故人の遺灰からカーボングラファイトを抽出し、
ダイヤモンドをつくるサービスがある。
ライフジェム社の
「メモリアルダイヤモンド」だ。

究極の『かたみわけ』であるばかりでなく、新しい弔いの形として、
悲しみに沈む人々を慰めている。

このサービスについて、日本支社長の藤澤さんにお話を伺った。

ライフジェム日本支社

支社長&COO 藤澤 徹さん

大手食品メーカー勤務後、独立、渡米。2004年3月より、 ライフジェム日本支社設立に伴い、支社長&COOに就任。

遺灰からダイヤモンドをつくるという発想と会社設立の経緯を教えてください。

「人間にもダイヤモンドと同じ炭素がある。遺灰からダイヤモンドをつくれないか」という、社長のグレック・へローのアイディアで始まったビジネスです。アメリカでは遺体は“物”なんです。火葬して散骨する場合でも、遺灰は荷物として扱われてしまう。そこで、忘れようとしても忘れられない想いの証として、何か、美しく価値ある物を残せないか、という発想から生まれました。

商品の「メモリアルダイヤモンド」について教えてください。

もともと人造ダイヤモンドは、GM(ゼネラルエレクトリック)社が50年程前に開発した技術です。主な用途は天然ダイヤモンドの採掘や工業用でしたが、日進月歩の分野で、最近では宝石として鑑定書が出るようになりました。

天然ダイヤモンドは、恐竜など動植物の残留物が炭素化したものですが、「メモリアルダイヤモンド」は、人など生物の残留物からカーボングラファイトを抽出。高温高圧装置で過熱加圧し、自然界で100万年以上の歳月がかかるダイヤモンドを短期間でつくりだします。このダイヤモンドが黄色いのは、人間に含まれる窒素やヒ素によるもので、色の濃淡は一人ひとりの成分濃度で違ってきます。コバルトなどの金属を入れれば、ほかの色にすることも可能です。

ご注文いただく際は、マグカップ1杯分(300〜400cc)の遺灰、もしくは遺骨をお預かりし、アメリカのプラントで生成・加工。お届けするまでに約4ヶ月間かかります。大きさは0.20〜0.99カラットの間で8段階(税込み価格39万9000〜220万5000円)。品質は上位から中位レベルのお墨付きを受けており、希望される方には別料金でGIA(アメリカ宝石鑑定学会)の保証書をお付けすることもできます。

宝石として手元に置くほか、指輪やペンダントにされる方が多いのですが、アメリカでは台所の壁に埋め込んだ方もいらっしゃいました。「よくお母さんが立っていた場所で、朝、東から太陽が昇るとキラッと光る。いつも話をしていますよ」と息子さんが話されていたのが印象的でした。

お客さまはどのような方々ですか?

今のところ日本では、7割がつらい事情を抱えたケースです。私が初めてダイヤモンドの受け渡しをした方は、ニュース番組のアメリカ最新事情のようなコーナーでライフジェムを知った方でした。インターネットで調べて渡米し、通訳を交えてご注文されたそうです。ダイヤモンドを受け取られたのは、ご依頼主である、故人のご主人とお母さま、妹さんだったんですが、3人とも1分半くらいの間、身じろぎもしないでジッと見ていました。妹さんの「お姉ちゃん、きれいになって帰ってきたね」の一言で、たくさん売れる商品ではないかもしれないけれど、こういう方達がいらっしゃるなら存在価値があると思いました。このダイヤモンドが、その人が生きていたことの証として、一つの生を全うしたことを祝う存在にもなるのではないかと。

また、生まれたばかりの赤ちゃんを亡くされた若いお母さんで、遺骨をずっと抱き続けていた方もいらっしゃいました。ご依頼はご主人からで、ダイヤモンドにしていつも身に着けていることで、少しは肩の荷を下ろして欲しいという心遣いからでした。お骨になると本当に“亡骸”という感じで、悲しいですよね。そこで葬儀をして、“諦めるしかない”と、悲しみに折り合いをつけるわけですが、それでも“どうしても”という想いがある。その想いをダイヤモンドにして身に着ける。決して忘れないという気持ちを形にしているという感じですね。こうした方々の想いは、ひしひしと感じます。亡くなった方は自分がダイヤモンドになったことは知らないかもしれないけれど、「私がこれで癒されるなら、亡くなったあの人も絶対に喜んでくれる」という信頼関係があるんですね。ペットの供養や、夫や妻を亡くして気落ちしている親にお子さんからプレゼントされるということもあります。

僕自身、当初はシンプルに「遺灰がダイヤモンドになる」という認識だったんですが、実際に30家族以上の方々とお会いして、違った意味でこの仕事を捉えるようになりました。

営業はどのように行っているのですか?

アメリカは土葬が一般的なので、まず取次となる火葬を勧めてくれる葬儀社を増やすことが中心となります。既に300社以上と提携し、500の家族とご縁がありました。

僕は、日本で始めるにあたって、やはり葬儀社さんに営業していくと思っていたし、今後タイアップしていく考えもあります。しかし営業できる商材ではないので、このサービス自体の情報がどれだけ浸透するかが鍵になるのではないでしょうか。頭の片隅にこの情報があり、いざという時に利用していただくということで、現時点ではインターネットのホームページサイトからのお申し込みが中心です。

また、ペットについては、春から専門ブランドをたちあげる予定です。

遺灰を預かる時の状況と、お客様がこだわる点を教えてください。

つい1時間程前に会ったばかりの人間に大切な遺灰を預けるわけですから、信頼していただけるかどうかが問題となってきます。

遺灰をお預かりに行くのは、お葬式が終わり、お墓に納骨する頃なんですが、だいたい皆さん、その頃に深い悲しみがきて、いろいろな言葉が溢れてきますね。最後には「聞いてくれて、ありがとう。息子がダイヤモンドに生まれ変わってくるのを本当に楽しみにしています」などと言われます。自分も45年間、のほほんと生きてきたとは思いませんが、世の中には凄い人生を歩まれている方がいっぱいいらっしゃる。すごく勉強になるし、変な話ですが、いい仕事をさせていただいていると思います。本当に、こうした一つひとつの積み重ねが、このダイヤモンドを価値あるものにしていくんだ、と実感しますね。

この時、お客さまから多くでる質問は製造過程についてです。「総理大臣の骨と入れ代わっても嫌なんだからね」と念を押されたこともあります。ダイヤモンドは一つひとつに番号を付けてコンピュータ管理し、輸送中も運送会社とオンラインで商品管理ができるようにしていますから、まず間違えることはありません。また、工場の流れ作業のようなつくり方ではなく、プラントの6〜8畳くらいの装置で一つずつつくる為、長い時間がかかるということをお伝えしています。

自分の葬送をプロデュースしたいというニーズをはじめ、従来とは違ったかたちの葬祭ビジネスが登場しています。その中で今後の展望をお聞かせください。

高齢化社会になり、リタイアしてから亡くなるまでの時間が長くなった結果、自分の人生のエンドについて考える方が増えています。生前葬をされる方や自分史を書く方など、家族に“自分の生きた証”を残したいと考える方もいらっしゃいます。そういった流れで、大往生のおばあちゃんが「私のダイヤモンドをみんなに配るわ」というように使ってくれればうれしいですね。実際にお問い合せもいただいているので、今後は、生前申込書と家族同意書の受け付けを考えています。

これは僕自身の想いでもあるんですが、先祖を敬う為のお墓参りを当然と思う一方で、いざ自分が死んだ時、顔も知らない先祖とお墓に入るより、家族と一緒にいたい、家族が亡くなった時も身近なところで弔ってあげたい、と考える人が増えてきているようです。実際、お客様のなかには、遠い本家のお墓に入れるのは嫌だからと、交通事故で亡くなった娘さんの遺骨を10年間も持っていた方がいらっしゃいました。

日本人は、葬式、戒名、供養料、お墓など、死ぬことに対するコストが非常に高い民族です。社会情勢が厳しくなると同時に、弔いに対する価値観も多様化しています。他社のサービスですが、海に散骨したり、遺骨をオブジェやアクセサリーにしたり、簡単な墓碑を庭先に建てたり、宇宙に散骨する「宇宙葬」といったものまである。そういったなかでダイヤモンドが適する方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ビジネスコンサルタントの方には、「早く全国展開するべきだ」と言われますが、人の悲しみの上にあるビジネスですから、あまりにビジネスライクにはしたくない。僕の考えているダイヤモンドに対する想いや信頼関係を理解してくれる方達と、日本でのビジネスを拡げていきたいと考えています。


ライフジェム

http://www.lifegem.co.jp/

アメリカ・シカゴに本社をおく、メモリアルダイヤモンドの製造販売会社。社長のグレック・へロー氏は、コンサルティングセミナーで起業を学び、遺灰からダイヤモンドをつくるアイディアを具現化。パテント取得と同時に、2001年9月会社設立。2002年、アメリカで発売開始。翌年よりイギリス、ハンガリー、オーストラリア、ベルギー、オランダでも販売を始め、話題を集める。アメリカでは、CNNやワシントンポストをはじめとする800社以上の取材を受け、サイトアクセス数は100万件を超える。今後は、火葬率99.5%の日本を皮切りに、韓国、中国・上海に進出を計画していると言う。




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