CMやテレビドラマ・映画のテーマ曲などを多数作曲・演奏し、幅広く活躍されているチェロ奏者の溝口 肇さん。優しく哀調を帯びた溝口さん独特のチェロの響きは、今や癒しの代表格と呼ぶに相応しい。ところが実は、溝口さんの作曲活動の発端は、まさに自分自身の「癒し」のためだったと言う。今回はPowerMac G4をメインマシンに据えた、溝口さんのご自宅のスタジオでお話を伺った。


溝口 肇さん /Hajime Mizoguchi

チェリスト・作曲家。東京生まれ。 テレビでカラヤンの映像を見て興奮している様子を見た両親が「この子には音楽をやらせよう!」と、3才よりピアノレッスンを始める。11才でチェロに転向。東京芸術大学に進み、在学中からレコーディングやライブのバックなどの仕事を始める。86年、ソロアーティストとしてデビュー。以後、CMやテレビドラマのテーマ曲など多数発表。良く知られている作品に、テレビ朝日系「世界の車窓から」テーマ曲、NTV系「星の金貨」「続・星の金貨」テーマ曲など。




――溝口さんと言えばチェロ、というイメージですが、初めはピアノを勉強されていたそうですね。なんでも、3才の時にカラヤンを見て、音楽の道に進むことを決意されたとか。

「僕は覚えていないんですが、子供ながらに興奮していたんでしょうかね。テレビでカラヤンがタクトを振るうのを見て、喜んでいたっていうんですよ。それで親が「この子には音楽をやらせよう」と考えて、ピアノを始めたんです。でも、11才の時に、ピアノのレッスンが面白くなくなってしまって。もう辞めたい、と言ったんです。そしたら、ピアノは辞めても良いけど、何か楽器は続けなさい。と言われて。それで、自宅の一番近くにあったのがたまたまチェロの教室だったんです」


――初めての作曲が22才の時だったそうですが、なにかきっかけとなるようなできごとがあったんでしょうか。

「これは話すと長くなるんですが…。実はその頃に交通事故に遭ったんです。ムチウチのせいでひどい不眠に悩まされましてね。吐き気と頭痛とで、もう精神的に参ってしまって、それが1ヶ月以上続いた。そんなときに、知人に整体治療を紹介されたんです。そしたら治療を受けたその夜、久しぶりにものすごく気持ち良く眠れたんです。こんな気持ちのいいものはない。そうだ、治療中に何か音楽があったら、もっといいのではないかと思い、初めて曲を作ったんです。だから、発端は僕自身が眠るための音楽だったんです」



――Macとはどう出会ったのでしょう?

「今はMacのDigital Performer 3というソフトを主に使っていますが、昔はPC9801のカモンミュージックっていうソフトを使って作曲していたんです。ところが、86年にニューヨークレコーディングをすることになって、データを持って行かなければならないという時に『ニューヨークにPC9801なんてない!』って言われて(笑)。実は僕、PC9801って世界標準だと思ってたんですよ(笑)。で、急遽MIDIデータをMac用に変換したのが初めですね。そのあと、ニューヨークのスタジオで、エンジニアがMacで音質を調整しているのを後ろで見てて面白そうだなー、と思って。Macだとこんなことできるんだ、と。ちょうどSEが発売された時だったんで、すぐに買いに行ったんです。でもね、SEって確か20MBのハードディスクが付いてるのが画期的で、それが主流だったんだけど、僕が雑誌か何かで見たSEは2フロッピーのタイプ(ハードディスクなし)の写真だったんですよ。それで店で、これじゃないんだ! 2フロッピーのやつが欲しいんだって、わざわざ(笑)。マニュアルは当然英語だから全然わからない。ニューヨークにいる間に一生懸命人に聞いたりしたんだけど、結局わからないままで日本に帰ってきてしまったので、大変でしたよ。
 僕がMacを使うのは、録音テープ代わりなんです。たとえば、こう(と、キーボードで短いメロディを奏でる)弾いたのを、再生しながら(弾いた通りの音がスピーカーから流れる)さらに音を加えていく。今も、SEの頃と基本的な使い方は変わらないですよね。もちろんものすごく便利になっているけれど。最近は、この自宅スタジオで作るのは、デモテープとか、ちょっと狙った音が欲しい時くらい。外の雑音がかすかに入っているような音が欲しい、というような時ですね。たまにはここで完全に作ることもありますけど。ただ、自宅でCDまで作るのって、今は主流だけど、やはり僕にしかできないことといったら、ちゃんとオーケストラの譜面を書くとか、人を集めてバンドで音を作るとか、そういうことだと思いますから」


――今後の活動予定をお聞かせ下さい。

「来年早々に新しいCDを出すので、これから作品作りですね。今度は、ものすごくシンプルなものにするつもりです。それが終わると、5月にコンサートツアー。それと、実は映像にも興味があって、ずっと撮り溜めしてるものを、いつかまとめたいなと思ってます。自費でカメラマンとモデル、ヘアメイクさんをつれてアメリカの砂漠に1週間ぐらいロケしたりして、今はその映像はライブやDVDで使用してます。いずれはロードムービーを撮りたいんです。1本でいいから」


――ありがとうございました。

text by:石上耕平


Espace II

Produced & Cello / Hajime Mizoguchi
発売元:ビクターエンタテインメント VICL60855

2002年3月にリリースされた、チェロ奏者/作曲家・溝口肇2枚目のベスト版。敬愛する大チェリスト、パブロ・カザルスへ捧げたオマージュ「鳥の歌」や、今や溝口肇の代名詞となった「世界の車窓から」テーマ曲のフルオーケストラバージョン、また浜崎あゆみとの共演で話題を呼んだ「Dearest」のチェロバージョンなど、新旧作品を組み合わせた、音楽家溝口肇の集大成とも言える一枚。

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