たのみこむ

http://www.tanomi.com/

サイトに寄せられたユーザーのアイディアをもとに、受注生産スタイルにより、商品開発・販売を行なう。また、これまでに蓄積された40万件におよぶ商品アイディア、意見を活用し、商品コンサルティング、マーケティング業務を受託。さらに、経済産業省の依頼で、特殊な技術をもった中小企業に商品開発のアイディアを提供していく事業を積極的に展開している。


消費者主導のリクエストサイト『たのみこむ』。ここに集まる人々と、ものづくりの現場、そしてサイト運営を実業に結びつける手腕について、株式会社エンジンの経営陣でありクリエイターでもある二人にお話を伺った。


株式会社エンジン
(左)
代表取締役社長兼CEO
奥田裕久さん
(右)
執行役員兼開発部長 
山口天平さん



携帯ストラップライター/クエストベビー
ライターにストラップをつけたことで人気商品に。2,520円。 逆転裁判+逆転裁判2/オリジナル・サウンドトラックCD
リクエストにより、「カプコン」の人気ゲーム「逆転裁判」のサウンドトラックを販売。ゲーム本体の売上が約10万本なのに対し、1万4000枚を売り上げた。この購入比率は「ファイナル・ファンタジー」級といわれている。CD2枚組3,990円。『逆転裁判3』(3,360円)も発売中。 『エースのジョー』1/6 / アクションフィギュア
70〜80人ほどの消費者が意見を交わし、映画『殺しの烙印』(日活)のワンシーンをもとに俳優の宍戸錠のフィギュアを製作。このフィギュアにはパロマの炊飯器が不可欠という理由で、製作工程を増やして炊飯器をつけた。この商品が成功した要因はこの炊飯器にもあるという。23,800円。 バーチャルキーボード/ウェアラブルコンピューティングシリーズの人気作品。PC(win)や携帯につないで使用できる。イスラエルで生まれたアイディアを米国企業が商品化したもの。日本でのテストマーケティングとして売り出し、発売数週間で約1000個を売り上げた。 29,800円。 自爆ボタン
アーティストの作品を商品化した即完売の人気商品。何のギミックもない見ての通りの「自爆ボタン」。発売前に消費者にヒアリングしたところ、“自爆は男のロマンです”など多数の肯定意見が寄せられた。3,990円。 カクダイ製菓公認/「クッピーラムネ」まくら
昔懐かしい「クッピーラムネ」(6グラム入り)約300袋の大きさのまくら。クッピーラムネ好きの消費者のリクエストから商品化された。4,179円。 P900i 専用カスタムジャケット
株式会社入曽精密、有限会社山口工芸といった中小企業が世界に誇る日本の技術を携帯カバーに。チタン26,250円、チーク、ローズウッド各9,975円。

日本最大、総数約5万件の
消費者リクエストサイト

F1や人工衛星に使われるチタンの“削りだし”技術で作られる、ひとつ5万円近い値段の精密なサイコロ、21年前に市場から姿を消した大手メーカーの玩具、幻のテレビ番組やゲームのソフト…。このような商品をメーカーに協力を仰いで、製造・販売しているサイトがある。その名も『たのみこむ』。

消費者のリクエストをもとに商品の受注生産を行なう「リクエストボード」、逆に企業が消費者の意見を請う「スペシャルボード」、開発商品を購入できる「たのみこむショップ」から構成され、約20万人の登録会員が存在する。サイトに収められたリクエストの総数は常時5万件以上。これらをもとに、1999年12月のオープン以降、冒頭のアイテムをはじめとするさまざまな商品を世に送りだしてきた。

“メディア×ものづくり”の
ビジネスモデル

サイトを管理・運営するのは、株式会社エンジン。その前身はテレビ番組の構成作家たちの事務所だった。代表取締役社長兼CEOの奥田裕久さんは、『たのみこむ』発足のきっかけをこう語る。

「インターネットなど、新しい双方向メディアのコンテンツプランナーとしてやっていきたいと思ったことと、構成作家の仕事上、キャラクター商品の開発で玩具や菓子メーカーのブレスト会議に呼ばれることがあり、かねがねものづくりは面白いと思っていたことなどが動機です。ところが自分たちでものづくりをしようと考えたとき、人もいないし、資金もない。最小限のリスクで自分たちのつくりたいものをつくれるビジネスモデルはないかと考え始めました」

さらに、世の中に自分たちの欲しいものがないという思いが、現在の『たのみこむ』をつくったと言う。

商品は消費者と共に
つくる“作品”

5年後の現在、サイトは、欲しいものが世の中にない人たちで賑わっている。毎日2〜3万人が訪れ、自分のリクエストを発表したり、ひとのアイディアに賛同の意見を述べたり、商品を購入したりしている。この人たちはどこからやってくるのだろう。

「サイトの集客のほとんどは“2ちゃんねる”やブログをはじめとするネット上の口コミです。たとえば“2ちゃんねる”に、あるアイドルを応援するスレッドがあったとします。そこで“○○ちゃんのフィギュアをつくろう”という運動が始まり、“清き1票を『たのみこむ』へお願いします”という書き込みがなされる。そうすると皆さん、それを見ていらっしゃるわけです。そして最小確定数が集まり、商品化が決定すると、“たのみこむも頑張って商品化に動いてくれたんだから、自分たちも実際に購入して、商品化を実現しよう”と思っていただけるようです」(奥田氏)

商品が実際に購入される確率は非常に高く、ほとんど1〜2週間で結論がでる。1000〜2000個という数の商品があっという間に捌けることも珍しくない。消費者のなかには、ただ単に商品を買っているのではなく、皆で話しあいながら商品化に至るプロセス自体に意味を見出し、楽しんでいる人も多いと言う。

これに対応するのは、執行役員兼開発部長の山口天平さん以下3人の極小チームだ。商品化プロセスは毎日膨大に寄せられる書き込みの、そのすべてに目を通すことから始まる。商品化が決定すると、メーカーにお願いするものは“たのみこむ”。そして既存のメーカーで対応できないものは、自分たちでいちから企画・製作にあたる。たとえばぬいぐるみをつくる場合でも、デザインや素材の細部にわたるまで、消費者の希望をかなえるために検討に検討を重ね、最適と思われる縫製工場へ依頼し、製作する。そしてひとつの商品が終わったそばから、次から次へと、まったく違うジャンルの商品開発にあたる。多いときで、1ヶ月に10の商品を開発すると言う。

「マニアックなお客様が多いので、微にいり細にわたり、こだわってこだわってつくったもので、やっと『まぁ、いいんじゃないですか』と言っていただけるレベルです。商品を本当に愛している方たちばかりなので、求められる完成度は非常に高いですね」(山口さん)

細かい消費者の声に応じることは、苦労も多い。けれど、ものづくりの醍醐味は、この消費者の声にあると言う。

「以前、放送作家だった頃は、“自分はクリエイターだ”という自負心がどこかにあったと思います。ところが今こうしてものづくりに携わっていると、商品づくりとアニメなどの作品をつくることは一緒であると感じます。それに、以前は視聴率や販売部数でしかわからなかったお客さんの反応が、店舗やネットからリアルに伝わってくる。このライブ感があるから、以前より充実感や満足感は高いですね」(奥田さん)

消費者の思い入れが結晶化し、丁寧につくりあげられた商品。それは、もはや単なる商品ではなく“作品”なのだ。

メーカー主導のものづくりに
風穴をあける

復刻版の商品やキャラクターものなど、既存のメーカーが関係しているものは、協力を“たのみこむ”。『たのみこむ』がリクエストするのは、今現在、世の中に存在しないものばかり。大量生産・大量消費のシステムから弾かれたものが多いだけに、当初、メーカーにたのみこむ作業は困難を極めた。

「最初はメーカーさんに『たのみこむです』と名乗って伺っても、『ふざけているのか』と門前払いもしょっちゅうでした。消費者の意見が集まっても、メーカーさんがそれに賛同してくれなければものがつくれない。すると消費者の期待を裏切ることになり、悪循環に陥ってしまう。僕たちは、『商品化が遅い』という消費者のお叱りを受けながら、一方で、『そこまで言うならやりましょう』とメーカーさんがおっしゃるまで、ひたすらたのみこんでいくしかありませんでした。大手メーカーとの商品化が動き始めるまでの3年間、ビジネスの重い車輪が動き始めるまでは、赤字を垂れ流す地獄の日々でした」(奥田さん)

サイトオープンから5年目の現在、『たのみこむ』は、玩具やゲーム業界をはじめとする多くの大手メーカーと共同で商品開発にあたり、売上を大きく伸ばしている。また、こうしたメーカーが『たのみこむ』のリクエストによる受注販売で消費者のニーズを掴み、あらためて自社販売に踏み切り、ヒット商品につながるケースも。今まで発言する機会を与えられなかった消費者の声が、メーカー主導のものづくりの現場に小さな風穴を開けた瞬間と言えるだろう。

Blister

http://www.blister.jp/
『たのみこむ』の人気カテゴリーから生まれたUSトイなどのショップ。サイトのほかに、渋谷・公園通りにリアル店舗が存在し、これまでに約3万種の商品を販売。『エイリアン』や『スター・ウォーズ』をはじめとする海外キャラクター商品が並ぶ。

Chara-Net

http://www.chara-net.com/
日本と海外のキャラクター商品を販売するショッピングサイト。『ガンダム』や『巨人の星』など、懐かしいキャラが人気を集める。

ネットを飛び出し、
リアル店舗、卸販売業へ発展

株式会社エンジンでは、2001年に『たのみこむ』の人気カテゴリーであったUSトイとコミックを『ブリスター』として分離・独立させた。さらに、渋谷にリアル店舗をオープン。米国玩具メーカー10数社と販売代理店契約を結び、卸販売業にも手を延ばしている。『たのみこむ』の機能を使ったマーケティング・商品開発・広告・販売戦略が大きな強みとなっている。USトイの次には、和洋のキャラクターグッズを集めたショッピングサイト『キャラネット』の開設に踏み切り、こちらも順調だ。

奥田さんは今後の展望を語る。

「菓子などの食品業界へ進出するかもしれません。今後も『たのみこむ』の機能を使って、カテゴリー内のナンバー1を制覇する“カテゴリーキラー”として横軸展開していきたい。僕たちが手がけているもののひとつひとつは、マニアックでニッチと言われるものかもしれない。けれど、それを蜂の巣のようにたくさんつくっていけばマスになれるのではないかと。さらにこうしたものは時間を経ることでマスにひろがっていく可能性がある。雑誌にたとえて言えば、ナンバーワンの専門誌を増やしていくことで、会社の規模を大きくするように成長していきたいと考えています」

現在は検索のしやすさなどから、キャラクター商品などに人気が集まっている『たのみこむ』。しかしそこには、さまざまなジャンルにわたる5万件のアイディアがある。今後、こうしたネット上の消費者の声が、メーカーや市場にどのような影響を及ぼすのか、興味深く見続けていきたい。





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