いちばん根っこのところは判断に迷いました。最終的にはこうしようというところで実施したが、偶然なのか、バランス的には選択したものがそれはそれで良かったのかと思っています。「関心空間」というブランドに付帯するイメージを作るためにはこれ以上堅くても柔らかくてもダメだったなと思っています。

バスケ ユーザーにとって「こういった機能をつけると無条件で便利になる」といった機能は意外につけていないんですね。たとえば「複数のキーワードに対してリンクを一括してつけたい」という要望が何度もあがっているんですが、絶対つけないんですよ。というのはそれなりの労力を払って「つながる」ということをしてもらいたいから。多少の不便利さがあった方が到達した時の充実感が増すと考えました。そして「関心空間」の中ではコミュニケーションするならそれなりのリスクを負って参加してくださいと定めました。リスクを負うとは、登録することもひとつだし、もうひとつはひとつのキーワードに感想を残したらその感想が残っている限りは「お知らせ小窓」にその経過が流れてくる、だからにはそのあとの責任は負ってください、と。そしてキーワードの所有者が権限を持っているので、「これは流れが良くないので消そう」という判断も所有者がするわけです。発表するためには多少の覚悟を要求している、というつくりにしてあります。




4.つながり一覧
ユーザが任意に設定した「つながり」別に情報を検索できる。たとえばキーワード同士をリンクする際には「○○つながり」という形式で入力することが可能。「つながり一覧」には「みうらじゅんつながり」や「納豆つながり」「ペンギンつながり」など、ユニークな「つながり」が表示されている。
__他人の部屋を覗いたりする興味や、誰かとの共通の興味を知りたいという欲望が前提にあるのでしょうか?

前田 僕はその逆に考えています。まず自分の部屋を持つことが大切なのではないか、と。自分の興味を並べることがスタートで、「あれ、俺ってこういうことに関心があったんだ」という簡単な自己表現プラス自己実現ができ、自分の興味って何だろうということが最初にわかるというようにしようと思ってログインしたら、表紙でなくて、自分の空間に行くというように設計しているわけですね。そうして自分の興味と他人の興味がどこでどう重なるのかということをも楽しもうということですね。他人の興味だけが知りたいのであれば、登録しなくてもいいですね。自分も登録することによって、他人の興味とどれだけ重なっていて、どれだけ違うのか、ということがわかるのが楽しいのではないか、という発想ですね。


__私たちは他人との共通点と差異に興味を抱いてコミュニケーションをはかっている?

前田 自分を隠して、他人の興味だけを見たいということであれば対等ではないと考え、登録して初めて見られるというようにしました。参加して情報を発信すれば自分が出したぶん以上にレスポンスが返って来る。だから損じゃないんだよ。出せば出すだけ、返って来るんだよ。そういうスタンスですね。ギブ・アンド・テイクなのです。




有限会社シエスタウェア
バスケさん
シエスタウェア代表取締役。NoMeMo Bustersなどのフリーウェアから始まり、Appleの作ったPDAであるNewtonや、Quick Timeのプログラミングなど、主に作り手側に自由を与えようという思想に共鳴してしまう気がある。ここしばらくは、PHPによるウェブ・アプリケーション制作がお気に入り。次のブームはたぶんCocoa。

■「関心空間」の独自性と今後 

前田 「関心空間」は掲示板のスレッドではないんですね。自分の持ち物としてのキーワードを作る。そこの下につくレスも削除の権限を与えている。それは普通の掲示板ではないことですね。独自性があります。そうすることで僕らの管理負担が減ることもあるんですが、その人の家だから、家の庭をきれいにすることは自由だが、あまり多くゴミを積み上げると隣の家から「臭い」と言われるだろう。そういったバランスをユーザーに委ねているわけです。だんだん分量が多くなってきたので、もう一度みんなに意識させるような手段や雰囲気作りはしたいと思っている。そうした意識がネット上にもあってくれれば、と思う。普段は持っているはずなんですよ。家の前にゴミを捨てられたらイヤでしょ。そういった暗黙のマナーが浸透していれば規模が大きくなっても楽しい空間でいられる。場の力になるべく期待したいんですね。


__「つながり」から生まれるネットワークや無形の資産がこれから次の展開につながる?

前田 よく「関心空間」を英語版にしたら、と言われますが、「つながり」って日本語で確固たる地位がありますよね。「何々と掛けて何々と解く。その心は?」を翻訳すると何になるんですかね? 日本語独自のゆるさや見立てのようなものですから、英語では的確な言葉が浮かばない。いちばん近い言葉として僕らは「コンテンツ」でなく、「コンテクスト(context)」と位置づけています。そういう関係性重視システムを作ることを目的にしていたので、いわゆる「何々と掛けて何々と解く。その心は?」は、英語で言うと「コンテクスト・オリエンテット」な発想だと思うんですね。関係性を抽出していくことによって、自分が新しい情報を得る。コンテンツはみんなから頂くんだけど、コンテクストを創出する仕組みとかきっかけを「関心空間」がプロバイドする。いずれそのコンテクストの集積の中から新しいコンテンツを作る。そのコンテンツをユーザーに利用できるようにすれば、またそれが循環していく。コンテンツを無料で提供していくことで、僕らは機能を強化していけば新しいコンテンツ・コミュニティが生まれるのではないか、と思っています。




5.週刊関心空間
知らない者同士が連想ゲームをしている感覚が味わえるのも「関心空間」の特徴のひとつ。「『週刊関心空間』を始めてわかったことですが、ユーザはテーマを出されたような意識になるようですね。今月は『駅』とすると、駅のキーワードが増えたりすることはあります」(バスケさん)。

「関心空間」は知らない人との「つながり」を自発的にたぐり寄せるオンラインコミュニティ。ユーザはインターフェイス機能を使って主体的に「つながり」を紡いでいく。主体性のあるユーザ同士の交流が、体温のあるコミュニケーションを生み出す。「関心空間」の根底に流れているのは参加者の自律性を尊重する姿勢だ。ユーザは自分の空間の責任を負うことで初めて自己表現が可能になる。インターネットコミュニティにおける自己責任を重視した同システムは、一般社会でのコミュニケーションにもそのまま当てはまる。他人との「つながり」をテーマに据えた「関心空間」は、現代のコミュニケーションを語る上での「キーワード」である。

Text by : 成宮雄二 

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