リンククラブが生まれたのは今から9年前の1994年。たくさんのリンククラブ会員のみなさまのご支援をいただき、お陰さまで今回の5月号で創刊から通巻100号となりました。リンククラブ・ニューズレターの暖かい表紙のイラストを創刊から手掛けるニューヨークのイラストレーター、ノーマン・ベンデルさん。彼のイラストは、リンククラブから読者のみなさんへのメッセージ、「希望」、「暖かさ」、「未来を想像する力」、そして「ユーモア」を、毎回その中に秘めています。今回は100号を記念して、みなさまからのたくさんのご希望をいただいた、ベンデルさんへの特別メールインタビューをお届けします。

表紙編




____イラストレーターとして仕事を始めたのはいつ頃からですか。

 私がプロとしてイラストを描き始めたのは80年代半ばからです。でも、もとをたどれば私がまだ8才くらいの頃、同級生のマンガが学校新聞に掲載され、そのマンガをみて「僕のほうがうまく描ける」と思って絵を描き始めたことが、現在に繋がっているのかもしれません。子供の頃からよく空想したものをスケッチしたりして、母はそんな私の絵を喜んでくれました(私が絵を描いていれば家が静かだったからかもしれませんが…)。でも、私はたくさん絵を描くものの「良い絵」ばかりではなかったので、学校の先生達は私の絵を見てよくがっかりしてましたね。(笑)絵の描き方をきちんと習ったのは大学に行ってからですが、大学卒業後はデザイナー、アートディレクターとして日本の会社でもある電通N.Y等で仕事をしていました。その頃も自由な時間に、好きで絵を描いていました。


____イラストレーターとして描く絵と、仕事ではない絵には何か差がありますか。

 そんなに差はないですよ。でも、まったく仕事と関係なく描いた絵には、仕事で描いた絵よりも少しクリエイティヴでユーモアの表現の広さが見られるかもしれませんね。


____絵画とくらべてイラストレーションの魅力はどういったところにあると思いますか。

 イラストレーションには、通常明確なゴールがあり、仕事の範囲も広く多岐にわたります。毎日新しく教わる事もあり、新しく解決しないといけない色やデザインなどの問題もあり、いろいろなクライアントと仕事をしなければなりません。そういう意味では、私の性格はきっとイラストレーションに向いていたのでしょうし、この仕事がもつ性質が私にとっても魅力的だったのです。絵画は反対に独りでもくもくと絵を描かなければなりませんから。


____主にどのような画材を使ってイラストを書いていらっしゃるのですか。

 私が使う画材は本当にシンプルな物ばかりです。紙、鉛筆、ペン、インク、水彩絵の具とアクリル絵の具。あっ、そして最後に一番大切なもの、私のユーモア!(笑)


____これまでどういった仕事をされてきたのでしょうか。

 私の仕事で一番知られているのは、広告キャンペーンやテレビコマーシャルかもしれませんが、書籍の表紙、雑誌の装丁、絵本、教育教材、デパートの広告、コンピュータのアイコン、大手企業のロゴ、グリーティングカード、旅行業界のプロモーションに、政府の広告まで、グラフィックに関わるほとんどの分野で仕事をしてきました。

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____今、ご自分の描きたい絵が描けていますか。

 できるだけそうしようと努力しますが、いつもそうとは限りません。クライアントが色々な可能性に制限を加えることもありますし、プロジェクトそのものが十分考えられていない場合もあります。純粋に楽しみながら取りかかれるものは少ないですね。


____子供の頃に好きだったことは?

 自然の中にあるものは何でも好きでしたし、空想することも好きでした。私達家族は大きな湿地がある片田舎に暮らしていて、マーク・トウェインの本に出てくるハックルベリーフィンのように、いつも湿地のどこかで泥んこになりながら遊んでいました。


____どんな時に喜びや幸せを感じますか。

 イラストがしっくりおさまった時。私の作品が誰かに前向きな影響を与えた時。自然の美しさを満喫したとき。他の人を助けることができた時。


____休みの日など、仕事をしないときはどう過ごしていらっしゃいますか。

 私と家族はNYからそれほど離れていない、とても自然が美しい所に住んでいて、家の周りには散歩をしたり、自転車に乗ったり、乗馬ができる自然保護地区が沢山あります。デラウエアー河沿いにある歴史的にも古い町を訪れるのも楽しみの一つです。また、その古い町から少し離れて、美しい景色を背景にアウトドアで食事をしたり、骨董店巡りや、ボート乗り、釣りを楽しむこともできます。そして、もちろんNY Cityもありますよね。私はただ街を歩き回るのがとても好きです。外に出かけると見るものもすることも本当に沢山あるので、休日はいつもこうして楽しんでいます…私が大好きな庭いじりをしていないときに限りますが(笑)。


____9.11以降、ニューヨークはどのように変わりましたか。

 9.11によってNYは破壊されました。物理的にも、感情的にもそして経済的にも、ダメージが回復するまでには時間がかかります。でもニュ−ヨ−カ−はとても多様性がありエネルギッシュで立ち直りも早い。以前に比べてセキュリティーは厳しいですが、それ程気になりません。ただやはり、以前ツインタワ−が立っていた場所の空にポッカリ開いた穴はどうしても意識せずにはいられません。ニュ−ヨ−カ−は毎回空を見上げるたびに、あの出来事を思い出します。今、この穴を修復する計画は進んでいるようで、みんなこの場所に以前よりも、もっと良いものを創るんだと心に決めていますし、きっとそうなるでしょう。


____iMacを購入されたと伺いましたがiMacを選ばれた理由はなんですか。

 長い間コンピュータやソフトウエア関連の会社の仕事をしてましたが、実は最近になって始めてコンピュータを自分で使うようになったんです。コンピュータは自分の仕事の助けとなるよりは、障害になるのではないかと、いつも気掛かりでした。でも世界は変わり、最近はコンピュータなしで仕事をすることが難しくなってきました。というわけで、今使い方を勉強しているところです。理論的に考えてもイラストレーターにとってMacは自然な選択です。使い易さやグラフィックの性能が、Macを業界のスタンダードにしましたから。でも、私にとってMacを選んだ一番大きなポイントは、Macがアニメーション制作の現場でとても活躍しているということです。私は将来的にもっとアニメーションに関わっていきたいと思っているので、きっと私のMacはアニメーターの仲間達を増やしたり、アニメーションをより簡単で安価に作る手助けをしてくれるでしょう。私が関わるアニメーションには、ほとんどにデジタルペイントが使われていて、デジタル化が良い影響を及ぼしています。コンピュータは微調整をするのにすばらしい道具で、時間の削減にもなります。デジタルのみで絵を描いているイラストレ−ターも何人か知っています。そのうち私も、もっとうまく使いこなすようになるでしょうけれど、闇雲になんでもデジタル化してしまうのではなく、自分の作品の性格を変えないよう気をつけながら使っていきたいと思っています。

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____コンピュータをはじめ、社会的なデジタル技術の進歩がイラストになにか影響していますか。

 イラストーションの世界においてデジタルテクノロジーはたくさんの良い影響といくつかのネガティブな影響を及ぼしています。例えば、作品をスキャンしてクライアントにe-mailで送れるというのは、すばらしいことです。お金と時間の節約にもなります。でも、その良い影響と同じくらいネガティブな影響もでてくるもので、クライアントはいつでも私に電話ができて、その日のうちに私がイラストを想像し、作成し、送ることができると思ってしまいます。これは、お互いにとって必ずしも良い事ではありません。スケジュールが大きく変わるだけでなく、失敗を許さないタイトスケジュールになってしまいます。その上、クライアントは私の一番良い作品を受取れるとは限らないし、オリジナルなしでは管理という要素も失います。もっと時間が経って、デジタルが人々になじんでくれば、利点が際だってくるのでしょうが、今は、まだみんなデジタルとアナログの使い分けが上手くできていないという印象を受けるので、そのバランスを考える調整期間なのではないかと感じています。デジタルテクノロジーがどんなに早く私達の世界を変えたとしても、人間性は揺るぎないものです。


____リンククラブニュースレターの表紙を描くという仕事の魅力は何だとお感じですか。

 リンククラブの表紙はいつも楽しいチャレンジです。くり返し同じものを描きたくないので、ぴったりあう題材を探すのはなかなか難しいですが、リンククラブニュースレターはとても前向きなテーマを持っていて、楽天的で人間的な魅力があります。それと、制限も少ないので自由に表現できるところも魅力ですね。


____表紙イラストのイメージはどういったところから湧いてくるのですか。

 いつも理屈で考えているわけではないので、何をきっかけにイメージが涌いてくるのか、自分でもわからないこともあります。ですが、基本的に人間性や人間の活動、生活、そして世界との関わり方といったものをテーマに、イメージを膨らませています。


____リンククラブニュースレターの表紙を描くために意識していることは。

 希望や暖かさ、超自然的な感覚、意外な発見をする能力(未来を想像する力とも言えるかもしれません)と、ちょっとしたユーモアといったところでしょうか。


____動物(犬や猫)と人が描かれていることが多いですが、モチーフへのこだわりはあるのでしょうか。

 動物は私達の心の中にいる、無邪気な子供の部分を表しています。絵の中で動物達は周囲で行われている事に興味を抱き、とても無邪気に楽しんでいますが、彼らの目線は絵を見ている読者の方の目線に近いんですね。ですから動物は周囲で行われている事を引き立てる役目を持っていますし、「私が見ている事が、あなたにも見えますか?」といったふうに、読者の代理になって、絵の中から問いかけをしているのです。



ニューヨークタイムス主催
シガーパーティ招待状イラスト

____文化や国が違っても共有できる普遍的なイメージ、感覚はどういう部分だと思いますか。

 国や文化に関係なく、人間的な暖かさや感情は普遍的なもので、そこに国境はありません。私たちの精神は色々な方法によって表現することができますが、誰もが同じような感情、欲望、希望と不安を抱えています。こういった想いを抱えながら我々が人生の旅路を模索し、進んでいることを考えると、神はすばらしいユーモアのセンスを持っていると思わずにはいられません。


____今回のニュースレターが100号ですので今までに少なくとも100枚のイラストを描いていただいていることになります。初めの頃と今ではイメージ、モチーフ、表現に何か変化はありますか。

 アーティストが行うどんな仕事も、その人がアーティストとして、人間として経験した結果の象徴です。リンククラブと一緒に仕事をし始めた頃に比べ、私は歳を重ねましたが、その間の経験が私の視点や美術表現をより洗練させていればと思います。ただ、これは確かなことですが、今は以前に比べて、よりリンククラブのメッセージに確信を持っています。


____今興味のあることは何ですか。

 自分のデジタル教育を完成させること。そして自宅の裏庭に小さな水生植物園をデザインして造ることですね。手を泥だらけにして作業することは、今我々が住んでいる世界とは対象的なことですが、すばらしいことだと感じています。


____これからもLinkclub Newsletterの表紙を楽しみにしています。ありがとうございました。





リンククラブの皆様へ
Newsletter100号おめでとうございます。
Linkclub Newsletterがこれからも続いていくことを楽しみにしています。



ノーマン・ベンデル / Norman Bendell

1943年シカゴ生まれ。ミリケン大学で2年間、アメリカンアカデミー・オブ・アーツで3年間美術を専攻。アートスタジオで見習いとして働いた後、デザイン会社にアシスタントアートディレクターとして就職。1969年、パナソニックのコーポレートアートディレクターとしてニューヨークに移住。その後、電通、Al Paul Lefton 、Bozell & Jacobsにてアートディレクター、シニアアートディレクターとして従事。1983年、夢であるイラストレーターとしての活動を開始。ベンデル氏のスタイルは瞬く間に反響を呼び、Perrier, Budget Gourmet, IBM, AT & T, Club Med, British Airways, Microsoft, Apple, Kodak, American Expressといった大手企業が彼の暖かく優しいキャラクターを印刷物やCMで起用し始め、人気を博す。同じ時期にBusinessWeek, Time, Forbes, Family Circle, Wonams Dayといった雑誌や、その他100以上の流通、消費者専門誌へのエディトリアルデザイン、The New York Times, Wall Street Journal, LA Timesなど新聞のプロジェクトにも関わる。1987年、プロのイラストレータとして仕事を追求するためシニアアートディレクターを辞め、Marcel Schurman と Funny Papers Inc.と共にイラストをカードとしてライセンスし、75デザインを北米で販売。1998年、American Girl Televisionのためのキャラクターの開発とアニメーションが完成し、同年彼のベスト・セラー本The Care & Keeping of Youが出版される。ノーマン・ベンデル氏の物静かな性格と、彼独特のユーモアの捉え方から表現される作品は、数々の賞を受賞。現在は奥様とニュージャージー州に在住。



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