デジタル文化未来論![]() 自分の作品を公開したり、テキスト・画像・音楽等の素材をシェアしたり、あるいは見知らぬ人とコラボレートしたり。インターネットは特にインディーズやアマチュアのクリエイターにとって、可能性に満ちた創造と公開の場だ。しかしそこで気になるのが、著作権という問題。自分の権利を守り、他人の権利を侵さずにインターネットを活用するためには、どんな手段をとればよいのか? この新しく複雑な問題に対するオルタナティブとして使われているのが、クリエイティブ・コモンズというライセンスだ。
著作権法とインターネットブロードバンドの普及によって多様なコンテンツのやりとりが増えるにつれ、著作権の問題は身近になってきている。現状の著作権制度は、おおむね営利目的のものを対象としてつくられたものであり、“All Rights Reserved”(全著作権所有)が標準だ。しかしその一方で、非営利目的のコンテンツは「ネットで公開したら使われ放題」という現実があるのも否めない。つまり、ミッキー・マウスの画像をダウンロードして遊んだ子どもが訴えられてもおかしくないのに対し、セミプロのバンドはウェブで公開した曲が断りなしに使われても泣き寝入り、といったことが起きかねない。パソコンとインターネットという道具で多くの人が作品を作り始めた今、これではどうにもバランスが悪い。 このようなオール・オア・ナッシング的な状態を脱して、公開のされ方や活用目的の観点から、自分の作品の著作権をよりフレキシブルにコントロールしてはどうだろう?ということで、“Some Rights Reserved”(一部の著作権所有)という考え方を打ち出したのが、クリエイティブ・コモンズだ。これはコンテンツにライセンス(使用許諾)をつけて、例えば「個人利用のためなら手を加えて使ってもいいですよ」「使うときは必ず私が作者だと明記してください」などの意思表示をしようという活動だ。クリエイティブ・コモンズはスタンフォード大学のカリスマ法学者、ローレンス・レッシグ教授を中心に2001年非営利企業として発足、現在15カ国に広がっている。日本では国際大学GLOCOMがホストとなって、この春「日本法準拠版」を公開した。
条件を自分で設定するライセンス(使用許諾契約書)クリエイティブ・コモンズが生まれた背景には、米国著作権法の極端な現状がある。米国では著作権は登録申請をしなくとも自動的に発生し、個人の死後も70年間、保護されるが、これが何の著作権を誰が持っているのかわからない事態を招いている。例えば映画を一本作るにも、使用する曲やアート作品のリストを弁護士が作り、いちいち所有者を探し出して使用料を払わなくてはならないといったことが起きてくる。しかも法律は変わっていくし、著作者の死後は所有権を主張する者が複数現れるなど、状況は込み入る一方で、訴訟が絶えない。 テキストや画像、音声が自由にやりとりされ、コラボレートされるインターネットの世界では、使っていいのか悪いのかわからないグレーゾーンのコンテンツが多いのは不自由だし、創造性に対する大きな束縛となりかねない。作ったものを自分だけのものにせず、みんなに使ってほしいと思っている人も多いのだ。ならば自分たちで白黒ハッキリさせていこう。そうクリエイティブ・コモンズは提唱して、ライセンスに4つの条件を設定している。ユーザは自分の作品に対し、この4つから好きなものを組み合わせて使う。 創造の素材のコモンズ(共有地)注意したいのは、このライセンス(使用許諾書)はあくまでもツールとして提供されるもので、クリエイティブ・コモンズが発行するものではなく、実際の法的な有効性は未知数だということだ。また何かトラブルが起きても、クリエイティブ・コモンズが対処してくれるわけではない。それは今のところ、インターネットを使う人たちが新しいルールとして自発的に実行し従うものであり、ひとつのムーブメントとして位置付けられる。しかし米国や英国ではすでに多くの組織や個人に利用されており、デジタル時代の知的財産権制度のあり方を牽引する活動として、その影響力は多大だ。 「コモンズ」という言葉には、共有地、公共財といった意味があり、クリエイティブ・コモンズとは創作物を共有する場所を生み出す試みといえる。それはクリエイターの作品のみならず、アカデミックな研究成果や教育カリキュラム、著作権の消滅した社会の財産などを共有し、再利用し、改善し、新たな創作を生み出していく、そんな場所だ。クリエイティブ・コモンズのサイトで公開されているビデオ『Mix Tape』(Sheryl Seibert作)は、その精神をこう表現している。
取材協力:国際大学GLOCOM主任研究員 かみむらけいすけ Text by:スマキ ミカ |