デジタル文化未来論

自分の作品を公開したり、テキスト・画像・音楽等の素材をシェアしたり、あるいは見知らぬ人とコラボレートしたり。インターネットは特にインディーズやアマチュアのクリエイターにとって、可能性に満ちた創造と公開の場だ。しかしそこで気になるのが、著作権という問題。自分の権利を守り、他人の権利を侵さずにインターネットを活用するためには、どんな手段をとればよいのか? この新しく複雑な問題に対するオルタナティブとして使われているのが、クリエイティブ・コモンズというライセンスだ。


クリエイティブ・コモンズ
http://creative commons.org/

米国版ライセンスを入手できるほか、クリエイティブ・コモンズのライセンスを持つ数多くの作品にアクセスできる。コミックやムービー、FAQで、ライセンスをわかりやすく説明。
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
http://www.creative commons.jp/

日本法準拠版ライセンスが入手可能。使いたい人はガイダンスをよく読むことを勧める。
国際大学グローバルコミュニケーション・センター(GLOCOM)
http://www.glocom.ac.jp/ top/index.j.html

情報社会に関する研究所。企業や国(政府)とのさまざまな共働共同事業を積極的に展開し、「学術」という枠にとらわれない、さまざまな分野の研究活動と事業を行なっている。

著作権法とインターネット

ブロードバンドの普及によって多様なコンテンツのやりとりが増えるにつれ、著作権の問題は身近になってきている。現状の著作権制度は、おおむね営利目的のものを対象としてつくられたものであり、“All Rights Reserved”(全著作権所有)が標準だ。しかしその一方で、非営利目的のコンテンツは「ネットで公開したら使われ放題」という現実があるのも否めない。つまり、ミッキー・マウスの画像をダウンロードして遊んだ子どもが訴えられてもおかしくないのに対し、セミプロのバンドはウェブで公開した曲が断りなしに使われても泣き寝入り、といったことが起きかねない。パソコンとインターネットという道具で多くの人が作品を作り始めた今、これではどうにもバランスが悪い。

このようなオール・オア・ナッシング的な状態を脱して、公開のされ方や活用目的の観点から、自分の作品の著作権をよりフレキシブルにコントロールしてはどうだろう?ということで、“Some Rights Reserved”(一部の著作権所有)という考え方を打ち出したのが、クリエイティブ・コモンズだ。これはコンテンツにライセンス(使用許諾)をつけて、例えば「個人利用のためなら手を加えて使ってもいいですよ」「使うときは必ず私が作者だと明記してください」などの意思表示をしようという活動だ。クリエイティブ・コモンズはスタンフォード大学のカリスマ法学者、ローレンス・レッシグ教授を中心に2001年非営利企業として発足、現在15カ国に広がっている。日本では国際大学GLOCOMがホストとなって、この春「日本法準拠版」を公開した。



クリエイティブ・コモンズのしくみ


CCPL(Creative Commons Public License)が設定する4つの条件(日本法準拠版より)

「著作者表示」の条件(Attribution)
この条件が設定されたコンテンツを利用する場合には、そのコンテンツの著作者(または著作権者)を明記しなければならない
作品がひとりでも多くの人の目にふれてほしい駆け出しの作家やバンドにとって、作品が複製され、より多くのサイトに掲載されることは歓迎だ。この条件は、必ず著作者の名前が明記されるよう設定するもの。必ず著作者を明記されるよう設定するもの。

「非営利目的利用」の条件(Noncommercial)
この条件が設定されたコンテンツは、非営利目的利用のみが許可される。著作者の同意なしに商用目的に利用できない
他人の利益に自分の作品を利用されるのは困るが、非営利的な活動や個人の楽しみのためならかまわない。あるいは自分のサイトで作品を自由に見てもらいたいが、商業目的での使用は交渉してほしい。そういうクリエイターは、この条件を設定する。

「二次的著作物禁止」の条件(No Derivative Works)
この条件が設定された場合には、コンテンツを改変したり、アンソロジーや写真集のような二次的著作物を作成することはできない
ウェブで公開したからといって、自分の書いた小説のエンディングが勝手に誰かによって変えられては困る。自分の曲がどこかで勝手に演奏されるのはイヤ。といった場合に設定する。

「二次的著作物の同一条件許諾」の条件(Share Alike)
この条件が設定されたコンテンツを元にして二次的著作物を作成した場合には、元のコンテンツに設定された条件と同じ条件を継承しなければならない。この条件は、「二次的著作物禁止」の条件が設定されていない場合、つまり作品の改変や派生が認められる場合のみ有効になる
インターネットは、見知らぬ者どうしのコラボレーションを可能にする。例えば自分の作った詩に、誰かが曲をつける。それをもとに、誰かがビデオを作る。あるいはその曲が、誰かが編集するアルバムに収録される。こうした創造の連鎖を楽しみたい場合に選択する。
ライセンスの使い方

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン

日本法準拠版のライセンスは、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイトから入手可能。

ライセンスはクリエイティブ・コモンズのホームページで、無料で入手できる。使用条件を設定して入手したマークを、自分の作品につけて公開する。このマークをクリックすると、「コモンズ証」(使用許諾条件を一般向けに読みやすくしたテキスト)が表示される仕組みになっている。ライセンスは、「コモンズ証」(Human readable format)、「法的条項」(法的裏付け=lawyer readable format)、「機械が読み込めるコード」(メタ・データ=machine readable format)の3つがセットになっている。



『Mix Tape』Sheryl Seibert
http://creativecommons.org/getcontent/ features/movingimagecontest

クリエイティブ・コモンズのサイトで公開されているビデオ映像。

クリエイティブ・コモンズを使っているのは、こんな人たち


Cory Doctorow
http://www.craphound.com/


●ジャンル/SF小説
処女作『Down and Out in the Magic Kingdom』の全文をウェブで無料公開したところ、10日間で5万部がダウンロードされた。10万の読者を得て、次作の出版もスムーズに決定。文学賞にもノミネートされた。


Opsound (Open Sound Resource)
http://www.opsound .org/opsound.html


●ジャンル/音楽
世界中のアーティストから提出された曲をプールする、実験的な音楽レーベル。クリエイティブ・コモンズのライセンス下で、ユーザは曲をダウンロードして、サンプリングや編曲など楽しめる。


MIT OpenCourseWare
http://ocw.mit.edu/index.html


●ジャンル/学習教材
MIT(マサチューセッツ工科大学)で行われた授業の講義ノートや課題をウェブサイトで公開。誰でも無料でダウンロードできるようになっている。2003年9月現在で500近くのコースが公開され、世界中の教育者・学習者より好評を得ている。


Raymond vander Woning
http://www.vanderwoning.ca/

●ジャンル/写真
自分で撮った植物や鳥の写真を、クリエイティブ・コモンズのライセンスを使ってシェアしている。趣味でやっているだけとは思えないほど、写真もサイトデザインもハイクオリティだ。



平山雅浩・自撰歌集『春宣りゆかむ』
http://harunoriyukamu. at.infoseek.co.jp/


●ジャンル/短歌
自作の短歌をクリエイティブ・コモンズのライセンスのもと公開。外国語に翻訳されたり、他のソフトウェアできれいにフォーマットされる、オフラインで使われるなど、二次利用の反響がきている。


クリエイティブ・コモンズに期待すること

かみむらけいすけ
国際大学GLOCOM/クリエイティブ・コモンズ・ジャパン

クリエイティブ・コモンズは、決して著作権制度や商用コンテンツのあり方を否定するものではありません。むしろ、今までの著作権制度の運用では十分カバーできない、コンテンツの多様性を広げていこうとするものです。ソフトウェアにも商用ソフトとフリー・ソフトやオープン・ソース・ソフトのような非商用のソフトがありますが、今では、商用ソフトに依存しなくても、非商用ソフトだけでかなり本格的なシステムを構築することができるようになりました。わたしたちは、クリエイティブ・コモンズが、このような状況をコンテンツの世界で作り出すきっかけになることを期待しています。

条件を自分で設定するライセンス(使用許諾契約書)

クリエイティブ・コモンズが生まれた背景には、米国著作権法の極端な現状がある。米国では著作権は登録申請をしなくとも自動的に発生し、個人の死後も70年間、保護されるが、これが何の著作権を誰が持っているのかわからない事態を招いている。例えば映画を一本作るにも、使用する曲やアート作品のリストを弁護士が作り、いちいち所有者を探し出して使用料を払わなくてはならないといったことが起きてくる。しかも法律は変わっていくし、著作者の死後は所有権を主張する者が複数現れるなど、状況は込み入る一方で、訴訟が絶えない。

テキストや画像、音声が自由にやりとりされ、コラボレートされるインターネットの世界では、使っていいのか悪いのかわからないグレーゾーンのコンテンツが多いのは不自由だし、創造性に対する大きな束縛となりかねない。作ったものを自分だけのものにせず、みんなに使ってほしいと思っている人も多いのだ。ならば自分たちで白黒ハッキリさせていこう。そうクリエイティブ・コモンズは提唱して、ライセンスに4つの条件を設定している。ユーザは自分の作品に対し、この4つから好きなものを組み合わせて使う。

創造の素材のコモンズ(共有地)

注意したいのは、このライセンス(使用許諾書)はあくまでもツールとして提供されるもので、クリエイティブ・コモンズが発行するものではなく、実際の法的な有効性は未知数だということだ。また何かトラブルが起きても、クリエイティブ・コモンズが対処してくれるわけではない。それは今のところ、インターネットを使う人たちが新しいルールとして自発的に実行し従うものであり、ひとつのムーブメントとして位置付けられる。しかし米国や英国ではすでに多くの組織や個人に利用されており、デジタル時代の知的財産権制度のあり方を牽引する活動として、その影響力は多大だ。

「コモンズ」という言葉には、共有地、公共財といった意味があり、クリエイティブ・コモンズとは創作物を共有する場所を生み出す試みといえる。それはクリエイターの作品のみならず、アカデミックな研究成果や教育カリキュラム、著作権の消滅した社会の財産などを共有し、再利用し、改善し、新たな創作を生み出していく、そんな場所だ。クリエイティブ・コモンズのサイトで公開されているビデオ『Mix Tape』(Sheryl Seibert作)は、その精神をこう表現している。



Today, creative works are treated like disposable products.
Things you buy and sell. And discard when you are done.
But is creative works were building blocks?
Ingredients that could be used by others, like artists, writers, and musicians.
Then art becomes something organic,
changing and growing until it exceeds the imagination of any single creator.
That's what Creative Commons is all about.

今の時代、アートは消耗品同様。
買って、売って、使い捨てるものっていう感覚。
でももしもそんな作品をブロックみたいに積み重ねられるとしたら?
ほかのアーティストやライターやミュージシャンに使ってもらえる素材だとしたら?そしたらアートは有機的なものになって、ひとりのクリエイターには想像もつかなかったものへと、変化し、育っていく。クリエイティブ・コモンズがやってるのは、そういうことなんだよね。
ーー『Mix Tape』Sheryl Seibertより抜粋


取材協力:国際大学GLOCOM主任研究員
かみむらけいすけ
Text by:スマキ ミカ


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