コーラの国でのお茶市場 伊藤園の挑戦

今となってはコンビニでも当たり前になってしまった、各種のお茶ベースの清涼飲料。しかし日本国内でさえその初期には、「普通のお茶をお金だして買うのか?」と言う意見も多かった。ところが現在ではそれは当たり前のこととなり、誰もが各種のお茶を気軽に楽しんでいる。そして今、お茶の市場は日本国内だけではなく世界へ広がっていこうとしている。日本国内以上にコーラやジュースが主流の国々で、果たしてお茶は受け入れられるのだろうか。日本企業の米国でのチャレンジを追ってみた。

伊藤園公式サイト


http://itoentea.com/

http://www.itoen.com/kai/index.cfm

日本での缶入りウーロン茶の発売は1980年。当初はお茶ごときにお金を払うはずはないと言うアナリストの指摘も多かったが、それから20年を経た現在、お茶は清涼飲料市場の大きな一角を占めるほどにまで成長した。コンビニには各種のお茶が様々な容器やサイズで並び、夏は冷たく冬は温められて提供されている。 この市場のきっかけを作ったのが伊藤園だ。

伊藤園はすでに米国に進出している。米国で主流の清涼飲料は、コーラをはじめとする炭酸飲料が主流で、お茶をベースにしたものであっても、砂糖を加えた甘いものがほとんどだが、お茶本来の飲み方で勝負を挑む伊藤園の製品は甘味料は加えられていない。ニューヨークなど都市部では「スシ・バー」がブームで、そこで食事の際に無糖のお茶を経験する人が多いことなどが追い風となり、発売当初から評判となっている。折からの健康ブームや、禅や茶道などの日本文化への興味も手伝い、比較的裕福な層を中心にシェアを広げているようだ。現在の主力製品である『Tea's Tea』は、2002年3月発売当初は3種類でのスタートだったが、現在では7種類10品目にまでバラエティが広がっている。



遠藤正昭さん

伊藤園ノースアメリカ社副社長。大分県出身。2001年伊藤園入社、ニューヨーク在住。

順調に成長を続けるお茶市場だが、その実状はどのようなものなのであろうか。
異国の地で異文化の商品を売るには大きな困難も伴うだろう。市場開拓の現実について、伊藤園ノースアメリカ社の副社長、遠藤正昭氏にお話を伺った。




「伊藤園が米国本土に本格的に進出したのは2001年のことです。伊藤園は缶入りウーロン茶のヒットでも分かるように、時代の機を見ることに優れた会社だと自負しておりますが、ウーロン茶市場を他社に席巻されたように、自身で全てを執り行うにはやや企業規模が小さい時代もありました。しかし『お〜いお茶』の成功で企業としての自信も付いたため、米国進出を計ることにしたわけです」

――業務上の困難には事欠かないのでは?

「もちろんです。例えばこちらではスーパーなどに卸す際には問屋を利用するのが一般的ですが、お茶の知識に乏しい人が大半です。我々の製品の主たる消費者は高学歴、高収入の上流クラスが主流です。こうしたユーザー層により効率よく製品をお届けするために、ある時点で当社の営業担当による直接卸し方式、『DSD(Direct Store Delivery)』を採用しました。これにより市内の高級スーパーなどに効率よく商品をお届けすることが可能になりました。また『Tea's Tea』のファン層は、健康面に非常に気を使います。一度、賞味期限などの表記方法を変更したときには多くの意見が寄せられ、すぐに元の表記に戻したことなどもあります」

――米国という市場は、日本国内とどう違うのでしょう?

「全く違いますね。ここはコーラとジュースの国です。けれども何より美味しいことがまず第一なのは同様ですから、我々もまずこれを一番優先に考えています。健康面でのメリットなど付加価値はあくまでお茶本来の味のあとに付いてくるべきものであり、まず高品質の維持が重要です。我々の製品は日本から輸送しているためコスト的にもやや不利ですが、品質を維持することが現在のファンの確保に繋がっていることも確かです。例えば米国では全ての食品はFDA(連邦食品医薬品局)の認可を得る必要があります。多くの清涼飲料は酸性ですから腐りにくいという判断がされていますが、お茶はアルカリ食品ですからpH値が低い。日本の高い技術を駆使すればpH値が低くても飲料としての劣化はあり得ないし、また伊藤園のお茶はそのレベルで作られています。そうすることでお茶本来の味わいと風味をそのままお届けすることが出来、健康面でのメリットも大きいのです。こういうところは我々が誇れるところですね。『ITOEN』のブランドで世に出す以上はそのレベルの維持は必須ですし、その為にも今はまだ日本での生産を選択しています」

――今後の展開について教えてください。

「今は『Tea's Tea』が好調ですので、まずこれをしっかり根付かせた上で、その上で改めて市場が求めているもの、実際に事業としてメリットがあるもの、そして何より伊藤園としての規範に則ったものを米国市場に送りだしていきたいと思います。伊藤園側が勝手にあれをしたいとかこれをやりたいという要望で行われるべきではありません。あくまでも事業として結果が出るかどうかが企業としての意思決定の基準となります。しかしはっきり言えることもありますよ。伊藤園の製品には5つの決まりがあり、1. 自然、2. 健康、3. 安全、4. 美味しい、5. 良いデザイン、を全て満たす必要があります。今後の事業展開如何によってはどのような製品が出てきてもおかしくはありませんが、この5つの決まりを守ったものであることだけは確かですね」

伊藤園では、ニューヨークの高級ショッピング街マディソン街にあるショールームの2階に和食懐石レストラン『会(kai)』を2002年3月にオープンし、日本食文化全般への啓蒙活動も行っている。

「伝統の味を知っていただくことが出来れば、自ずとお茶に対する見識もついていきます。良い品質のお茶を求める層の開拓も必要ですし、何よりお茶の文化を知ってもらうということも大切な事業ですね」と遠藤氏は述べる。レストランでは8人の料理人が腕を振るい、米国とは思えない上質な和食を提供して評価も鰻上り。多くのガイドで高評価を得ている。そして何より氏自身、「伊藤園の米国進出は創業者の夢でもあったのです。私も米国を含め海外での業務経験は長いのですが、この伊藤園のように夢のあるチャレンジング且つエキサイティングな仕事はなかなかありません。米国にも日本人は多く、その市場だけでの仕事でもそこそこ利益は上がるでしょう。しかしアメリカ社会に対して我々のお茶を売ることが出来、その文化を伝えられれば、こんな素晴らしいことはないのではないでしょうか」と熱く語る。


異文化の中に入り、日本の伝統文化に根ざした食品を売るには、多くの困難が伴う。品質の維持にこだわる職人気質の企業だからこそ、新たな市場を切り開くモチべーションも維持できるのかもしれない。新しいことに取り組み続けていくことがやがて伝統に繋がる。それは全てのことに通じると言えないだろうか。




Back to home.