パリ郊外ヴァンセンヌの森から、南へ1時間ほど車を走らせた場所、トロアを訪ねた。
この街の景観はいかにも自然と伝統を重んじるフレンチテイスト。
それでいて建物の内部は実にモダンでハイテク。新旧がまったく違和感なく生活の中でブレンドされている街だ。

この街から、常に時代を一歩リードする電化製品の実績が生まれている。
今回は、最先端技術の開発に果敢に取り組んでいる フランスElectroluxランドリーシステムの社長グランピエ氏と、開発担当のビジャー氏に話を聞いた。




日本で環境問題に関する社会的な関心がますます高まってきたのは、おそらく80年代頃のことだろう。 それに合わせいち早く環境に配慮した商品の開発に成功させたのがElectrolux社だ。

フランスElectrolux社の社長であるスィリル・グランピエ氏は、
「最も大切なのは、地球環境を考え、人々が育んだ美しい歴史を 破壊する事なく最先端技術を生みだしていくこと。 地球環境・文化・生き物達を守るためにこそ知恵と開発があるべきだ」と語る。
それはどこか、レトロモダンなこの街のスタイルとも重なっているようで、 実にフランス的優しさを感じるインタビューのはじまりだった。

洗濯機の環境戦略思考と次世代への継承

Mr. Cyril GRANDPIERRE

スィリル・グランピエ氏
フランスElectrolux社 ランドリーシステム社長。57歳 、パリ生まれ。プロバンスMEA大学卒業

早速ですが、環境に配慮した洗濯機の開発とはどんなことですか。


Electrolux社で開発される商品は、全て地球環境対策に関する世界的なガイドラインに基づいています。具体的には、ISO14001の認証を得ているという事です。では、アクアクリーン開発の例をあげて詳しくお話ししましょう。まずアクアクリーンとは、化学溶剤を一切使わない、水をベースとした、システムのことです。モーターの回転技術を確立し、水流を困難な繊維にも対応できるように特定の周波数に固定しました。これによって化学溶剤を使用しなくても、従来の3分の1のコストで洗浄が可能になりました。また、洗濯機をスタートさせる前に、自動計量システムが洗濯に必要な水量を測ります。この開発で、水・エネルギー・洗剤の消費量を削減する一方で、環境の汚染を最小限に抑えることができました。同時に、今まで難しかった着物や帯の洗濯も以前より安全で簡単になりました。アクアクリーンの技術開発により日本人の大切な着物文化が、美しい地球環境の継承と共に、後世へと受け継ぐお手伝いができた事をうれしく思います。

また、1995年にはオゾン層を全く破壊しないノンフロン冷凍・冷蔵庫の開発に成功しました。この開発は、オゾン層の破壊を防ぎ、次世代へ地球環境を継承する一助になっていると自負しています。洗濯機については、今まで1キログラムに対し25リットルの水が必要だった洗浄が、従来の半分以下、12リットルの水量で可能になるなど、水のリサイクルや省エネを考えた開発に取り組みました。

進化し続けるウイルスへの挑戦

他にはどんな開発をされてきましたか?


近年、病院や施設での院内感染の事例を耳にするようになりました。病院内での感染原因はいろいろ考えられますが、その中の1つに寝具からの感染報告があげられています。

そこで我々は、感染から命を守り、生存の助けができる商品、バリア・ウォッシャーシステムの開発をはじめました。この開発は、ウイルスに詳しい医療のプロフェッショナル達と幾度となく試行錯誤を繰り返した結果の完成品でもあります。

このシステムの特徴は、出入口が分かれた2つのドアを持っている事です。患者が使用した寝具を入口のドアから入れると、最先端マイコン機能で洗濯が開始されます。終了した洗濯物は、出口のドアから取り出すシステムになっています。もしも、途中で洗濯が終了したとしても、洗濯物に付着したウイルスが死滅しなかった場合、この出口のドアは、ロックされたまま開ける事ができないシステムになっています。

このように日夜努力して開発した自社の洗濯システムは、現在ヨーロッパ統一規格European StandardsであるEN14065に製造物全般に対する環境対策についてのガイドラインを提供しています。近い将来、日本の病院でもこの2ドアシステムの洗濯機が、日本の人々を守るために活躍できる事を願っています。さあ、ではインタビューを私から実際に開発に取り組んでいる、担当者のビジャー氏へ交代しましょう。

阪神淡路大震災がひとつの契機に

Mr. Arnaud VIGER

アーノルド・ビジャー氏
フランスElectrolux社 ランドリーシステムの開発・テクニシャン。30歳、ヴアールデゥーク生まれ。トロアIUT大学卒業

自然環境は、時に猛威をふるう事もありますね。その際の取り組みについてはどのようにお考えですか?


人は、自然に逆らう事などできませんが、自然を大切にする姿勢は維持しながら、自然災害に遭った時、それを最小限に抑える努力はできるはずです。

1995年に起きた阪神淡路大震災では、6000人を超える死者が確認され、かなりの人たちが家具や電化製品の下敷きになった事が原因だったそうですね。又、ガスや電化製品からの火災が多く発生した事も聞きました。

本来、洗濯機は、人が清潔で健康に暮らすために開発された機械です。その洗濯機の役割が地震という出来事でまったく逆に働いたとしたら、それはとても残念な事です。亡くなった人たちの事を考えると、今でも心が痛みます。永久性と耐久性の両面を持つ、最も主体的な「人の命を守る洗濯機」が必要だと考えはじめたのは、この地震がきっかけでした。自然災害から人を守る洗濯機の開発をしたい。そう思った僕は、まず地震の研究からはじめました。


リアルモダンと永久・耐久性

では、その永久性と耐久性とは実際にどんなことでしょうか?


Electrolux社では、1985年から現在までグッドデザイン賞など15回の受賞歴を持っています。これらの受賞はヨーロピアンの香り漂うリアルモダンセンスと信頼性の現れだとも自負しています。又、日本の皆さんに実用性とアート性の両面を満足していただいた結果であるとも考えています。

私が暮らすトロアの街は、中世の建物が現存し、その美しさを永遠に残したいがための努力を常にしながら、今日まで暮らしてきました。

そう、洗濯機も同じと考えられます。いつまでも大切に使いたい実用的で美しいデザイン。そこに「永久性」の心が生まれるのではないでしょうか。そして、地震など外からのショックにも耐えられる強さとバランス、信頼できるシステムが「耐久性」を作りあげるのではないでしょうか。

人の暮らしを守る永久性と耐久性をかけた次世代型洗濯機を、日本の皆さんへお届けできる日を楽しみに、今後も研究と開発に力を注いでいきたいと思っています。



中世のロマン漂うこの旧き街から生み出される新しい発想。
修理してまでも使い続けたいと考える、ヨーロッパ建築のような永久志向洗濯機の意識と開発。
自国の文化を大切に守りたいというスタンスから生まれる、優しさの形。
そんな、私たち日本人が忘れてしまった価値観を、
今一度、思い出してみるのもいいのかもしれない。


【参考サイト】
エレクトロラックス社日本現地法人のサイト

http://www.electrolux.co.jp/laundrysystems/
洗濯機だけでなく、スタイリッシュなコーヒーメーカーやスタンドミキサーなど、様々な製品のラインナップを見ることができる。



Back to home.