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DVD / 少女の髪どめ日本へラルド映画|アミューズソフトエンタテインメント|4,935円(税込)イランの建築現場で働く17歳の青年と、アフガン難民の少女の物語。少女は男と偽って建築現場で働くが、ふとしたこと から、そのことを知った青年は、少女を守るために自分を犠牲にして守ろうとする。第25回モントリオール映画祭のグランプリを受賞。監督は『運動靴と赤い金魚』のマジッド・マジディ。 |
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DVD / アフガン零年アップリンク | 4,935円(税込)タリバン政権下のアフガニスタンが舞台。女性が外に出ることも働くこともできない状況で、生きるために髪を切って男になり、働きに出る少女を描く。主人公役の少女には、実際に内戦で故郷を追われ、物乞いをして生計を立てていたマリナ・ゴルバハーリが選ばれた。 |
_流暢な日本語。豊かな表情。屈託のない笑顔。ショーレ・ゴルパリアンさんは、日本在住25年になるイラン人女性だ。イラン映画のコーディネーターとして、映画祭のイベントでの通訳や、字幕監修などの活動で、イラン映画の普及に努めてきた。
「今でこそイランは映画のイメージが強いですけど、私が'79年に日本に来たときは、イランと言っても日本の人たちにはピンとこなかったみたいです。せいぜい『ペルシャ絨毯』とか『石油』ぐらいしかイメージがわかない。そのあと『ホメイニ師』や『イラン・イラク戦争』。90年代の初めにはイランから労働者がたくさん日本に流れてきたので、そのときは『偽造テレカ』とか『麻薬』とか(笑)。あんまりいいイメージはありませんね」
_そう語るショーレさんに、さらに追い打ちをかけたのが、イラク戦争だった。
「最近は『私はイラン人です』と言うと、『戦争で大変ですねえ』って言われるんです(笑)。イラクと間違えているんですね。確かにイラクとは隣同士なんですけど、イラクを構成しているのはアラブ人だし、イランはペルシャ人。まったく異なる民族なんです。宗教もイスラムなんですが、イラクはスンナ派でイランはシーア派ですから、全然違うということに気づかない日本人が多いですね。なぜ私たちのいる地域がイスラムの国としてひと括りにされるのか。イラン、イラクがあってアフガニスタンもパキスタンもある。マレーシアだってイスラムの国です。マレーシア人とイラン人では全然違うのはわかりますよね。いろんな国があって、いろんな習慣や文化があるのは当たり前なんです」
DATA/イラン・イスラム共和国
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_イラン。正式国名はイラン・イスラム共和国。この国の形態、経済状態、国民性などを知らない日本人は多い。
「イランは豊かな国ですよ。確かにイラン・イラク戦争があり、家族を失った人がいたり、家や仕事を無くした人もいます。インフレになって経済的に苦しんでいる人たちもいます。それでも人の気持ちや心はすごく豊かなんです。他人に対する思いやりとか優しさとか、音楽にすごく興味を持っていますし、遊びには夢中になるし。その精神を忘れていないイラン人はすごいと思います。過去の歴史において、イランはいつも外部から襲われてきました。アレクサンダーやモンゴル、タタールとかに侵略されたりね。戦争をよく味わってきた国民だから、世の中の変化にうまく合わせていくことに慣れているんじゃないでしょうか。ですから、たとえ戦争で負けたとしても、気持ちでは負けない。前向きで明るい国民性なんです」
_前向きで明るい国民性。その源は神を信じることだという。
「それはイスラムの教えもあると思います。ただ、もともとイランは一神教の国ですから、ひとつの神を信じる伝統があるんです。神に守られているということを信じていれば、何があっても大丈夫という気になるんでしょう。だから人々は憂鬱になることも少ないし、自殺率も低い。そこが日本人と大きく違うところでしょうか。私は年に数回イランに帰るんですが、その度にイラン人の前向きなところに感心しますね」
_宗教と言えば、イランは、1979年、ホメイニ師が率いる革命勢力によって王制が打倒されて以来、世界最大級の宗教国家となった。イスラムのイメージの象徴のひとつとして、女性が顔や体を隠すためにかぶるチャドルがある。女性の権利が著しく虐げられているような印象を受けるが、ショーレさんはそれを否定する。
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「イランは男性社会だと思われているんですが、実は女性は昔からとても強いんです。仕事をしている女性は結婚しても辞めないし、仕事をしないで家にいる主婦は、家を仕切っているとても強い存在です。男性もそんな女性に協力的ですしね。
イラン革命で社会への規則やあり方が変わり、女性は弱い立場に立たされているんですが、そのことを知っているからこそ逆に強く出るんです。法律では守られないから自分で自分を守ろうとするんですね。だから黒いチャドルをかぶるように強制されたりもしたんですが、イランの女性はすごく闘いました。チャドルをかぶることはかぶるんですけど、花柄のチャドルにしたりして、お洒落に気を遣うことができるまでになりました。ちゃんとメイクもしますしね。女性が頑張った証なんです」
_イラン人であるショーレさんの眼には、日本という国はどのように映るのだろうか。
「私は日本に住んで25年もたちますから、かなり慣れてきているのですが、イランから日本に映画監督が来たり、私の家族や親戚が来ると、彼らは日本人の表情があまり変わらないことにすごく驚きます。みんな同じ表情で、嬉しいのか悲しいのか、今自分が話していることをちゃんと聞いてくれているのか、それが非常にわかりにくいと言います。
これはあくまで私の意見ですが、日本は島国ですから、日本の過去を振り返ってみても、外国人が入ってきた歴史は少ない。だから自分たちの中で仲良くしたり、あるいは戦争したりして、何もかも自分たちの中でやっている。そうなるとなかなか外の人間に自分をさらけ出すことはできなくなるんじゃないでしょうか。外国人が怖いのか。それとも外国人と話すのが恥ずかしいのか。日本人はシャイですね。若い人たちにはもっとアグレッシブになってもらいたいです。それに対してイランは昔から外国人が行ったり来たりしてましたから、すごくオープンなんです。そこが日本との違いでしょうか」
_そう話すショーレさんは、日本人とイラン人は似ていると感じることもあるという。
「日本でいう『謙遜』とか『建前』『義理』といった概念はイラン人にもあるんです。相手を持ち上げて自分は遠慮するとか。年寄りに対する尊敬の念とか。今の日本は少しずつ変わってきてるかも知れませんが、昭和時代の日本と今のイランはとてもよく似ています。だから日本の人たちはイラン映画をよく理解してくれますし、イランでも小津安二郎や黒澤明の映画や、『おしん』とか『はね駒』といったテレビドラマの人気が高いんです」
_遠く離れた国同士でありながら、共通したメンタリティがありそうなイランと日本。イランの人たちの対日感情はかなり友好的なようだ。
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「イランに限らず、中近東の人たちは、日本人のことが大好きです。昔から日本の商社が私たちの国に入ってきてるんです。橋や工場を造ってくれたり、電話線を引いてくれましたから。それも押しつけがましくなく、こちらの事情をよく考えてくれてやってもらえましたしね。それに身近にあるカメラやテレビはみんな日本製じゃないですか。だから中近東の人たちにとって、日本はとても身近で大好きな存在なんです」
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_9.11の同時多発テロ。イラク戦争―そして日本は自衛隊をイラクに派遣。その姿はイランの人たちに衝撃を与えたようだ。
「今まで何かを造りにきてくれた日本が、自衛隊を派遣したことで、今度は何かを壊しにくると思ってしまいます。それは私たちの日本人に対するイメージとあまりにもかけ離れていたから信じられないんですよ。私がイランに帰ったとき、みんな私に聞くんです。何で戦車のボディに日本の国旗がついているんですか、って。確かに似合わない。すごく」
_それほど驚かれるということは、逆に日本が中近東の人たちに、いかに好まれているかの証明になる。
「その通りです。日本はすごく好かれています。いろいろ厳しいことは言いましたが、それは私が日本が好きだからなんです。そうでないと25年もこの国に住んでいません。日本人は礼儀正しいし、心優しい人が多い。バブルが崩壊したとはいえ、まだまだ豊かで安全な国ですから。その良い部分を忘れないでほしいと思います」
_イランには「火の中にいる人たちよりも、火の外にいる人たちの方が物事がよくわかる」ということわざがあるという。映画コーディネーターという仕事を通じて、まさに「火の外にいる人」となったショーレさんの価値観は、一方向からの情報でイランという国をとらえがちな私たちの認識に一石を投じる。そして日本という国を改めて考えるひとつのきっかけとなるに違いない。